DJみそしる09

「ごちそんぐDJ」(Eテレ)をはじめ、楽しいラップで食の魅力を伝え続けているDJみそしるとMCごはんさん。初めて料理ラップを作ったのは、女子栄養大学での卒業制作でした。

 

小さい頃、誕生日プレゼントにイクラをもらうほど食いしん坊だったそうですが、実はもともと別の進路を考えていたといいます。

 

進路に女子栄養大学を進んだ理由は?なぜ料理とラップを融合させたのか?料理×ラップで目指すこと、食の未来について考えることまで、まるっとお聞きしました!

創作意欲も空腹も満たせるって最高の遊びじゃん

── 子どもの頃から食に興味があったのですか?

 

DJみそしるとMCごはんさん:

好きなものをたくさん食べたい食いしん坊でした。小学校のときは、誕生日プレゼントに大好きなイクラをひとパックもらって、ちまちま大事に食べていました。食卓でみんなが普通のごはんを食べているとき、自分だけイクラごはんを食べる優越感がうれしくて。

 

料理をするようになったのは、女子栄養大学に進学するために上京した18歳の頃です。最初は、おいしくないものしか作れなかったですよ。なすの煮浸しが作りたいのに、アルコールを飛ばしきることを知らないから、なすの酒浸しみたいなのができあがって、「最悪だ~」とか。

 

だけど、大学の調理実習のおさらいを家でしているうちに成功体験が積み重なって、料理が好きになりました。

DJみそしる10

── 小さい頃から料理の道に進みたかったのでしょうか。

 

DJみそしるとMCごはんさん:

子どもの頃から絵を描くこと、楽器を演奏することも好きだったので、もともとは芸術方面に進みたかったんです。でも、いざ高校生になってリアルに進路を考えたら「芸術家になるなんて私には無理だ」と思ってしまって。

 

そこで思いついたのが料理の道でした。食べるのが好きだし、手に職をつけられるし、物作り感覚で楽しみながら仕事にできる気がしたんです。お皿を選んだり、盛り付けをしたりするのは絵を描くこと、包丁で食材を切ったりするのは楽器を演奏することに似ているかもしれない、と。

 

大学に入ってみたらそれが意外と当たっていて。自分の創作意欲も空腹も満たせる料理って、最高の遊びじゃんと思いました。料理は食べれば残らなくて、場所をとらないのも気に入りました。

大学の卒業制作に歌よりラップを選んだ理由

── 大学では何を学んだのですか?

 

DJみそしるとMCごはんさん:

「食」をいろんな角度から研究する食文化栄養学科に入り、基本的な栄養学のほかに、テーブルコーディネート、企業の食品開発、料理写真の撮り方など勉強しました。大学は私にとって天国みたいな場所で、学費の元を取るように入り浸ってましたね。図書館にも食べ物の本しかないんですよ。

 

ビジュアルコミュニケーション研究室というゼミに入り、卒業制作で初めて料理のレシピをラップにしました。私のほかにも、人の生活に合わせたオーダーメイドのエプロンを作る人、卵やお米のより便利なパッケージデザインを考える人などがいる面白いゼミでした。

 

レシピをラップにしたのは、レシピを楽しく覚えられれば、ノリノリで料理ができるんじゃないかと思ったからです。

 

料理の経験が少ないと、レシピの文字を追うのに精一杯で、野菜に包丁の刃が当たった感触とか、ぐつぐつ煮えているお鍋の様子や音に集中できないんですよね。かといって、レシピを見ないとイメージ通りのものにならなくて、料理が嫌いになりそうになる。その悩みを解消したかったんです。

DJみそしる11

── なぜ歌ではなくラップだったのですか?

 

DJみそしるとMCごはんさん:

歌が得意ではなかったのと、リズム感は多少あったからラップならできるかなって。ヒップホップについて調べてみたら、メッセージ性の強い音楽なうえ、言葉数が多くてレシピ以外に料理や食材にまつわるウンチクや思いも曲に込められるのがいいなと思いました。

 

ゼミの先生が大学のMacに入っていたガレージバンドという音楽制作アプリの存在を教えてくれて、1年間かけてアルバム『Mother's Food』をつくり、ミュージックビデオをYouTubeに上げて卒業制作にしました。

「料理って楽しい」をラップで伝えていきたい

── これから、料理×ラップでどんなことを伝えていきたいですか?

 

DJみそしるとMCごはんさん:

ラップを作り始めて8年ぐらいですが、食がテーマなのでネタがまったく尽きないんですよ。年齢によって食べたいもの、作りたい料理が変わるのも理由かもしれません。今後も、自分とく人の興味に沿った音楽を作っていきたいです。

 

私自身も楽曲を通して料理をもっと楽しくやりたいし、く人が「料理ってこんなに楽しくやっていいんだ」「楽しそうだから料理をしてみたいな」と感じるきっかけになれたらうれしいです。

DJみそしる12

── コロナ渦で自炊をする人が増えたり、食からも環境への配慮が必要だといわれるようになったり、食に関する価値観も変化していきますね。

 

DJみそしるとMCごはんさん:

食の未来は、そのまま地球の未来につながる話ですよね。私の故郷である静岡の駿河湾では、環境の変化でサクラエビの水揚げ漁が減っていると漁師さんが話していました。長野ではワイナリーが増えているそうですが、温暖化の影響でワイン用のブドウづくりに適した地域が山梨からずれてきたからなのだそうです。

 

こうした話を聞くと、地球の問題が自分ごとに思えてきます。これからも生産に近い人の話を聞いて、勉強していきたいです。

 

今は、なるべく国産のものを買ったり、近場で育てられた野菜を買ったり、ゴミを減らしたり、自分のできることに取り組んでいます。食いしん坊として、ずっとおいしいもの食べ続けたいですから。

 

PROFILE

DJみそしるとMCごはん(でぃーじぇーみそしるとえむしーごはん)

「おいしいものは人類の奇跡だ!」をモットーに、トラック、リリック、アートワーク、Music Videoなどを自ら制作し、料理と音楽の新たな楽しみ方を提案する、くいしんぼうヒップホッパー。 “音楽×料理”番組「ごちそんぐDJ」(NHK Eテレ)にレギュラー出演中。著書に絵本『みよこ』『となりのおやつ』(ともに神宮館)がある。

取材・文/有馬ゆえ 撮影/河内 彩