不機嫌な人に左右されないようにするには

職場で意味もなく不機嫌な人。“話しかけるなオーラ”全開で、仕事で用があっても、相手の顔色を確認して声を掛ける。頑張って会話をしてもリアクションが薄く、早くその場を去りたい…。

 

こういうタイプとは、どうやって付き合えばよいでしょうか。ここはアドラー心理学で解決しましょう!アドラー派の心理カウンセラー・小倉広さんに話を聞きました。

相手の不機嫌より自分の機嫌をよくしよう

——職場で常に不機嫌な人がいて、一緒に仕事をするのに気持ちが滅入るケース。どのような対応をしたらいいですか。

 

小倉さん: 

不機嫌な人は無意識のうちに不機嫌を利用しています。つまり、自分が不機嫌でいることで周囲が気を遣ってくれるので、頼まれごとを避けたり、逆らえない雰囲気を出そうとしているのです。この策略にはまるのは悔しいですね。

 

そのためには、不機嫌を気にせず、普通に仕事をすればいいし、必要であれば「この仕事をお願いします」と仕事を頼めばいいのです。しかし、気になってしまいますよね。それが普通だと思います。では、どうすればいいのでしょうか。

 

簡単なことではありませんが、気にせず、普通に接する。必要ならば仕事を依頼する。それをトレーニングすることです。

 

私たちは不機嫌な人と接すると、脳の中で危険信号が鳴り響き、気になるようにできています。なぜなら、私たち人間は群れで生活することで様々な危険から身を守ってきたからです。これはホモサピエンスの時代、つまり今から20万年前からの習慣なので、“気にしない”と簡単には書き換えられません。

 

だからこそトレーニングが必要です。それを100回、1000回…と続けていくと気にならなくなります。1、2回の練習ではムリですよ。

 

——根本から思考を変えるのは難しそうですね。

 

小倉さん:

はい。簡単ではありません。そして、根本から変える必要はないのです。意識して頑張って気にしないようにする。そうすると気にならない。それで十分です。「学習の4段階」というものがあります。

 

  • 第1段階/「無意識的無能」とは、自分ができていないことにすら気づいていない状態。
  • 第2段階/「意識的無能」とは、自分ができていないことに気づいている状態。またやってしまった、とすぐにわかる状態。
  • 第3段階/「意識的有能」とは、意識していればできる状態。つまり、頑張って気を配っていればできるけれど、気を抜くとまた第2段階に戻るレベル。
  • 第4段階/「無意識的有能」とは、何も意識せずに無意識で自由自在にできること。

 

先の不機嫌な人への対応ですが、これまでは第1段階だったわけです。何が起きているか、どうすればいいかもわからずにただ混乱している状態。それが、今はわかったはずです。とすると、あなたはうまくできなかった時に第2段階。うまくできた時は第3段階になるわけです。それでいいのです。

 

つまり、第4段階の自由自在は目指さなくていいのです。そこに達するのに、私たちはこれまで生きてきた年数の半分もかかるだろう、と私の師匠の一人は仰っていました。それでは、平均寿命を過ぎてしまう人もいるかもしれない。

 

だったら、第2〜3段階で満足することです。その段階まで意識が進むとずいぶん気が楽になるのではないでしょうか。相手が不機嫌であろうとなかろうと、自分自身の気持ちの状態がわかっていくことで、対人ストレスは減っていくでしょう。 

自己犠牲を払わない範囲でサポートするのはあり

——苦手なことをしていて、不機嫌やイライラを募らせる人もいますよね?

 

小倉さん:

事務作業が苦手な女性がいるとします。その人が集計作業の数字が合わずイライラして、ムスッとした顔で「できない」と呟きながら、周りの空気を悪くしている。

 

さらに「私は細かい作業は苦手だから…」と言って、仕事が中途半端なまま投げてしまうとしましょう。こういう人は、弱さを利用して相手を動かそうとしているわけです。

 

すると周りの人は、「仕方がないから私がやるね」となってしまいがちです。しかし、あとから「なぜ私があの人の尻拭いをしなければならないの?あの人はずるい」と文句を言ってしまいますよね。

 

それがイヤだったらば、手を差し伸べなければいい。気にしないようにすることです。なぜならば自己犠牲を払って、我慢して相手に手を差し伸べる人は、他者に対しても同じことを求めてしまうからです。「私だってこんなに我慢しているのだから、あなたも我慢しなさい」とやってしまうわけです。相手に自己犠牲を強いてしまうのです。

 

これは人間関係を壊します。だからこそ、自己犠牲を払ってはいけないのです。自分で我慢できる範囲、受け容れられる範囲でしか手を差し伸べてはいけません。そして、手を差し伸べたのであれば、自己決定したのだから、後から不満を言わないことです。

 

——また、“苦しそうにしている人を放っておけない。放っておくと、まるで自分自身が悪人であるかのように罪悪感を感じてしまう”と、勝手に思ってしまっているのでしょうか。

 

小倉さん:

不機嫌という「弱さ」を使って人を動かそうとするのも「群れ」の中で居場所を作るための行動です。同様に、その不機嫌さにより罪悪感を誘発されて、やりたくもないのについ手伝うのも同じく「群れ」の中で居場所をつくる方法です。

 

ただし、前者は長期的にはうまく居場所を作れない非建設的な方法です。逆に、後者は長期継続的に居場所を作ることができる建設的な方法。

 

人間にとって、群れの中に居場所を作ることは最も重要なことです。ホモサピエンスは群れからはぐれると一人ぽっちになり、猛獣から襲われて命を落としました。しかし、常に群れの中にいれば安全です。

 

それは現代の人間にも習性として残っています。群れからはぐれることは死と同じような恐怖心を引き起こすのです。私たちのあらゆる行動や感情は、群れの中で居場所を作るための行動です。

 

しかし、ややこしいのは、時間のスパンです。本来、長期的に見れば不機嫌で人を動かす人は、群れで居場所を作ることができません。しかし、短期的に見ると居場所ができているのです。不機嫌を使うことで、相手がまんまと乗せられて罪悪感を感じて手伝ってしまう。優劣や勝敗の瞬間的な居場所づくりの成果を得てしまうのです。

 

そして、手伝った人は逆に短期的には居場所を失った感覚を持ってしまう。相手に利用され、相手の術中にはまり、“負けた、自分は劣った存在だ”と感じ、居場所を脅かされるのです。

 

しかし、本当はそうではありません。本当の結果は長期的に現れます。不機嫌を使う人は長期的には居場所をなくし、手伝う人は長期的には居場所を作ることができます。それをわかった上で、手伝ってもいいし、手伝わなくてもいい。自分で決めるだけのことなのです。

 

職場の困った人との人間関係を解決するアドラー心理学

 

PROFILE  小倉広さん

小倉広さん
組織人事コンサルタント、アドラー派の心理カウンセラー。株式会社小倉広事務所代表取締役。一般社団法人日本コンセンサスビルディング協会代表理事。一般社団法人人間塾代表理事。日経ビジネスセミナー講師、SMBCコンサルティング講師。大学卒業後、リクルート入社。事業企画室、編集部、組織人事コンサルティング室など企画畑を中心に11年半過ごす。その後、ソースネクスト(現東証一部上場)常務取締役、コンサルティング会社代表取締役などを経て現職。 

監修/小倉広 取材・構成/松永怜 イラスト/タテノカズヒロ