どんな場面でも口にすべきではない言葉だとは誰もが分かっているのです。

 

でも、疲れきっている最中に子どもが騒ぎ立てていると、「もう、いらない」と叫んでしまうことはないでしょうか。

 

心ない言葉に親子ともども傷ついてしまったとき、臨床心理士の帆足暁子先生は、親子の関係を見つめ直すことが大切だと言います。

「過去」は消せない 「これから」を考えて

いらない

「『いらない』という強く否定的な言葉は、子どもの記憶に残ってしまいます。

 

母親も、言葉を発したとたんに、「あっ!言ってしまった」という後悔とその言葉を言わせた子どもへの怒りとでぐちゃぐちゃな気持ちになっています。

 

まずは、消せない過去に向き合います。言葉を発した事実は消せないとしても、子どもの存在まで傷つけてしまったことは、親の本意ではないので、その点をしっかりと子どもに謝ることが大切です。

 

「子どもって大人より許容量が大きい。大好きな母親が真剣に謝ってくれると、傷ついてはいるけれど、母親の(言ってしまった!)というその思いもちゃんと受け取ってくれます。

 

そして、大切なことは、これからどうすれば、同じ状況になることを未然に防いで親子が傷つかずにすむのか。それを考えていくことですね」

 

帆足先生が言う「考えていく」とは、これから「どうやったら、私が我が子と楽しく生きていけるか」を考えていくことだと言います。

 

それは、お互いが傷つかないための方法を考えることでもあります。

 

例えば、具体的に1つ1つ、「イライラしたのはなぜだったのか」「私はどうしてほしかったのか」「子どもはなぜ、そうしてくれなかったのか」「子どもは本当はどうしたかったのか」など、同じような状況にならないために、お互いの気持ちを整理していく過程が必要なのだと思います。

抱きしめて話す 五感で愛を伝えることも必要

「抱きしめて話すことは、触覚・視覚・聴覚を使って、子どもの記憶に深く残ります。特に大好きな人に抱き締められることは触覚を通して、愛情ホルモンと言われるオキシトシンがお互いに分泌されて幸せな気持ちになっていきます。

 

子どもが恥ずかしくて嫌がるようになる小学3年生ぐらいまでは続けてみてください。

 

ママに愛されていたという記憶を持っている子ほど強い子、人はいませんから」

愛着障害がある親は、愛したくても接し方がわからない

ただし、子どもにマイナスの言葉を発してしまう人のなかには、愛したくても接し方がわからず悩み苦しんでいる親もいます。

 

「愛着障害」というように、自分が親から愛されて育った記憶がなく、愛着がうまく形成されていないと、自分の子どもにどう優しくすればいいのかわからないのです。

 

自分が親からされたように、子どもに厳しくあたってしまう場合もあります。

 

「育児のなかで、自分が親から怒鳴られたり、冷たくされた記憶が蘇ってしまうんです。その結果、自分が愛している我が子を見た時に、フラッシュバックが起こり、子どもに自分がされてつらかったことを再現してしまいます。

 

あるいは、自分が愛したいと思ったのに『私は親に可愛がってもらえなかったのにこの子はずるい』と感じてしまい、傷つけたくなってしまうこともあります」

あなたは悪くない 自分を受け入れてくれる理解者を見つけて

残念ながら、こうした幼少期の体験は変えようがありません。過去のことだからです。

 

大人になっても、つらい気持ちをずっと抱えていて、やっと親につらかったことをぶつけても、「覚えていない」などと返されてしまうことも少なくないと帆足先生は言います。

 

「過去を取り戻そうとしてまた傷つき、我が子に同じことをしてしまう自分に気づき、さらに傷ついてしまう…実の親に期待をして悪循環になるよりは、自分を守るために、このつらい連鎖を断ち切ることが必要です。

 

あなたの絶対的な味方だと信頼できる友人や夫、カウンセラーなどに自分のつらい気持ちを話して、過去を整理していきましょう」

 

かつての傷ついている子どものころの自分に「つらかったね。」「どんなあなたでも大切なんだよ。そのままでいい」と誰かに受け入れてもらう。そうすることで、我が子との関わり方にも変化が生まれてくるそう。

 

なぜなら、誰かに受け入れられた人は、人を受け入れることが出来るようになるからです。

 

「親に愛されなかったことで困難を抱えるあなたも、あなたの子どもも、決して悪くないんです。だからこそ、自分を責めないで。自治体の育児相談やカウンセリングなどもありますから、自分の理解者・育児の伴走者を見つけて欲しいと思います」

 

最後に一つ、子どもとつながるヒント。

 

毎日必ず2回。朝は「おはよう。ママの大好きな◯◯ちゃん。今日もいいことありますように」

 

そして、夜は「おやすみ、ママの大好きな〇〇ちゃん。今日は楽しかったね。また、明日」と子どもを抱きしめる習慣を作ります。

 

この体験が子どもが親に愛されていた記憶になります、と帆足先生。

 

PROFILE 帆足暁子さん

帆足先生
保育士資格や幼稚園教諭1種免許を持つ臨床心理士。親と子どもの臨床支援センター代表理事。長年、育児やこころの相談に応じている。主な著書に「0.1.2.歳児愛着関係をはぐくむ保育」(学研)などがある。

取材・文/天野佳代子 イラスト/石川さえ子