以前より話題になっていた男性版「産休」。

 

2021年6月3日、改正育児・介護休業法が国会で成立し、いよいよ正式に男性も産休が取れることになりました。

 

しかし、実際のところ「これでパパも産後一緒に子育てができる!」と喜べる夫婦ばかりではないようです。

 

今回は、新しく決定した男性版産休とはどういうものか、職場や家庭ではどのような問題点が残されているのかを、現場のパパ・ママたちの声もまじえて紹介します。

「男性版産休」とは?今回決まったこと

今回(2021年6月)国会で成立したのは、おもに次のような改正内容です。

 

  • 子供が誕生してから8週間以内に2回まで、最大4週間の「出生時育児休業」(男性版産休)を新設する
  • 希望する従業員は、原則として2週間前までに会社に取得を申し出る
  • 企業は従業員の性別を問わず、産休取得を個別に促し、制度の説明をする義務が生じる
  • 企業が上記の働きかけを怠った場合は必要に応じて社名を明らかにする
  • 従業員が1000人を超える企業は男性の育休取得率を毎年公表する義務が生じる
  • 子供が1歳になるまでに原則1回しか取れなかった育休も2回に分けて取れるようにする
  • 非正規労働者は同じ職場での勤務が1年未満でも育休が認められる

 

これらが2022年の4月から順次導入されます。

 

特に大きな変化は、男性も産休が取れることに加え、企業にも産休・育休の「周知」が義務づけられたこと。

 

2019年度の男性育休取得率は全体で7.48%、国家公務員に限定すると約28%でした。

 

海外の国と比べると、2021年7月から男性育休が義務化され100%になるフランスをはじめ、スウェーデンの約88%、ドイツの約34%などと比べても非常に低い状況です。

 

制度面では世界一といわれるほど充実しているのに、ほとんどのパパが育休を取れない状況を、会社側から「産休や育休はこういう制度で、希望すれば誰でも取れますよ」と個別に伝えることで取りやすくなるのではないか…というのが今回の改正のねらいです。

 

そして政府は「2025年までに男性育休取得30%」という目標を掲げ、産後の女性の負担を減らし、少子化解消につなげたいと考えています。

「男性版産休」の課題1:パパは職場でどうなる?

こういった改正はもちろん一歩前進といえます。

 

ただ、いくら会社が「希望すれば最大4週間産休が取れますよ」と伝えたとしても、本人が希望を出さなければ休業は実現しません。

 

厚生労働省のデータでは、男性新入社員の約80%が「子供が生まれたら育休を取りたい」と希望しているそうです。

 

ところが、実際にはその10分の1以下の人しか育休が取れていない背景にはなにがあるのでしょうか?

 

「男性社員の仕事と育児の両立支援を推進する上での障壁・課題」と考えられることをさまざまな業種の企業から集めたアンケートでは、次のような理由が挙げられています。

 

  • 人手不足で代替要員の確保が難しい
  • 資金不足で同等の人材を採用できない
  • 休業中に部署内の他のメンバーの労働時間が増える
  • 代替要員を入れた場合、復職時のポジションが用意できない
  • 業務の共有化ができていない
  • 男性本人が昇進への影響や金銭面から仕事を離れたがらない

 

特に、人数の少ない中小企業では人材の補充や復帰したときにどうするかという問題が大きく、大企業では昇進への影響や世帯収入減少を危惧する傾向があるようです。

 

また、職場の意識の問題も大きく、まだまだ「一家の大黒柱は休んでいないで稼がないと」「男がそんなことで仕事に穴を開けるなんて」という空気に押され、取得したいと言い出せなかったという男性も多いようです。

 

今回の改正では、パートや契約社員などの非正規労働の男性も、これまでは同じ職場で1年以上働いた場合のみ育休が取得できたのが、1年未満でも認められるようになりました。

 

ただこれにも「労使間の協定があれば引き続き対象外とすることができる」という条件がついており、少し想像すれば、面接時に「うちは忙しいので男性に産休や育休は…」と言われた男性は「では取得しません」と答えてしまうことが予想されます。

 

2年前に育休を取得したKさん(2歳児のパパ)は、当時を振り返ってこう話します。

 

「フロアにもほとんど育休を取った人はいませんでしたが、思い切って3か月の育休を取得しました。年配の男性社員に、のんびり休暇か、うらやましいねという嫌味を言われたことも。実際の育児はのんびりしてる暇なんてないので、その人は育児に関わってこなかったんだろうなと想像がつきましたね」

 

そして復帰時、Kさんは以前の仕事に戻ることはできず、次年度に配属が変わるまでは部署内の事務作業がメインだったそうです。

 

「代替要員の賃金やフォローに回る同僚への手当など、国から補助金が出るような仕組みがあればもっと普及するのでしょうけどね…」

 

「それでも、子供に関われた時間は本当にかけがえのないものでした」

 

と、Kさんは育児の価値を実感したそうです。

 

「よく子供はやっぱりママじゃないと…とか言いますけど、ちゃんと向き合えば男性でも子供のことはよく分かるし、人生の宝物のような経験になります。忍耐力や思いやり、マルチタスク能力も身につき、仕事の質も上がります」

 

「なのに、育児がしたいなら仕事はあきらめろといった空気があるのが残念ですね。趣味や遊びみたいに捉えている人が多いのでしょうか。女性はこんな思いをしている人がたくさんいるのかと思うと、やりきれない気持ちになります」

 

と、社内の女性の立場や気持ちも分かるようになったということです。

「男性版産休」の課題2:家でのママの本音は…

いっぽう、出産する妻の立場から見ると、男性の産休はどう捉えられているのでしょうか。

 

ママたちに今回のニュースについて聞いてみると、次のような声が相次ぎました。

 

「産後のしんどい時に、夫にいられるのって想像してみると正直、微妙です…。私と赤ちゃんだけなら、お昼は残りものを放り込んで、お昼寝のときに一緒に横になれるけど、夫がいると何か作らなきゃって思うし、ドアをバタンバタン開け閉めするし、大きな音でテレビ見るしで赤ちゃんも私も目が覚めてしまいそう」(Mさん・1歳児のママ)

 

「授乳中に洗濯や食器洗いをしてくれたり、お風呂に入れてくれてる間に私が食事を作ったり…そういう連携プレーが理想ですが、実際は頼んだときにすぐ動いてくれなかったり、朝寝坊してそう」(Tさん・0歳児のママ)

 

「産休と称して、自分だけ遊びに出かけちゃうとかは論外ですよね!あと、お風呂入れるだけで後始末はぜんぶ妻がやってるのに、SNSでイクメンです!ってドヤってたら許せないかも」(Hさん・1歳児のママ)

 

令和のパパはそんな人ばかりではないと思いたいですが、ママの本音はちょっと複雑なようです。

 

男性が家事育児に積極的に関わると、長期的に以下のようなメリットが得られるというデータがあります。

 

  • 妻がキャリアを継続しやすくなり、世帯収入が安定する
  • 産後クライシスを回避でき、将来的に円満な家庭が続く

 

育休を取りながら夫婦で正社員で働き続けた場合と、ワンオペでの育児が難しくなり妻が退職した場合の生涯年収の差は2億円近くなるという試算もあります。

 

上記のKさんのように育児にしっかり向き合う夫であれば、一時的に世帯収入が下がっても、それを補うほどのメリットがあるといえるでしょう。

おわりに

産後のもっとも大変な時期に妻をサポートでき、わが子とのかけがえのない時期を過ごせる産休・育休を男性が安心して取得できれば、長い目で見て家庭にも企業にも大きなプラスになります。

 

まだまだ完全に実現するまでには課題もたくさんありますが、コロナ禍で多くの仕事がリモートでも可能ということにみんなが気づき始めた今、新しい働き方と、男性の産休・育休はうまくマッチするのではないでしょうか。

文/高谷みえこ
参考/厚生労働省「男性の育児休業取得促進 研修資料」 https://ikumen-project.mhlw.go.jp/company/training/download/promotion_smes201902.pdf