中学受験2021_06_04

かつては「裕福な家庭」「優秀な子」のためのもの、というイメージが強かった中学受験。しかし最近では、多くの家庭がチャレンジするようになっています。

 

気になるけれど、何から始めればいいのかわからない。そんな保護者向けに、「中学受験の正体」をイロハから進学塾VAMOSの代表富永雄輔さんに教えていただきます。

 

今回は、祖父母世代にも知られている伝統校と、祖父母世代には馴染みがないけれどリニューアルなどによって躍進している新興校について。教育内容や進学実績に、どのような違いがあるのでしょうか…?

積み重ねた「財産」への信頼がある伝統校

「祖父母の代からこの学校に通っています」といった熱烈なファンを持つ伝統校。宗教や建学の精神をベースに、長年にわたって培われてきた独自の校風、行事、教育内容などが「見えない財産」となり、多くの家庭を引きつけています。

 

もちろん、社会の変化に合わせてICT(情報通信技術)やグローバル教育を取り入れたりはしていますが、伝統から大きくはみ出すことはありません。

 

進路指導も、基本的には東大を頂点とする偏差値ピラミッドに沿って展開されるところがほとんどです。

老舗の格式が「好き」か「めんどう」か

伝統校はいわば老舗なわけですから、「老舗には老舗らしくしてほしい」という人が、OB・

OGを含めて数多くいます。

 

 

だからその老舗らしさ、格式の高さを、生徒はもちろん保護者にも求められることが多い。とくに小学校がついている女子校などは「母親は紺のスーツで来校」というような暗黙のルールがあったりします。

 

そして、伝統や行事を変えようとすると、お年寄りのOB・OGまで出てきて大騒ぎになったりします。それを「当然」「好ましい」と感じるか、「面倒くさい」と感じるかは人によりますね。

変わりゆく社会に敏感に反応する新興校

新興校は、社会の変化にいち早く対応して、今までの教育を破壊して新しいことをやろうとしているところが多い。

 

タブレットや電子黒板は、伝統校を含めどこの学校も導入していますし、公立校でも一人一台支給される時代です。

 

ですが、新興校は使いこなし方が違う。多くの学校が行う調べもの学習や資料作成のみならず、授業の教材や課題提出・添削などでも存分に活用しています。

 

そういう意味で言うと、渋谷学園渋谷や渋谷学園幕張、広尾学園などはICTをうまく取り入れています。

広尾学園の海外大学合格者数が急増

進路の多様性においても、伝統校とは違いがあります。

 

先ほども触れましたが、伝統校というのは良くも悪くも、昔ながらの偏差値ピラミッドや価値観に沿って進路指導を行っています。もちろん、それはそれで大事なことです。なんだかんだ、日本にはまだ伝統的な価値観をよしとしている場所はありますから。

 

でも新興校の中には、社会の変化を敏感にキャッチして、そういった価値観にとらわれない進学実績を積んでいるところがあります。海外大学や、国内大学の推薦を戦略的に目指すなど、従来の大学入試とは違う戦い方をしはじめているんです。

 

東大に受かる力のある生徒に、日本ではあまり知られていない海外大学を勧めたり、早い段階から推薦入学を狙わせて慶應に入れたりしています。

 

今年一番驚いたのは、広尾学園ですね。このコロナ禍にあって、海外大学合格者を217名出しました。去年3年は7080名だったのが急増です。ちなみに東大は3名、早稲田67名、慶應50名でした。振り切った進路指導をしていますよね。

「卒業生の活躍」はこれから

教育内容や進路指導において、スピーディに新しい戦略を打ち出しているのが新興校ですが、掛け声だけで終わっている学校も少なからずあります。伝統校と違って、教育の良し悪しを卒業生の活躍ではかることもできません。

 

ですから、新興校は必ず保護者が自分の目で、ホームページはもちろん、学校説明会、授業、学校行事などを見て、教育の中身を確かめてください。そして、学校が目指しているものを保護者が理解することが大切です。

優秀な女子は新興校へシフト

10年前だったら、伝統の重みと進学実績、知名度などで、迷わず伝統校を選ぶ保護者が多かった。

 

しかし、社会が大きく変化する中、その変化に柔軟に対応する新興校に魅力を感じる保護者が増えています。進学実績も人気も上がり、レベルはどんどん高くなっています。

 

例えるなら、わが子の就職先として、官僚・財閥系企業(=伝統校)を勧めたいのか、GAFA・外資コンサル(=新興校)を勧めたいのか、ということです。

 

どちらにもそれぞれの良さがあります。

 

答えは各家庭の価値観次第で、正解はありません。教育内容と出口を見て、しっくりくる方を選ぶといいと思います。

 

ちなみに、女子に関しては、優秀な子が新興校を選ぶようになってきています。伝統校の格式を「めんどう」と感じる子がじわじわと増えているのかもしれません。

 

女子校でも桜蔭、豊島岡女子の人気は不動ですが、それ以外なら例えば渋谷学園渋谷が選ばれるようになりつつある。この流れが続くと、新興校の偏差値はさらに上がり、高偏差値の子どもがさらにその新興校を目指すとなる可能性がありますね。

 

中学受験の正体_matome1

古き良き伝統をベースに、長年の経験に裏打ちされた教育を展開する伝統校。一方、時代の変化に敏感に対応する新興校。

 

それぞれの特徴を理解した上で、家庭の教育方針に合った学校を選ぶことが大切だといえそうです。

 

中学受験の正体バナー
監修/富永雄輔 取材・構成/鷺島鈴香 イラスト/サヌキナオヤ