中学受験2021_06_01

かつては「裕福な家庭」「優秀な子」のためのもの、というイメージが強かった中学受験。しかし最近では、多くの家庭がチャレンジするようになっています。

 

気になるけれど、何から始めればいいのかわからない。そんな保護者向けに、「中学受験の正体」をイロハから進学塾VAMOSの代表富永雄輔さんに教えていただきます。

 

今回は、通塾させていない家庭にとっても気になる存在、公立中高一貫校について。私立校とはどう違う?学費がかからないというけれど、教育内容はどうなの…?といった疑問を解決します。

制度化から約20年、現在は600校以上に

20年くらい前から、徐々に増えてきている公立中高一貫校。

 

中学募集のみのタイプ、中学・高校両方で募集を行うタイプがあります。また、高校募集もしていたけれど途中でやめてしまう東京都立大泉のようなケースも
 

地元の公立高校が一貫校になって、「あれ?高校受験で入れないの?」「高校募集もやっているけれど、募集人数が減って入りづらくなっちゃった」と戸惑っているご家庭もあるかもしれませんね。

 

そもそも公立の中高一貫校は、保護者の学生時代にはなじみのなかったもの。しかし、私立の中高一貫教育が多くの家庭に支持されていることなどを踏まえ、文科省でも一貫教育の意義が検討されるようになりました。

 

その結果、より多くの子どもたちが中高一貫教育を選択できるよう、1999年に制度化されたのです。

 

当初はわずか5校だった公立一貫校ですが、その後も増え続け、2018年には全国で635校になりました。単純計算で、各都道府県に10校以上あるというわけです。

ただし、成功している公立校ばかりじゃない

「私立と違って学費がかからないから、うちも目指してみようかな」と考える保護者もいるでしょう。

 

そうした保護者にまず知っておいてほしいのは、「公立一貫校」をひとくくりにはできないという現実です。

 

私立校の場合、教育の土台となる宗教や建学の精神があって、教育の特色がはっきりとしています。一方、公立校にはそうした目立った特色はありません。もともとあった公立高校に中学校を作り、高校からの募集をなくした(または減らした)というスタイルが主流だからです。

 

一貫校化するにあたって、各学校とも頑張って色を出そうとはしています。「グローバル」とか「理系」とかですね。地方の公立一貫校に関しては、そもそも学校が少ない中で進学校的な役割が求められるため、大学受験対策をしっかりさせる傾向が強いようです。

 

こうした方針がうまくいって魅力的に見えている公立と、うまくいかずに苦戦している公立が出てきています。

 

その差が徐々に広がりはじめていて、大学入試の進学実績や、入学時の偏差値の差になっています。

 

ですから、「公立ならどこでも一緒」という先入観は捨てて、11校、教育内容や進学実績を見極めたうえでチャレンジする必要があるんです。

学習指導要領を超えた学習展開も期待できる

皆さんの中には「私立はどんどん先取りさせる」「公立は文科省の学習指導要領に従わなくてはいけない」というイメージもあるかもしれません。

 

でも、その状況は変わりつつあります。

 

公立一貫校が学習指導要領をベースに授業を進めることは確かですが、最近はかなり教育内容がこなれてきていて、授業も非常に工夫されています。高校からの入学がない完全中高一貫校なら、カリキュラムを整理して多少の先取りも行われています。

 

一方、私立側もいわゆる詰め込み型の先取り学習からアクティブラーニングスタイルに変え、「先取り」よりも「深掘り」を目指す学校が増えてきました。

 

中高一貫校において、公立と私立の違いは良くも悪くもなくなりつつあります。

小石川が開成より人気になる!?

教育内容に私立との差がなくなりつつある上に、学費は私立の半分程度。これが公立中高一貫校の最大の魅力でしょう。

 

僕は公立中高一貫校の人気は今後ますます上がると見ています。

 

というのも、今、世の中では共学進学校への期待がすごく高まっているからです。

 

私立校で優秀な子どもの進学先といえば、これまでは伝統ある開成や桜蔭といった男女別学しかなかったのですが、最近は渋谷学園幕張、渋谷学園渋谷、広尾学園などの男女共学校の人気が急上昇しています。

 

公立一貫校なら、共学進学校で、なおかつ学費が安いわけです。目指す人は当然、増えるでしょう。

 

偏差値が上がれば入るレベルの生徒も上がる。すると、より高い進学実績が出る。さらに、そこを目指す子どもが増えて偏差値が上がりと、相乗効果で人気を集めていくはずです。

 

教育がうまくいっている公立中高一貫校の代表格は東京都立小石川ですが、僕は、都立小石川などはいずれ開成より人気が出る、そんな流れを感じています。

進学する子どものタイプは

進学している子どもの傾向をみると、勉強ばかりしているタイプというよりは、精神年齢が高く、地頭のいい子どもが多い印象があります。

 

コミュ力が高くて、クラスの揉め事をうまく調整できる、あるいはそういう揉め事に巻き込まれず上手に傍観できる。入試自体もそういった地頭のいい子ども向けに作られています。入試をパスしたコミュ力の高い子ども同士刺激しあって、キラキラした中高生ライフを送っていますね。

 

少し前なら、公立のナンバー1高校がそういう子どもの受け皿でした。それが、中高一貫校化が進むことで、流れが変わってきているのだと感じています。

 

中学受験の正体_matome1

私立校と同じように中高一貫教育が受けられ、学費が安いことから注目を集めている公立一貫校。ただし、その教育内容や進学実績は学校によって異なるので、学校説明会などの機会を利用してしっかりチェックする必要がありそうです。

 

中学受験の正体バナー
監修/富永雄輔 取材・構成/鷺島鈴香 イラスト/サヌキナオヤ