「司会は天職!」とニッコリの七海薫子さん

出身地・和歌山県をメインに女優、キャスター、MCとして活躍する七海薫子さん。場面緘黙(ばめんかんもく)症という精神疾患を抱えながら、人前で話す仕事を選びました。七海さんが「司会の仕事は天職!」と胸を張れるようになるまでの道のりについて聞きました。

過去の自分を受け入れることで楽になった

続けられたのは「やりたい!」という気持ちの強さのおかげ

── 場面緘黙は、特定の場所で話すことができなくなる精神疾患です。この症状を公表している七海さんですが、今は人前で話すことを「怖い」とは感じないのでしょうか。


七海さん:

この症状は完全になくなることはありません。ですが、場面緘黙症をテーマにした映画を企画し、過去の自分を受け入れたことでだいぶ楽になりました。多少は克服できたという感覚はあります。


でも、今、人前に出るときに感じる怖さは、人付き合いに悩んでいた頃とは少し違う気もしています。


── 怖いという思いがあるなか、人前に出る仕事を続けられる理由はありますか?


七海さん:

自分の司会や演技をよろこんでくれる人がいることに、自分の存在意義を感じます。求められたり、認められないと、生きている実感が湧かないと私自身は考えています。


司会も芝居も本当に大好きな仕事で、司会に関しては天職だと思うほど大好きな仕事です。とにかく好きという気持ちが、この仕事を続けられる理由だと思います。芝居は本当に難しいけれど、やりがいもあるのでやめられません(笑)。


── 人前に出る仕事が大好きでも、七海さんの場合は、精神的に楽なことではないと思います。辞めてもっと楽な道に進むという選択はなかったですか。


七海さん:

辞めたら楽になると思う瞬間はありました。でも「好き!」「やりたい!」という気持ちのほうが強かった。それが辞めずにここまでこられた最大の要因だと思います。

経験を重ねるなかで生み出した克服方法

経験を重ねることでできないこともできるようになる

── 「司会は天職だ」と思えるようになるまではどのような道のりでしたか。


七海さん:

人前で話すことへの苦手意識を克服して、プロの司会者としてがんばりたいとずっと思っていました。修行のつもりで交通費だけで仕事を引き受け、場数を踏むことを積極的にしていた時期も。そこで思ったのは、経験を重ねることでできないこともできるようになるんだということ。本当にしつこく、何度も舞台に上がりました。


経験を重ねるなかで、自分なりの克服方法も考えました。例えばお祭りの中継でリポートをするときには、事前に誰を見て話すかを決めるんです。


下見のときに、屋台の人のなかから、緊張をほぐしてくれそうな方を見つけて「リポート中は、あなたを見ながら話します!」と伝えておきます。すると、リポート中、私のほうをじっと見ながら聞いてくれるので、安心して話せるんです。


そうすると「味方がいる!」という気持ちになれるんですね。もちろん、協力してくれた方の屋台の宣伝に協力するという形でお礼もします。自分に合った工夫を見つけることで、気持ちに余裕が生まれるようになりました。

“アルバイトはしない”覚悟で結果が出た

── 自分からの発信や、交渉ごとももともと苦手ではなく、むしろやりたかったことだというのが伝わってくるお話です。


七海さん:

本当にそうなんです。場面緘黙症だともっと早く分かっていたら…と振り返って思うことは多くあります。


でも、それは今言っても仕方のないこと。むしろ、私の経験を話すことで、誰か、もしくは誰かのお子さんの症状に気づくきっかけになれば、という思いがあります。この疾患は、年齢に関係なく抱えてしまうものですし、私のように改善される人ばかりではありません。気づくことで自分に合った対処法を見つけて、少しでも楽になってもらえたらと思っています。


引っ込み思案と見分けるのはかなり困難だと思いますが「もしかして?」と気になるところが少しでもあるなら、症状がひどくなる前に気づいてあげてほしい。


場面緘黙症は家ではなく、学校や職場で症状が出るので、家以外の場所でどう過ごしているのか、どんな様子なのかを確かめるところから始めると良いかもしれません。


── 企画から携わった映画を世に送り出し、多少なりとも場面緘黙症を克服したと感じている七海さんが次にやりたいことを教えてください。


七海さん:

30代はアルバイトをしないという目標を掲げて過ごしてきました。それは、自分の本業に集中するという目的があったからです。金銭的に楽なことではなかったけれど、覚悟を決めて一度しっかり向き合いたいという思いでした。そのように切り替えてから、朝ドラ「あさが来た」に出演させていただくなど、目に見える結果が出たので、やっぱり覚悟って必要だなと痛感しました。


仕事は待っていても来ないから、自分で生み出そうという考えに至り、映画も1本作ることができました。そんな30代を過ごして40代に突入し「さて、何をしよう」とまさに今、考えているところです。


仕事が人生のようになりつつあるので、仕事中心の生活を送るような気がしています。結婚や子どもも機会があったらとは思っていますが、今は、自分発信でモノづくりをしてくことが私のやるべきことだと考えています。信頼できる仲間と、人の役に立つものを作っていきたい、それを地元・和歌山から発信できたら最高です。


PROFILE 七海薫子さん

1982年生まれ、和歌山県出身。武庫川女子大学文学部英語文化学科卒業。アナウンサーとしてテレビ埼玉スポーツ情報番組アシスタントを担当。現在は女優、MCとして活動。子どもたちの明るい未来をテーマに、FM79.7「放課後キッズ地球探検ラジオ」のパーソナリティーを務める。

 

取材・文/タナカシノブ