相手が高圧的な態度だと苦手な人も多いだろう

同僚や友人に高圧的な態度でマウントをとる人。毎日顔を合わせねばならず、次は何を言われるんだろうとビクビクする。帰宅からも思い出して落ち込む…。相手が言っていることは、正論のときもあれば、納得がいかないときもあります。このようなタイプとは、どのように付き合えばよいでしょうか。ここはアドラー心理学で解決しましょう!アドラー派の心理カウンセラー・小倉広さんに話を聞きました。

自分で対処せず、リーダーに説明を

—— 職場で高圧的な態度を取る人や、なぜかマウントを取ってくる人に困るケース。どのように付き合ったらよいでしょうか。

 

小倉さん: 

高圧的でマウントをとる人は、そういう態度をとることによって対人関係の課題から逃げている「優越コンプレックス」の状態にある、とアドラー心理学では考えます。人は誰もが対人関係の課題を解決しながら生きています。

 

しかし、その課題に直面せずに逃げる場合に二つの方法があります。一つは弱さを使う「劣等コンプレックス」。もう一つが強さを使う「優越コンプレックス」。いずれも、対人関係の課題から逃げている。本当に課題に向き合う人は「協力的」に「みんなが幸せになるために私には何ができるだろう」と考え、行動する。アドラー心理学ではこの人だけが勇気がある人である、と考えます。

 

しかし、高圧的な相手を変えることはできないでしょう。誰も他者を変えることはできません。唯一変えることができるのは自分自身です。ですから、高圧的な人を変えようとするのではなく、自分自身の受け止め方を変えるか、もしくは、自分自身の行動を変えるしかないでしょう。

 

「相手を変えることはできないが、私にできることは何だろうか?」と考えることをアドラー心理学では『課題の分離』と言います。相手が高圧的な態度を取るか、取らないか、は相手が決めることです。しかし、私にできることもあります。

 

それは「やめてください」と相手に伝えることかもしれないし、相手に何を言われようと気にしないことかもしれない。相手のそばに近づかないようにそっと離れる、という手もあります。そのいずれを選ぶかはあなた次第。つまり、あなたの課題なのです。

 

もしも、「そっと離れる」手を選択するなら、大きな会社ならば異動願いを出すのも一つの手。ほかにも、一時的な問題ならば、トイレに行く理由でその場を離れたり、外出や会議を言い訳にしてその場から離れる方法もあるでしょう。職種的に難しい人もいると思いますが…。

 

どうしても許せない状況で過ごすのがムリなら、究極は会社を辞める選択もあります。こう話すと、「生活事情や転職リスクがあるからできない」と話す人もいますが、それは「人生の嘘」である、とアドラー心理学では考えます。

 

「●●があるから××できない」は、●●を理由として人生の課題から逃げている『劣等コンプレックス』です。そうではなく「“私は転職しない”ことを私自身が選んで決めている」と考えてほしい。大切なのは、“自分で選んでいる”とわかることです。

 

「●●のせいで××できない」態度を選んでいる限りは、いつまでも被害者のポジションです。そうではなく、自分でできる方法のうち、最善の方法として「私は転職しない、会社に残る」選択をしているのです。

 

もう一度、この場合に可能な選択肢を確認しましょう。次の3つになります。1つ目は会社を辞める選択。その代わり転職に時間がかかる、給与が下がるなどのリスクはあります。 2つ目は、相手の言動を気にしないようにする選択。3つ目は相手に「止めてください」と直接伝える選択です。

 

世の中には完璧な方法はなく、どれを選んでもリスクがあります。そのリスクを取るかどうかもあなたが決めることができるのです。しかし、私たちは、本来は自己決定できるのに、できないふりをして被害者のポジションを選びがちです。

 

この被害者の位置は、一時的には楽な道ですが、中長期的にはすごくつらい。被害者のポジションで一時的に同情を得ることはできるかもしれませんが、課題に直面していないため何も変わらないからです。

 

しかし、自己決定していると思えば我慢できますよ。転職だってできる。「やめてください」とはっきり言うこともできる。しかし、それぞれのリスクがイヤだから、「気にしない」道を“自分の意思”で決めたのです。そう思えば、人のせいにできず、受け容れることができるのです。人は自己決定した時にだけ納得できます。自己決定している、とわかることが大切なのです。

鈍感な人ほど高圧的な態度を取られても平気でいられる

——ときどき、高圧的な相手から、何を言われても右から左へ抜けていく人がいます。その人はある意味、対人関係スキルが高いということでしょうか。

 

小倉さん:

課題の分離ができていて、人との境界線が引けている人。極めて対人関係の重要な能力を持っていますね。鈍感な人、と見えるかもしれませんが、対人関係の達人と言えるかもしれません。例えば、何か仕事のミスを起こして高圧的な上司から叱られても、自分ができないことは反省するけど、必要以上にメンタルは萎縮しない。結果、パフォーマンスが落ちない。まさに達人です。

 

——いっぽうで、人によっては、高圧的な人から仕事のミスを問いただされると、人格まで否定されたような気持ちになると言います。

 

小倉さん: 

それこそ、まさに課題の分離です。高圧的に話すか、話さないか、は相手の課題です。しかし、それを気にするかしないかは私の課題です。気にしないように努力すれば良いのです。 

 

そして、先と同じですが「やめてください」と言うこともできるし、言わないことを選ぶこともできます。いずれにせよ、自分で選んでいるのです。アドラー心理学でよく使われる言葉に「闘わない。服従しない。 Don`t Fight , Don`t give in」という言葉があります。

 

「やめてください」という場合も、ケンカ腰で闘うのではなく冷静に伝えるのです。服従するのではなく、勇気を持って話し合う。もしくは、そっと離れる。いずれの方法も自己決定です。

 

すべて自分で決めたこと。自分で結果を引き受ける覚悟が必要です。毎回断るのが不安なら3回に1回は受ける方法もあるし、それも全て自分が決めることができます。相手にイエスと言わされたのではなく、イエスとノー、どちらを言ってもいい状況で自らの意志で決めています。

 

高圧的な態度でマウントを取る人と接する場合も、対処法を覚えておけばストレスの軽減につながるでしょう。自分の気持ちに蓋をせず、自己決定していくと自分のペースで過ごしていくことが大事です。

 

職場の困った人との人間関係を解決するアドラー心理学

 

PROFILE  小倉広さん

小倉広さん
組織人事コンサルタント、アドラー派の心理カウンセラー、エグゼクティブ・コーチ。株式会社小倉広事務所代表取締役。大学卒業後、リクルート入社。事業企画室、編集部、組織人事コンサルティング室など企画畑を中心に11年半過ごす。その後、ソースネクスト(現東証一部上場)常務取締役、コンサルティング会社代表取締役などを経て現職。「もし、アドラーが上司だったら」(プレジデント社)ほか著作44冊、累計販売100万部。

監修/小倉広 取材・構成/松永怜 イラスト/タテノカズヒロ