会議でも発言せずにずっと下を向いている。聞いているのか聞いていないのかもわからない。皆で雑談をする場面でも、輪に入ってこない…。正直気を遣う。たまに話を振ってみても、答えが「はい」「いいえ」で続かず、会話のキャッチボールもできません。
こんなタイプとは、どう付き合えば良いでしょうか。ここはアドラー心理学で解決しましょう!アドラー派の心理カウンセラー・小倉広さんに話を聞きました。
仕事に関しては「無口でOK」とはいかない
——無口でコミュニケーション能力が低い人がいます。何を話しても反応が薄く、どのように接して良いのか気を遣ってしまいます。
小倉さん:
無口な人は過去の対人関係で傷つき、喋らないことで自己防衛をしている可能性があります。もし、そうだとしても、それ自体は悪いことではありません。その人はその人なりのスタイルで生きているので、無理にコミュニケーションや会話を促す必要はないでしょう。
ただし、アドラー心理学の考え方として、対人関係で関わりすぎる「過干渉」も「見捨てる」こともしません。フラットな気持ちで、彼らを仲間としてリスペクトすることが大切です。
例えば、仕事の同僚であるならば「相手を能力がない人」として過剰に保護しようとせずに、対等な立場として、やるべきことはやってもらう。必要なことは免除せずに、義務も果たしてもらうよう要望(リクエスト)するのが良いでしょう。
会議の場だったら、「あなたは発言しなくていいわよ、無口でいいから」は、上から目線の余計なお節介。は「何か意見はありますか?」と聞きます。それでも反応が返ってこない場合は「代替案」として、「意見がないなら、こちらの方で進めますが賛成ですか?」と、意思を確認して対等に接し続けて欲しいですね。
雑談に入ってこない人も、その人らしく生きているわけですから何の問題もありません。アドラー心理学はそれぞれの立場で異なるまま存在する多様性を認めていますが、そっと「離れる」「近づかない」方法もあります。相手が無口でつまらないと思ったら離れてもいいのです。
ただ、仕事という契約関係がある以上、会議への積極的な参加など、一人のプロとして義務は果たしてもらうことはきちんと要望しましょう。その上で、ある意味仕事上のお付き合いとして、割り切って仕事の面だけで関わっても良いでしょう。
——世の中には、皆とワイワイ仲良くする人や、明るい人が好印象を与えるといった雰囲気がある気がします。
小倉さん:
その考えが多数派だったとしても、だからといってそれが正しいとは限りません。なので、話さない人に対して「話させよう」と過剰に頑張ってしまうと、「過干渉」になってしまいます。
本来、人の価値観は百人百様違ってもいいはずです。なのに、なぜか私たちは自分の価値観こそが正しい、と考えてしまいがち。「過干渉」の人は、自分がお節介の自覚がないまま相手と接し、結果として押しつけになる可能性がありますから、気をつけなければなりません。
ただし、あまり話さない人に対してもチャンスは平等に与えたいですね。もし皆が喋っている輪に入りたくても入れなさそうなら、控え目な協力として声を掛けます。「〇〇さんはどう思う?」と。
それでも、積極的に参加したくなさそうであれば、相手も好きでやっていること。それ以上の余計なお世話は不要ですね。相手が考えるそれぞれの価値観、スタイルを尊重していきたいですね。
自分から声かけしていくと、相手の考えもみえてくる
——仲間だからと思って声をかけたくても、“喋りかけないで”オーラを感じて、声掛けを迷ってしまう人もいます。
小倉さん:
人間にはテレパシーがないので、相手の心の中は読めません。ですから、言葉を通じてわかりあうのが基本です。分からないときは、「May I help you?」と声をかけ確認するのがいいでしょう。東アジアの文化は必要以上にお節介を焼きすぎる傾向があるようですが、相手の選択を尊重するためにも、行動の前に声をかけることをお勧めいたします。
逆の立場で、相手に手伝ってほしいときも言葉で伝えるのが大切です。本当は手伝ってほしいのに、無言のまま忙しさをアピールして「手伝ってよ!なぜわからないの?」というのもやめましょう。超能力でもなければ、わかるわけがないんですよね(笑)。
——こちらも勇気をもって声を掛けてみると?
小倉さん:
人は誰しもが「私は、誰かの役に立つことができるし、皆は私を助けてくれる仲間だ」と思えていると、仲間を放っておくこともできいないし、かといって過干渉に押しつけることもしたくなくなる。自然に協力しながら生きることができるようになるのです。
声を掛けて雑に扱われたらどうしよう、話しかけたのに冷たくされたらどうしようと、とためらうのは、相手と自分の間に境界線が引けていないのです。「課題の分離」というアドラー心理の前提がありますが、相手の課題か自分の課題か、分けることが大切です。
私の課題は、お手伝いの声かけをするかしないか。相手の課題はそれに応じるか応じないか。さらには、その声がけをどのように受け止めるか、です。もしも相手が不機嫌になっても、それは私の課題ではなく相手の課題です。
相手と自分の課題がごっちゃで境界線が引けないと、人に影響され続け苦しむでしょう。たとえば、電車でお年寄りに席を譲るのも同じで、譲られて怒る人もいればそうでない人もいる。May I help youの後は相手の課題です。自分の課題だけに集中すれば人間関係は穏やかになっていくのです。
PROFILE 小倉広さん
監修/小倉広 取材・構成/松永怜 イラスト/タテノカズヒロ