お子さんがスポ少や地域のクラブでサッカーをしている…というママ・パパは全国にたくさんいらっしゃると思います。
サッカーの技のひとつに頭でボールをパスしたりシュートしたりする「ヘディング」がありますが、ここ数年、世界的に、子供にはヘディングをさせないように…という動きが高まってきました。
日本サッカー協会も、2021年に入りガイドラインを設定。ヘディング練習を始める年齢や回数の制限、柔らかいボールを使用した練習を推奨といった対策を打ち出しています。
いったいどのような内容なのか、海外・国内あわせて状況を見ていきましょう。
ヘディングにはどのような懸念があるのか
サッカーでヘディングをするときには、時速数十キロで飛んできた410~450gのボールを頭で受けることになります。
このときに「脳震盪(のうしんとう)」が起こる可能性があり、意識を失ったり、フラフラしたり、記憶が消失したりするほか、頭痛や吐き気などの症状も表れます。中には数日間から2週間も上記のような症状が出る選手もいて、その間、脳へのダメージが続いていることが分かります。
さらに、その状態でプレイして再び脳震盪が起こると症状が重くなる傾向もあるそうです。
ヘディングを含めたサッカーによる頭部へのダメージが、将来、脳に与える影響を調査した研究もあります。
英グラスゴー大学の研究チームが2019年10月に発表した研究結果によると、元サッカー選手(男性)が認知症などの神経変性疾患で死亡する可能性は、一般の人より約3.5倍高いことが分かり、直接的な因果関係は見つかっていないものの、ヘディングやそれにまつわる事故が関連しているのではないかと見られているそうです。
成長期の子供はさらに脳にダメージを受けやすく、ある程度骨格や頭の大きさが完成するまではヘディングを避けるべきではないか…という意見は20年以上前から出ていたと言うことです。
海外での子供のサッカー、ヘディング事情は?
日本に先駆けて子供のヘディングを問題視していた欧米では、近年、以下のような対応をとってきました。
アメリカでは過去に、高校生の親たちが国際サッカー連盟(FIFA)などを相手取り、「サッカーのために頭部に外傷を負った」と提訴したこともあり、2016年には米国サッカー協会が以下のようなガイドラインを策定しています。
- 10歳以下…練習・試合ともヘディング禁止(試合中のヘディングはファウル扱い)
- 11~13歳以下…練習でのヘディングを制限
イギリスでも、イングランドサッカー協会(FA)が2020年にガイドラインを改定し、
- 11歳以下…練習・試合とも原則ヘディング禁止
- 18歳以下…段階的に制限を解除
という方針を決定しました。
また、主要な大会では、試合中に脳震盪を起こした選手は専門医の診察を受けられ、通常の交代枠がゼロでも選手交代が認められるといった制度もあります。
日本サッカー協会の方針は
こういった海外での議論の高まりをうけて日本でも子供や若者のヘディングの影響について検討が重ねられ、2021年5月には、JFA(日本サッカー協会)から、ヘディング練習についての公式ガイドラインが発表されました。
参考/JFA(日本サッカー協会)「育成年代でのヘディング習得のためのガイドライン(幼児期~U-15)」 https://www.jfa.jp/coach/pdf/heading_guidelines.pdf
この中では、子供のサッカーの練習や試合でのヘディングについて次のような方法を推奨しています。
- 幼児期…風船や新聞ボールなどの軽量のボールを額で触ったり、落ちてきたところを身体に当てたりする
- 小学校低学年…空間を移動するボールに身体を合わせる運動
- 小学校中学年…軽いゴムボールをキャッチしたり、ヘディングの練習をしてみる
- 小学校高学年…空中戦の状況に備えて2人で同時にジャンプしたり 、空中のボールを手で取り合う運動で空間認識を高める
上記のガイドラインでは、危険だから幼児期からまったくヘディングの練習をしない…というのではなく、成長後にヘディングを始めたときに思わぬ事故に合わないよう、正しい技術の習得も大切だと考えられています。
おわりに
今回のヘディングに関するニュースは、これからサッカーを始めたい、始めさせたいと考えているママ・パパにとっては気になるものだったのではないでしょうか。
クラブチームやスポ少の見学時には、記事で紹介したガイドラインも参考に、どのようなヘディングにまつわる練習をしているか見ておけると良いですね。
文/高谷みえこ
参考/JFA(日本サッカー協会)「JFAの方針」 https://www.jfa.jp/coach/heading_guidelines.html
論文「サッカーにおけるヘディングの累積曝露と慢性外傷性脳症に関する最近の知見」(体力科学 第69巻第5号) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/69/5/69_361/_pdf/-char/ja