中学生のトニーニョくん(15歳)と3人で暮らす、漫画家の小栗左多里さんと外国人でジャーナリストの夫・トニーさん。
夫婦で子育てをしていくなかで「異文化で育った者同士はどうやったら折り合えるのか?」と試行錯誤した経験から感じたことや自分の幼少期の体験を、それぞれに語ります。
今回は「子どもが失敗したときの親の態度」について。幼い頃のトニーニョくんの数限りない失敗に、ついイライラしてしまう…そんなときどうするか? 夫婦で決めたある斬新なルールについて教えてくれました。
子どもを怒りすぎないための、ある意外な方法
ガシャじょばー。「あっジュース!もー、ちゃんとコップ持って」 グシャびりびり。「ああっ端っこやぶれた」 ぼちょん。「あーーーーーーー(水たまりにはまった)」
小さい子どもは、失敗する。体のコントロールが大ざっぱ&経験不足で、どうしてもミスしてしまう。本人は一生懸命。悪気もない。わかってるわかってる。私も週休2日でめんどうみてるなら、余裕で対処もできるんだけど。いや1日おきだったらどんなにいいか。
しかしこちとら24時間365日連続で親やってるものですから、時々は「何回おんなじこと言えばわかるのー!?」とかなっちゃうわけですよね。強めに言っちゃって、後で反省して「ごめんね」って子どもに謝ったりすることもあるし。
口うるさく注意したくない…夫が出した提案とは
怒りはしなくても注意しない日もない…というような毎日を送っていたある日のこと、トニーが突然こう言い出したのだ。
「ときどきは、小人のせいにしよう」
…えーっと、どういうことでしょうか。
トニーいわく「毎日怒られるのはかわいそうだから、いくつかは“想像上の小人”がやったことにして、小人に文句を言おう。トニーニョも怒られるばっかりじゃなくて、たまには誰かを怒りたいかもしれない」斬新。もしくは童話作家。だけど確かに、いいアイデアのような気がする。
どれだけ気をつけてても、ある一定の数は失敗してしまうわけで、やった本人も瞬間的に「失敗した!」って思ってるし、注意はしてもしなくてもあんまりかわらないかもしれない。と思って「じゃあ、やってみよう」と答えた。
次にトニーニョのご飯がテーブルにこぼれていたとき、トニーが聞いた。
「これ、小人がやったんでしょ?」
「…」(とまどっている)
「小人だよね?」
「…」
「小人、耳大きかった?顔が小さくて耳が大きいやつと、耳が小さくて顔が大きいやつがいるよね。どっち?」
「…耳が大きい方」(のった)
「あいつか!しょうがないねえ」
トニーが天井の方向に「こらっ!」と言うと、トニーニョも上を向いて「こらっ!」と笑顔になった。小人、爆誕の瞬間である。
架空の人物が当たり前になり、いつしか情が湧いてくる
これ以降、食べこぼしやおもちゃを予期せず壊してしまったなど様々な場面に、この小人の2人組はよく登場した。
私たちはそのたびに天井や廊下を見て「こらっ!」と言う、怪しい家族になった。「今日は耳の小さい方がやった」「さっき、しっぽが見えた」と、どんどん日常会話になっていく。やつらはレストランにだって一時帰国の日本にだって、どこでも現れるので、「こんなとこまで付いて来てるんだねえ」と驚きあった。
不意にやってきてはちょっとした悪さをして去っていく、懲りないやつら。こうして何年も3人家族ときどき5人で暮らしていたが、トニーニョが小学校高学年にもなってくると、それほど粗相をしなくなった。
それが関係しているのか、やつらはめっきり来なくなった。向かいの部屋にもっと小さい姉妹がいるから、そっちにいってしまったのかもしれない。
今のトニーニョに小人のことを聞いてみると、「面白かった。でも面白いと思ってわざとミスする子もいるかもね」おお、落とし穴だ。「トニーニョはわざと何かした?」「してないけど」
もしやつらを呼び出そうとする場合は、一時的な事故の増加にお気をつけください。
文・イラスト/小栗左多里