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「週休3日制」は、ワーキングマザーの暮らしをどう変えるのか。

 

前回(※)は、週休3日制のメリット・デメリット、さらに危機感がもたれる“新たなマミートラック問題”について、ジャーナリストの白河桃子さんに話を伺いました。

 

今回は「週休3日制を上手に活用して、ライフとワークを充実させる方法」がテーマ。キャリアプランを描く際は、「ひとつの家庭として夫婦でキャリア戦略を考えることが大事」と白河さんは断言します。具体的な方法についてアドバイスをいただきました。

「自分はどんな人生を生きたいの?」考えていない人が意外と多い 

── 週休3日制を活用してライフはもちろんワークも充実させるには、いったん自分のキャリアを見つめ直すことも大切ですね。

 

白河さん:

今後、私たちが70歳まで働くという前提で考えると、30歳なら40年、40歳でもあと30年間、仕事人生が続きます。キャリアを充実させ、幸せに働いていくにはどうすればいいかを考えるタイミングにしてはいかがでしょうか。

 

以前から、働き方の選択肢を柔軟にして副業やスキルアップにチャレンジすることが奨励されてきましたよね。それはつまり、これからは仕事の幅を増やして新たなスキルを得ることが重要だということ。日本の場合、これまで就職あるいは就社という形で、1つの企業に勤務し続けるようなキャリアが大半でしたが、それだとキャリアの流動性は高まりません。

 

今後、さらにデジタル化が加速し、人間の仕事はどんどん減っていきます。たとえば現在、事務職の人などは、IT化によっていずれ仕事を失ってしまう可能性も高い。そうなってから慌てるのではなく、ぜひ今のうちにこの先の長いキャリアについて考え、新たなスキルを養ってほしいと思うんです。

これといってスキルがない自分…何から始めればいい? 

── とはいえ、新たなスキルを身につけるといっても、何から始めていいかわからないという人も多いと思います。どんなふうに取り組んでいけばよいでしょうか?

 

白河さん:

まずは、社内で新しい仕事のチャンスがあれば、手を挙げてどんどんチャレンジしてみることをおすすめします。新しいスキルが身につくような仕事の領域になるべく出ていくことは、将来的にも重要なことです。

 

例えば、ある企業では、売り場で販売を担当するシフト勤務の従業員に対して、内勤業務への職種転換を進めているそうです。ECサイトでの販売が進むことで、売り場の人手は必要なくなっていきますからね。

 

働く側にとっても、内勤のスキルを身に付けることで在宅勤務しやすくなって、ワークライフバランスがとりやすくなる。“シフト制の職場ではなかなかワークライフバランスがとりづらい”という悩みを抱える人にとっては、よいタイミングだといえます。

 

自分は今の仕事でこの先ずっとやっていけるのかを見通して、新たなスキルを身に付けていく。新しい領域を勉強したり、資格を取得するのもいいと思います。スキルが身につくことで転職もしやすくなります。もし週休3日が実現してフリーな時間が生まれたら、ぜひこうしたことに活用してもらいたいですね。

家事も育児も夫婦でやる時代…ライフプランも当然共有すべき 

── “週休3日にしたけれど、家事時間が増えただけだった…”とならないためには、夫婦で話し合って、家事や育児は2人で担うという共通認識を持つことが大事ですね。

 

白河さん:

今は家事や育児は夫婦2人でやるのが当たり前の時代です。そうでないと、前回お話ししたように、新たなマミートラックを生むだけですから。

 

夫婦で家庭のことを話し合うのと同時に、ライフプランを描き直してみるのもいいと思います。週休3日にして給料がある程度下がっても共働きだったらなんとかなるという家庭もあるでしょう。

 

夫婦で「この時期はこういう働き方をしよう」と話し合いながら、この先のライフプランを立ててみる。夫婦で納得していれば、夫が週休3日にしたっていいわけですしね。

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 キャリアプランに欠かせないのは「縦軸」と「横軸」の視点

── 確かに、夫が週休3日になれば、家事・育児もかなり分担しやすくなりそうです。ライフプランを立てる際に、キャリアについてはどのように考えていけばよいでしょう?

 

白河さん:

キャリアプランを考える時に大切なのは、「縦軸」と「横軸」の両方でキャリアを編んでいくという視点です。縦の軸は、会社や社会でのキャリア戦略。横の軸とは、夫婦としての家庭のキャリア戦略です。

 

── 「家庭のキャリア戦略」ですか…?

 

白河さん:

自分のキャリアを自分ひとりだけのものと捉えず、ひとつの家庭として夫婦のキャリア戦略を考えていくことが大切なんです。

 

正社員の女性の場合、「将来的には全員に管理職になってほしい」という話が出てくるのも遠い未来ではありません。そうなると、夫婦で活躍の時期が重なることも当然起こり得ます。それぞれがどう働きたいか、家族としてはどうありたいかということを話しておくことは必要だと思います。

 

その前提で、今の家事・育児の配分をどうするか、何年後にはどんなふうに過ごしたいかといった話し合いができるといいですよね。夫の働き方はそのままで、自分だけが家庭のことを担うという考え方からはそろそろ脱するべきだと思います。

夫側の意識改革も急務!

── 夫婦できちんと長期のキャリアプランを話しておくことで、お互い納得感が生まれますね。ただ、そのためには夫側の意識改革も必要です。

 

白河さん:

今は仕事も不安定な時代ですから、夫の稼ぎに頼ってしまうのはかなり危険です。それに、たとえ夫のほうが年収が高いとしても、妻の収入があるかないかでは組めるローンなどもまったく違ってきます。家族の金融戦略にもかかわる問題ですから、ファイナンシャルプロジェクトの一環としても重要なことです。

 

さらに、2022年春からは、男性育休がいよいよ義務化されます。つまり、これからの社会は、育児にコミットする男性がどんどん増えるということ。そうした時代に、家庭のことは妻が担うといった旧態依然の考え方を持つ男性は淘汰されていくでしょう。

 

もしも夫がそうした考え方を持っているなら、意識をかえていかないと、自分自身のキャリアも危うくなってしまいますよね。

 

柔軟な働き方やテレワークなどの環境が進んでいることで、ワーキングマザーはかなり働きやすくなり、大きなチャンスを得ていると思います。家庭のことや2人のキャリアをどう組み合わせていくか、これを機に、ぜひ夫婦で話し合ってみてください。未来を向いて働いていきましょう!

 

Profile 白河桃子さん 

相模女子大学大学院特任教授、昭和女子大学客員教授、作家。慶應義塾大学文学部社会学専攻卒。中央大学ビジネススクール戦略経営研究科専門職学位課程修了。住友商事、外資系金融などを経て著述業に。ダイバーシティ、働き方改革、ジェンダー、女性活躍、ライフキャリアなどをテーマに著作、講演活動を行う一方、「働き方改革実現会議」「男女共同参画会議 重点方針専門調査会」「テレワーク普及展開方策検討会」など多数の政府の委員を歴任。近著に『働かないおじさんが御社をダメにする』(PHP新書)、『ハラスメントの境界線』(中公新書ラクレ)など。
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取材・文/西尾英子 イラスト/えなみかなお