共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。3度目の緊急事態宣言の発令とその延長を受け、引き続きさまざまな企業がテレワークに取り組んでいます。必ずしも出社を前提としない働き方の広がりを受けて、今注目されているのが「チケットレストラン」という福利厚生サービス。従来の社員食堂に変わる新たな食事補助として、全国のコンビニや飲食店で利用できる電子マネーです。働き方の多様化にともなう福利厚生のあり方を探るべく、このサービスを運営する株式会社エデンレッドジャパンの営業部部長・高橋偉一郎さんにお話を伺いました。
コロナ禍で福利厚生を見直す企業が増えている
── まず「チケットレストラン」とは、具体的にどんなサービスですか?
高橋さん:
会社から食事補助として支給される電子マネーです。従業員の方々に配布されたカードに、企業から発注を受けたエデンレッドジャパンが毎月一定額を自動的にチャージ。従業員は、チャージされた金額分だけランチなどの支払い時に使うことができ、利用額の最大半分を会社が補助してくれる仕組みです。
使えるのは、全国各地のコンビニやファミレスから街の定食屋まで、このサービスの加盟店契約を結んでいる6万店舗以上。オフィス周辺はもちろん、テレワーク中に自宅近くの店でも、社員食堂を利用する感覚で使えます。
── コロナ禍で、福利厚生として取り入れる企業が増えているようですね?
高橋さん:
新型コロナウイルスに起因して、導入したいという企業からのお問い合わせ件数は、右肩上がりで増加しています。特に、1回目の緊急事態宣言が発令された時期の2020年4月と、同年12月を比較すると、10倍ほどお問い合わせ件数が増えました。コロナ禍をきっかけに、福利厚生のあり方自体を見直す企業が多いように感じます。
── 今、企業が福利厚生のあり方を見直す理由は何でしょうか?
高橋さん:
やはりテレワークの広がりとともに、会社と従業員の関係性が変わってきたことが大きいと思います。出社して直接コミュニケーションをする機会が減ったぶん、会社と従業員の関係性が希薄になる。そこに課題を感じている経営者や人事担当者の声を多く伺います。
だからこそ、会社が従業員を心身ともにケアしていく姿勢を、しっかりと可視化して示す必要があるんですね。そのために、より従業員のニーズに寄り添った福利厚生に切り替える企業が増えていると考えられます。
勤務中のランチ代は1日平均479円 !?
── 実際に「チケットレストラン」を利用した従業員の方々からは、どんな反応がありますか?
高橋さん:
例えば1回目の緊急事態宣言のとき、子育てをしながらテレワークをする女性から「近所の店で昼食を買うことができて、すごく助かりました」という声をいただきました。
保育園や幼稚園が閉鎖となり、家で仕事をしながらお子さんのお世話もしていると、昼食を作る時間もままならない。そんなときに、近所の店でランチをテイクアウトしたり、コンビニでおやつやコーヒーを買ってリフレッシュしたりできて便利だったと伺いました。
── コロナ禍で、特に仕事が休業したり減給したりした家庭では、経済的に助かっているのではないでしょうか?
高橋さん:
そうした声は多くいただきます。実際に私たちが2020年4月に行ったアンケート調査
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でも、現在「節約している」と答えた人が8割以上。節約している費用の第1位は「食費」。消費増税やコロナ禍による家計の逼迫によって、食費にしわ寄せが来ていることがわかります。
さらに、世帯年収700万円以下のビジネスパーソンが、1日に使うランチ代は平均479円という結果も。これでは、ランチの選択肢がかなり限られるのではないでしょうか。ここに少しでも食事補助が加われば、より栄養バランスのとれた豊かな食事ができるはず。健康的な食事によって生産性が上がれば、働き手にとっても企業にとってもプラスになります。
── このサービスに加盟している飲食店の反応は、どうでしたか?
高橋さん:
特にコロナ禍で経営が苦しい飲食店からは、送客につながって有難いという声をいただきます。最近では、住宅街にある個人経営の飲食店からの問い合わせも増えました。
先日も浅草にある和食屋さんから連絡をいただいたんです。お話を伺ってみると、その店の界隈はオフィス街ではないのですが、テレワークをする近所の人々がランチタイムに利用するようになったと。それを受けて、さらにお客さまが利用しやすいように加盟したいという相談をいただきました。
これまで私たちは、オフィス街に重きを置いてきましたが、今後はそうした地域のお店とも積極的に連携していきたいです。テレワークをする方々の利便性を上げ、地域の活性化にも貢献できたらと考えています。
フランスの食事補助の非課税限度額は日本の約3倍
── 現在、「チケットレストラン」を導入する企業は2,000社以上。続々と広がりを見せていますが、とはいえまだまだ大企業が中心なのではないでしょうか?
高橋さん:
そうですね。欧米諸国と比べると、日本は食事補助を導入している企業の割合がまだまだ低いのは事実です。例えばフランスでは、食事補助は「法定福利厚生」として、企業に義務づけられているんです。ところが日本の場合、「法定外福利厚生」なので義務ではない。補助をするかの判断は、企業に委ねられているのです。
また、日本の企業が食事補助できる限度額は1か月3,500円。その同額以上を従業員が負担すれば、食事補助を非課税で従業員が受け取ることができる仕組みです。ですが、それに対してフランスにおける非課税の限度額は約3倍。こうした制度の違いも要因の一つだと思います。
── 食事補助が浸透していない理由は、他にもありますか?
高橋さん:
もう一つは、これまで目的意識を持って福利厚生を活用する企業が少なかったことです。日本では、たとえば宿泊・レジャー施設割引のように “プライベートの充実” につながる福利厚生を導入する企業も多いです。その理由を企業担当の方に尋ねると、「昔から使っているから」「他社が導入しているから」といった答えが返ってくることも。その一方、実は利用率が低く、従業員の満足度につながっていないことも少なくありません。
従業員が満足する福利厚生を提供するという意味では、今後、従業員が欲しい福利厚生を人事担当者に声を上げていくことも大事だと思います。
── なんとなく慣習として、福利厚生が用いられているケースも多いということですね?
高橋さん:
はい。ですが本来福利厚生は、企業の抱える人事課題を解決する手段だと思います。そう捉えると、食事補助のメリットはたくさんあります。
例えば、充実した食事によって「従業員の生産性が上がる」「会社へのエンゲージメントが向上する」「従業員同士のコミュニケーションツールとなる」「従業員の健康を維持できる」「人材の確保や定着につながる」など。ですから改めて目的を明確にして福利厚生を検討することが大切だと感じます。
── 今後「チケットレストラン」では、どのようなことに取り組んでいきますか?
高橋さん:
加盟店の数やバリエーションを増やし、利便性の高い仕組みを整えることは、もちろん永遠のテーマです。それに加えて今後は、企業の人事課題を「チケットレストラン」でどう解決できるのか、企業の方々と一緒に考え取り組んでいきたいです。また、先ほどの3,500円という非課税枠を欧米諸国並みに引き上げられるよう、国に働きかけていくことも使命だと考えています。
通勤手当や出張手当などは、コロナ禍で活用機会が減る一方、食事補助のニーズは毎日人が食事をする限りなくなりません。食事というのは、誰もが日々必ずする行為。健康的な生活を送るためにも不可欠です。だからこそ、私たちの仕組みでそこをしっかりサポートしながら、企業と従業員の方々をつなぐ役割を担っていけたら嬉しいです。
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新型コロナウイルスの蔓延が収束した後も、勤務場所や時間帯、頻度など、働き方の多様化はますます進むことが予測されます。そんな中、働き方を問わず平等に従業員をケアする福利厚生として、「チケットレストラン」はますます広がりを見せていきそうです。時代に沿った働き手のニーズと本当に合致する福利厚生の形。それを企業も働き手も、共に考え続けていきたいですね。
※ 株式会社エデンレッドジャパン「ビジネスパーソンに聞いた『家計と昼食に関する調査』」(2020年5月14日)
取材・文/野下和歌菜 取材協力/株式会社エデンレッドジャパン