webデザインを学ぶ

「“復帰前面談”のつもりが、会社の業績が悪化し仕事がないと言われたんです…」と話すのは、現在はwebデザイナーとして働く佐々木美奈さん(34歳・仮名=以下同)。1年前にコロナ禍の影響で仕事が激減、大幅な減給を告げられ自主退社しました。ところが次の就職先が見つからず、悩んだ末に選んだのが、未経験からのwebデザイナーとしての起業でした。

復職のための会社面談で「月給10万円ダウン」と言われ…

2018年に長男を出産し、昨年4月に育休が終了予定だった佐々木さん。復職1か月前に、会社と面談を行いました。そこで受けた話は「フルタイムで働いても、前の月給より10万円近く減給になる」という厳しい内容。加えて産休前は週1~2回の在宅勤務をしていましたが、「状況が変わって、以前のような勤務形態はサポートできない」とも告げられたのです。

 

「私は内勤が主でしたが、その時残っていた内勤の仕事はごくわずかなうえ残業必須だったんです。保育園に子どもを迎えに行かなければならない私には、現実的に不可能な業務でした」

 

佐々木さんの会社は小さなベンチャーで、企業や大学に対し、大人数で受講する一斉型のコミュニケーション研修を提供。社長が講師、社長の妻が経理、ただ一人いる同僚が営業、そして佐々木さんが顧客とのやりとりや各種手配や細かな事務などを引き受けていました。コロナ禍で大人数が集まる一斉型の研修はなくなり、まさに“開店休業”状態でした。

 

「会社の台所事情は予測がつきましたし、よくしてもらった会社なので迷惑はかけたくありませんでした。もし育休中に倒産していたら育児休業給付金も出なかったので、倒産しなかっただけでもありがたかったです。それで退職に合意したんです」

コロナ禍で転職先が見つからない。そこで目指したのは?

退職後、佐々木さんが転職先として考えたのは、キャリアカウンセラーの仕事でした。前々職で、留学経験者の就職活動を支援する企業に勤務していて、その経験を生かした転職を考えたからです。

就職活動は苦戦したと話す佐々木さん

「就職活動は厳しかったです。コロナで採用が止まっていたのはもちろんですが、子どもを産んだことで、私にも譲れない条件ができてしまい…。“時短勤務”、“子どもの急な病気があったらすぐに退社できる”、“家から1時間以内の場所”など。欲張りなのはわかっていましたが、妥協したくなかったんです。条件に合う会社はほぼ見つかりませんでした」

 

そこで、佐々木さんはキャリアカウンセラーに加えて、webデザイナーも転職候補として考えるようになりました。実は育休中に株式会社Timersが運営する“ママ専用スクール・Famm(ファム)”の「webデザイナー養成講座」を受講し、webデザインの基礎的なスキルを身につけていたからです。

育休中にスキルアップ

「講座は1回3時間、計5回で修了するもので、コーディングや画像処理などを習いました。受講生専用のwebスペースがあって、そこで授業後に先生に質問したり、自作のバナーをアップして見てもらえるんです。無料のベビーシッターサービスもあり、受講をサポートしてもらえました」

 

佐々木さんはwebデザイン自体が全くの未経験。PCスキルもWordやExcelなど、基本的なものを使えるだけでしたが、講座修了後はバナーなどを作成できるようになっていました。

スキルアップしたものの、“30歳の壁”にぶつかる

スキルアップするも前職では生かせず

そもそも佐々木さんがwebデザインを学んだのは、復職予定だった会社のコーポレートサイトを改善したいという思いから。小さな会社にはありがちですが、サイトの更新は後回しになり、何年も前に作ったままだったからです。

 

「最終更新が2016年で止まっていて、機能的にも古く、お客様のニーズに応えられるものではありませんでした。改善すれば、会社にも必ず役立つと思っていたんです。やりたいと言えば何でもやれる職場環境でしたから、復職したら、率先してサイトのリニューアルをするつもりで講座を受講しました」

 

そんな具体的な構想を持ってスキルアップを図ったものの、元の会社でその力を発揮する機会は訪れませんでした。ただせっかく学んだスキル。佐々木さんはそれを活かして、転職先の幅を広げようと考えたのです。

 

「30歳を過ぎての未経験職種へのチャレンジは想像以上に厳しかったです。転職エージェントからは『小さな子どもがいることもマイナスになる』とも言われてしまって。結局webデザイナーもキャリアカウンセラーでも、就職先は見つかりませんでした」

未経験でも人とのつながりで仕事は生まれる

そんななか心強かったのは、夫の存在でした。「あわてて納得のいかない会社に就職するより、腰を据えて転職先を探したほうがいい」と言われ、佐々木さんは焦らず転職活動を続けられました。しかし、さすがに転職活動が半年を超えた9月頃、気持ちに変化が起きたといいます。

子どもを見られる働き方「起業」を決意

「ちょうどその頃、夫も転職して、以前より忙しい職場に変わりました。実は息子は生まれつき腎臓が悪く、通院が多い子なんです。育児や息子のケアについて夫の協力をほぼ得られない状況で、息子を見ながら自宅でできる仕事に魅力を感じました。それで転職はやめて起業しよう、webデザイナーとして働こうと思ったんです」

 

そこで佐々木さんは友人・知人にwebデザイナーとして起業したことを話すなどして営業活動を開始。その結果、知人の個人事務所のホームページリニューアルを手掛けたり、夫の仕事関連の動画制作等を受けるようになりました。

webデザイナーとして働く佐々木さん

「偶然ですけど、夫がYouTubeチャンネルを制作する会社に入ったんです。それでサムネイル(チャンネル内容を紹介する画像)を作る仕事を引き受けるようになりました。また、起業ママのコミュニティーにも入ったことで、そこからホームページ制作を受けることもあります」

 

夫からの仕事を受けるようになり、以前は全く興味のなかった夫の仕事への理解も深まったそう。

 

「アクセスやレスポンスの状況を見て、画像をこうやって変更しようなど、夫と話したりします。仕事のことで意見の衝突も多少ありましたが、以前よりも距離が縮まったような(笑)」

 

現在、佐々木さんは、webデザイナーとして月10万円程度の収入を得ています。将来はキャリアカウンセリングとwebデザイナーを掛け合わせた仕事をするのが夢です。

 

「ママで起業したい、ビジネスをしたい人をキャリアカウンセリングを通じて手助けし、その一環としてweb関連サービスも提供できれば。キャリアカウンセリングをできる人はたくさんいますし、webデザイナーもたくさんいます。でも、両方を掛け合わせることで、私ならではの経験や強みを活かせる仕事になるのでは、と考えています」

取材・文/長根典子 撮影/新井加代子