プロジェクトマネジメントツールは効果的に使うことで仕事の精度を格段に上げることができ、また使い方次第でチームの信頼関係を強く結びつけてくれる、仕事を成功させる上で欠かせないものです。今回はこのツールを上手に使いこなすために押さえておきたいポイントを数々の企業でプロジェクト推進を行う池照佳代さんに伺います。
プロジェクト成功のカギは適切な相手へのヒアリングが肝!
── 遠隔で仕事のやりとりをしていると相手の考えている方向性とズレていた!ということもあると思いますが、遠隔でもうまく仕事のやりとりができるコミュニケーション方法について教えてください。
池照さん:
私が関わるメインの仕事は、組織の中に入りこみ、さまざまなプロジェクトを成功させることです。ですが、会社を設立した当時は子どもがまだ小さく、仕事と育児を並行しておこなっていたので頭がパンク寸前の状態でした。そこで、いったん頭の中を整理するために編み出したのが〝ニコワーク〟。プロジェクトに必要な最低限の指標を体系化させたプロジェクトマネジメントフレームです。
具体的にどのようなことなのか説明すると、
- Objective=目的:なんのためにやっているのか?
- Output=成果物:成果物やアウトプット、定量的な指標
- Success Factors=成功指標:どんなことが変われば成功となるか? 定性的な指標
- Timeline=タイムライン:時間的な指標
これら4つの項目に沿ってプロジェクトを整理したり、お客様との仕事の際は相手側にヒアリングすることで、プロジェクト成功のためにすべきことを整理し、また、仕事の齟齬を防ぎます。
── プロジェクトを成功させるには、上から降りてきたことをそのまま進めるのではなく、相手が求めているものを理解するために4つの項目を埋めるようにヒアリングしてから進行することが必須なのですね。では、この4つの項目をヒアリングする際に注意すべきことは何でしょうか?
池照さん:
プロジェクトにおいて評価の対象になるのは「○○を何%進捗させた」「シェアを何%拡大させた」「売り上げを倍にした」など、数字で測られるOutput(成果物)の部分ですが、プロジェクトを成功させるうえで、私がもっとも重点を追いているのはSuccess Factors(成功指標)のような定性的な指標です。例えば「売り上げを倍にするためには、どんな行動を変える必要があるのか? どんな状態を目指すのか? 」という視点です。
プロジェクトを成功に導くには、働く人たちの動き方を変えなければなりません。では、どの部分を変化させると評価の高いアウトプットに繋がるのか? ポイントは、ヒアリング時に定性的な部分をきちんと擦り合わせ定義することです。そこが理解できると相手側との仕事のズレを防ぐことができます。
── 対企業のマネジメントだけでなく、チーム内でプロジェクトを進める際もニコワークを活用できそうですね!
池照さん:
はい。プロジェクトが立ち上がった時点で、まずは上司にニコワークに沿ってヒアリングをしてみましょう。例えばOutputが「自社のパンフレットを100部作成」であれば、パンフレットを作成してどのように活用したいか?今と何を変化させたいのか、Success Factors(成功指標)をきちんと定義できるまで上司にヒアリングしましょう。聞いてみると、意外と相手側も成功指標が曖昧であることもありますので、「どこがどう変わったら成功といえますか?」「周囲からどのような反応をもらえたらよいでしょうか?」このような聞き方で確認してみてください。
── ニワコークを使う際に注意すべき点はありますか?
池照さん:
ニコワークは定期的に見直す必要があります。多くのプロジェクトは、スタート時から最後まで一貫して中身が変わらないということは実はほとんどありません。ときには「会社のトップが変わった」「経営体制が変わった」などのことで目的自体や指標がひっくりかえることも少なくないのです。ですから、定期的に相手側と共通認識を確認し、アップデートさせておきましょう。一見、手間のかかる作業に思えるかもしれませんが、これにより互いに納得して仕事を進めやすくなります。
–– ちなみになぜ「ニコワーク」というのでしょうか? 名前の由来について教えてください。
池照さん:
名前の由来は、それぞれの項目を表す英語の頭文字OOSTを顔のように例えたことに由来します。Oふたつが目、Sが鼻、Tは逆さにして口に見立て、ニコッと微笑んだ表情を例えて「ニコワーク」と名付けました。Tは逆さまに描くのですが、ぜひ口角を上げてニコニコ顔になるように描いてください。自分たちが関わるプロジェクトを笑顔で進める!という願いがこめられているのです。「ニコワーク」は、アイズプラス社で商標登録をとり、広めているんです。
アイズプラス社で商用登録されている「ニコワーク」は、OOSTをOふたつが目、Sが鼻、Tは逆さにして口に見立て、ニコッと微笑んだ表情を例えたことから「ニコワーク」という名称に。
遠隔で部下や後輩を叱るときに注意しなければならないこととは?
── 仕事をしていると部下や後輩を叱らなければならない場面もあるかと思いますが、離れているとなかなか叱る側の想いが伝わりにくいこともあるかと思います。遠隔であっても、相手に理解してもらえる伝え方について教えてください。
池照さん:
叱るということは一見ネガティブに捉えがちですが、アサーティブなコミュニケーションといって、叱り方次第でお互いにwin-winなコミュニケーションになるものだと私は思っています。ただ、やみくもに叱りつけてもNG! 以下のようなことを意識する必要があります。
- Fact(事実)=目の前の事実を共有する
- Emotion/Express(感情を知る、伝える)=事実から自分が感じたこと、または相手の感情を把握する
- Suggestion/Solution(解決策の提案、実行)=解決策を提案・提示し、一緒に解決に向かう
例えば、部下がコーヒーをこぼし大事な書類に掛かってしまったとします。Fact(事実)が「コーヒーがこぼれたこと」で、Emotion/Express(感情を知る、伝える)が「大事な書類にコーヒーがこぼれてしまい動揺している/悲しい」という感情を伝えること、Suggestion/Solution(解決策の提案、実行)が、「このようなことが起こらないようにするには、どうしたら?」と原因を確認し、どうすれば次からそれを防ぐことができるのか一緒に考えます。
── なかには、よく原因を確認する前にいきなり叱りつける方もいらっしゃいますよね?
池照さん:
そうですね。もちろんそれはNGです。相手がその事象に対して申し訳なく感じているか、当たり前と感じているかは相手を観察していれば分かります。まずは怒りたい気持ちを一旦落ち着かせ、「大事な書類が汚れてしまって動揺している/悲しい」と自分の今の感情を伝えましょう。自分の感情を伝えることで相手側も話を受け止めやすくなります。相手に悪気がなく、自不慮の事故なのか、それともわざとなのか、それによっても対応は変わりますよね。相手も申し訳なく思っているのなら、気持ちを受け止め、次の対策を一緒に考えます。相手の様子をしっかり確認してから感情に寄り添う対応するようにしましょう。
上司部下の関係を日常生活に例えてみると、子育ても似たような状況になることがあります。子どもが親の気を引こうとしてわざときょうだいにちょっかいを出し喧嘩に発展。親は目の前の状況につられ「コラ!やめなさい!」とすぐに怒りだしてしまうことがありますが、そこで一度気持ちを落ち着かせ、「喧嘩するなんてママは悲しいなあ」と自分の感情を伝えてみます。するとイライラしていた子どもも冷静になります。そのあと子どもに「どんな気持ち?」「なぜ喧嘩になった?」と気持ちと理由を聞いてみます。きょうだいに腹を立てて手が出てしまったのか、もしくは子どもは体調がすぐずにイライラしていただけかもしれません。すぐに「怒る」という反応してひまう前に、子供にとってもどのような対応がよいのか、言動を選択して発揮するのです。その場の感情に任せるのではなく、自分も相手もいったん落ち着く「間」をとってみることが大切です。
Profile 池照佳代
取材・文/望月琴海