こんにちは。メンズカウンセラーの中村カズノリです。
「家事・育児は100%妻の仕事」と信じて疑わず、まるで会社の部下にダメ出しするように自分に接する夫に辟易しているというCさん。その夫婦問題の解決のヒントについて、2回にわたって取り上げてきました。
今回は、お話を聞く中で見えてきた、Cさん自身の課題「人に甘えるのが苦手」という状況について考えたいと思います。
なお、ここでは、便宜上「課題」という言葉を使っていますが、これは「絶対に解消しなければならない欠点」という意味ではありません。ご本人が「生きづらさ」を感じている部分の“捉え方”を変えることで、ちょっとラクになるかもしれないポイント、という意味合いと考えていただけたらと思います。
「本当は辛いのに…夫にすら甘えられない」妻の悩みの意外な原因とは
Cさんは「夫に甘える」ということについて、上目づかいで「ね、お願い」と可愛らしく頼み込むようなイメージを持っていたようです。例えるなら、『クレヨンしんちゃん』のみさえが夫・ひろしに何かおねだりをするようなシーンに近いでしょうか。
でも、別に可愛くなくてもいいんですよ。「これ、今私できないからやって〜!」みたいな感じで十分。まさに、仕事の進捗がヤバいときに同僚にヘルプを頼むのと似たようなものです。
ところが、それを伝えたところ、Cさんは少し困った様子で考え込んでしまいました。どうやら、以前フルタイムで働いていた頃から他人に仕事を振るのが苦手で、自分でタスクを抱え込んでしまいがちだったようなのです。その傾向は今も変わらないと言います。
「できるものなら自分一人で完璧にこなしたい」という無意識の欲求
Cさんの場合、人に頼みごとをした際に、そのタスクを頼んだ理由や、使う道具のありか、作業手順の説明をその場で素早く、かつ相手にわかりやすく言語化することに苦手意識があるというのです。だから本当は、できるものなら自分一人で完璧にこなしたいのだそう。
「夫に頼みごとをするのは、どうしても手助けが必要で余裕がないときなので、たいていパニックになってしまっていて。つい『いいからとにかくやって!』という頼み方になってしまい、夫にムッとされてしまうんです」(Cさん)
この点は前々回
(※)にお話しした、「無意識に『家事・育児は自分だけでこなせるのが理想』だと思っている」というCさんの気持ちともリンクする部分があるかもしれません。
「できない」という言葉をネガティブに捉え過ぎてしまう
僕が言う「ちょっとできないからこれやって」の「できないから」は、あくまで「何らかの理由で物理的に取りかかれない状況だから」という意味。ですが、Cさんは「自分が“できない人”だから」という意味合いと捉えてしまうのです。
何か頼みごとをするのにいちいち「自分は劣った人間なので手伝ってください」とへりくだらなければならないとしたら、心理的に大きな負担になりますよね。これでは、頼みごとをするたびに自己肯定感が低下してしまいます。
Cさんがパートナーに限らず、他人に「できないからこれお願い」と言いづらかったというのは、Cさんにとってその言葉が重すぎたんですね。「できる人」でいたい、自分で自分を「できない人」と言いたくない…それは人として当たり前の自尊心です。
手伝ってもらって物理的にはラクになるとしても、もしそれがプライドを売り渡すのと引き換えだったら、僕でも「それくらい1人でやります」と言うと思います。
「他人は変えられない」というけれど…自分を変えるのだってなかなか難しい
「できない」という言葉をネガティブに捉えすぎるのをやめましょう、もっと軽い意味で使っても大丈夫ですよ、と伝えるのは簡単です。けれども、それで即座に意識が切り替わるというものでもありません。他人を変えることはできなくても自分の考え方は変えられる、というのは書籍などでよく見る言葉で、一面の真理ではありますが、実のところ自分を変えるのもなかなか難しいのです。
ただ、こうしたことをきっかけに少しずつ「許容範囲」を増やしていくというか、自分のいろいろな面を受容していけるようになるといいなと思います。
今回お話を聞かせていただいたCさんにはこの場を借りてお礼を申し上げます。「自分の気持ちを吐き出せたことで内面を見つめ直すきっかけになったし、少し気持ちがラクになった」と話してくださり、ほっと胸をなで下ろしました。
とはいえ、1回のカウンセリングで劇的に状況が改善することは、普段でもそうそうありません。大事なのは「きっかけ」となることです。最初のカウンセリングで本人が今抱えている思いを自由に話すことで問題に気づき、それを意識するところにすべての始まりがあります。今回のカウンセリングにおいても、Cさんが自分自身をより深く知るのをアシストすることが何より大事でした。
今後のCさんとパートナーの関係性については、可能であればぜひ継続的にお話を聞かせていただきたいと思います。
文/中村カズノリ イラスト/竹田匡志