弟をあやすお姉ちゃん

「上の子かわいくない症候群」という言葉を聞いたことがありますか?下の子が生まれてから、急に「上の子がかわいいと思えない」と感じる状態のことで、ネットを中心に広まっている言葉です。

 

第二子の出産で母親のホルモンバランスが崩れているところに、第一子のイヤイヤ期が重なることが原因などと言われることもありますが、具体的な根拠はありません。

 

「上の子かわいくない症候群かも…」と葛藤する女性3人にお話を伺いました。

CASE1 娘の髪を触れない…あと一歩が踏み出せなくて

Aさん 30代後半(長女10歳 長男6歳)

最初に上の子への感情の変化を感じたのは、下の子の出産当日の夜、夫に連れられ病院にお見舞いに来てくれたときでした。

 

それまで溺愛していたのに、急に疎ましく思ってしまったんです。せっかくお見舞いに来てくれたのに、「早く帰って」「うるさい」なんて言ってしまった。そのときは、その日だけのことだと思っていたんですが、結局6年経った今も疎ましい感情は続いています。

 

このままじゃいけないと思って、娘の欠点ばかり追及しない、長所を見ようと心がけましたが、意に反して、4歳くらいから髪を結ったり、手をつなぐこともできなくなりました。

 

就学前あたりから言葉で意思疎通ができるようになって少しマシにはなりましたが、それでもまだ、娘の行動を心底褒めてあげることができません。

 

棒読みでもいいからと思って褒めてみると、「お母さん、今日はどうしたの?(照)」みたいな反応が返ってきます。

 

夫は私の感情を理解した上で、娘の面倒をほぼすべてみてくれています。なので、娘は私より夫に懐いていますね。

 

今のところ娘が私に対してネガティブな感情をぶつけてくることはありません。私が無視したときに「しょうもなっ」と小さく吐き捨てるように言うことはありますが。

 

夫に甘えて発散できているかもしれないですが、私への不満をため込んでいないか、いつか爆発させるのではないか…と心配はしています。

 

小学3年生の夏休み、学童最後の日、車で送っていったときに「今日こそ“いってらっしゃい”と手を振ろう、がんばろう」と意を決して、初めて手を振ることができました。無表情に手だけ動いている感じでしたが…。それでも娘は嬉しそうに、駆けていきました。

 

溺愛していた頃の感情を取り戻したいという気持ちはあります。娘も受け入れる準備はできていると思う。

 

でも、私自身がなぜか1歩を踏み出せない。少しずつ改善しているとは思うけれど、何かが私のなかに引っかかっていて。今さら態度を変えられないとか、すごく小さいことだとは思うのですが。

 

私がもっと勇気を出せる日は来るのか、どうしたらいいのか、見えてきません。

CASE2 娘にイライラするが、夫に娘を取られたくない気持ちも…

Bさん 30代後半(長女9歳 次女6歳)

次女を出産した後、ホルモンバランスが乱れ、長女にきつくあたっていました。

 

イヤイヤ期だったり自己主張しはじめたりで、私の思うように動いてくれなかったりすると特に。何かにイライラしているときに長女がぐずると、自分の機嫌の悪さを長女にぶつけて、泣くのを煽っていた気がします。

 

次女が生まれるまでは、そんな感情は湧いてこなかったのに…。

 

長女の産後と次女の産後、それぞれ当時の写真やビデオを見返すと、私の表情もしゃべり方も全然違っています。「この頃は優しかったよね」なんて会話になるほど。

 

長女はのんびりタイプ、次女はてきぱきと周囲の様子を見ながらそつなくこなせるタイプです。小さい下の子ができているのに、なぜお姉ちゃんはできないの?と叱ることはしょっちゅう。

 

何か良いことをしても、素直に喜んであげたり、寄り添ってあげられない。むしろ、できていないことを指摘してしまいます。

 

長女は、そんな私の態度に気づいていると思いますが、特に何も伝えてはこないです。夫がフォローしてくれているからかもしれません。

 

夫は育児には協力的です。子どもと近い距離にいたい人なので、子どもも夫のほうが話しやすいみたい。ただ、「母親はいつも笑顔で子どもに接するべき」という考え方なので、私が子どもにイライラすること自体が理解できない。産後に情緒不安定になったときも理解してもらえませんでした。

実は私自身が実母とあまりいい関係ではなくて。「…するべき」という価値観で育てられ、母に何か相談した記憶も、褒められた記憶もありません。

 

人のせいにしてしまうようですが、母との関係が長女への感情に影響しているかもしれません。母との関係がこんなだから仕方ないよね、とどこか自分を正当化しているところがあります。

 

自分本位なんですよね。娘を拒絶しているのに、かといって全部夫にいってしまうのは寂しい。初潮のときとか、ブラジャーを買うときとか、母親にしか果たせない役割があったら引き受けたいと思っている自分もいます。

 

矛盾だらけです。このまま思春期に入ると、私と母の関係みたいに、娘の心は私から完全に離れていってしまうだろうなという不安も抱いています。

CASE3 暴力沙汰にまで発展…親に向いていないのかと自問自答

Cさん 40代前半(長男12歳 長女8歳)

息子のことは大好きでした。第二子妊娠中も「この子を息子ほど愛せるだろうか」と思っていたくらい。

 

それが一転、下の子がかわいくて仕方がない。息子は念願の妹で、すごくかわいがってくれたのに、触ろうとしたり、顔を寄せたりするのを見て、「やめて!」ときつく言ってしまいました。

 

あんなにかわいく思っていた息子への自分の感情の変化に戸惑いました。

 

夫に相談しても、「俺に言われても分からない」と取りつく島もなく。

 

そのうち、息子に対する私の態度はどんどん悪くなりました。「ママー!」と呼ばれただけなのに、「なぁに~」「はぁい」ではなく、「なにっ!?」と眉間にしわを寄せて応えたり。

 

小学校に上がってからは、宿題や身の回りのことなどがちゃんとできないことにイライラし、次第に叱る回数も増えていきました。

 

その後、離婚。同時にフルタイムで再就職。

 

正直、当時のことはよく覚えていません。毎日が慌ただしく、子どもたちの心のうちに向き合ってこれなかったと思います。

 

息子が「やるべきこと」をしなかったり、やんちゃをすると厳しく叱り、冷たい態度をとり無視することも。そのうち、妹にいじわるをしたり、私の財布からお金を抜き出したり「いけないこと」を繰り返すようになりました。

 

その段階で何か手を打てばよかったのに、仕事と家事に忙殺される日々に流されてしまった。

中学に進学し、学校や部活での人間関係もうまくいかず、家のなかで暴力をふるって、警察や児童相談所のお世話になりました。それをきっかけに、学校の先生に相談したり、カウンセリングを受けたりしています。

 

息子に冷たくあたってしまうのはなぜなんだろうとずっと悩んでいました。私が親にむいていないせいとか、姉妹で育ち、男の子の言動をうまくコントロールできないからだとか、実母に息子のことを咎められて私が否定されたような気分になったからとか。

 

でも、数年前にSNSで同じような悩みを持っている人たちがたくさんいることを知り、少しほっとしたんです。私ひとりじゃないんだって。一方で、もっと早くに知ることができたら、何か違っていたかもしれない、とも。

 

今、反抗期もあって、「おまえのせいだ」「妹ばかりかわいがってる」「ぼくが望んでることは何もしてくれない」などと罵られるヘビーな日々です。修行だ、忍耐だ…と自分を戒めながら、関係回復への道を模索しています。

 

・・・

 

複雑で繊細な悩みなので、ひとりで、あるいは家族だけで抱えている人も多い「上の子かわいくない症候群」。子どもの心と親子関係を破綻させないために、勇気を出して専門家の門をたたくことが大切だと言えそうです。

 

「同じ悩みを抱えるすべての人が、ひとつずつ、少しずつ、絡まった糸がほぐれていくことを、心から願っています」というCさんの言葉が印象的でした。

取材・文/笠原美律