育児と仕事で多忙な日々に身を任せていたら、いつのまにやら白髪がポツポツ…。染めるにせよ生かすにせよ、自分がすてきだと思える髪型を模索したい。そのためにまず知っておきたいのは、白髪がどうやってでき、これから髪とどう付き合っていけばいいのかということです。クレアージュ東京 エイジングケアクリニック院長の浜中聡子さんに、子育て世代と白髪の関係についてお聞きしました。
白髪の原因は加齢・遺伝・ストレス
── そもそも、 なぜ年を重ねると髪の毛は白く変化するのでしょうか。
浜中さん:髪の色は、毛根部にあるメラノサイトという色素細胞で作られます。若い頃はこの細胞が活発に働いてメラニン色素をつくり、髪に色を届けます。アジア人の場合、黒色が多いですよね。
しかし、メラノサイトの働きは年齢とともに鈍くなり、つくられるメラニン色素が減少。おのずと髪色も薄くなり、多くは黒から茶色や灰色へ、そして白へと段階を踏んで変わっていきます。
白髪が現われるのは、30代後半から40代にかけての時期が一般的。「自分だけ白髪が目立っている」と話す人がよくいますが、カラーリングが当たり前だから他の人の白髪に気づかないだけなんですよ。
── 白髪を発見しやすいのは、やはり生え際ですか?
浜中さん:加齢性の白髪が初めに出やすいのは、男女ともに生え際です。そのほか、もみあげから、全体にボツボツと…など、白髪の出方にはいろいろなパターンがあります。
医学的な根拠はわかっていませんが、白髪は黒髪より少し太いので目立ちがち。白髪になると髪質も変わるうえ、生え際の毛は女性ホルモンの低下によって伸びが遅くなりやすい。そのため、額で短い白髪がはねているのが気になる人は多いですね。
── メラノサイトの働きが悪くなるのは、加齢だけが原因でしょうか。
浜中さん:一番の原因は加齢です。年齢とともに体内の血流が落ちるため、メラノサイトのある毛母細胞に栄養が行き渡らなくなり、若いときのように活発に働かなくなるのです。
白髪は、薄毛や抜け毛に比べると、遺伝的要因も大きいですね。若白髪も含め白髪が出始める時期、白髪の現れ方には遺伝が強く関係しているといわれます。
そのほか、鉄分やタンパク質、ミネラル類などの栄養不足、生活習慣の乱れ、睡眠不足、ストレスも影響を及ぼします。
高齢出産・産後復帰早期化の影響
── 妊娠、出産と白髪には関係がありますか?
浜中さん:女性ホルモンの影響を受けやすいのは、白髪よりも薄毛です。よく知られる産後脱毛も、女性ホルモンの低下が原因。妊娠して急増した女性ホルモンが、出産後、極端に下がり、妊娠中に抜けるはずだった毛と産後に抜ける毛が同時に抜けてしまうのです。
近年は産後の職場復帰にあわせて、「以前と変わらない髪で復帰したい」とクリニックの門をたたく30代女性も数多くいます。薬を使うこともありますが、サプリメントだけで改善できるケースも少なくありません。
産後、女性ホルモンが不安定なまま年齢を重ね、薄毛になっていく人は多いです。最近は不妊治療の普及もあり、高齢出産が増えていますから、なおのことです。
ただ、女性ホルモンそのものの影響は受けにくくても、育児が始まり、仕事との両立で生活が不規則になったり、ストレスをためやすかったりすると、白髪にもつながりやすい。その意味で、白髪にも影響があるということは言えるかもしれません。
白髪になった髪が再び黒くなる可能性は?
── 出始めの白髪は目立つため、つい白髪を抜きたくなることもあります。
浜中さん:白髪に限らず、髪を抜くのは毛根を痛める行為。繰り返せば、髪の毛が生えなくなってしまいます。もともと毛根からは数本の髪が生えているものですが、年齢を重ねれば、その本数や密度は減っていくもの。せっかく生えている毛は大切にしましょう。どうしても気になるのであれば、根元あたりで短く切るのがよいでしょう。
── 白髪になった髪が再び黒くなることはありますか?
浜中さん:例えば円形脱毛症の回復期に増える白髪、白斑症という皮膚科疾患や極度の貧血、甲状腺機能低下などによる白髪であれば、疾患を治すことで白髪をなくすことはできます。しかし、加齢性の白髪が回復することは、残念ながらほぼありません。
ただ、栄養や睡眠をきちんと摂って、今の白髪の状態を維持することは可能です。また、髪のボリュームや髪質は改善できますから、白髪以外の面から髪を美しく変えることはまだまだできます。
──黄色っぽさやうねりを改善して、美しい白髪を育てることはできますか?
浜中さん:時間はかかりますが、可能です。髪色や髪質には生活習慣が影響します。喫煙習慣のある人は白髪が黄色っぽくなりやすく、飲酒が極端に多い人はつやのないうねった白髪になりやすいものです。
たばこは控え、お酒も適量にとどめましょう。もし将来、グレイヘアにしたいと考えているなら、今から10年前から生活改善をしたいですね。
──とくに仕事と子育てを両立している人が、白髪予防のために気をつけたい生活習慣はありますか?
浜中さん:ストレスとうまく付き合うことです。子育て中は「こうすべき」という思い込みにとらわれやすいがちですが、自分と子どもにとってのベストを目指した方がいいと思います。
子どもの年齢に関わらず、子育てによるストレスは形を変えて現れます。自分がこだわりたいところを見極めたり、定期的に一人の時間を取るようにしたり、ストレスを腹八分目で逃がす習慣をつけたりと、落ち着いてコンスタントに健康管理を。
女性にとって、髪の毛は外見的に大事な一要素。髪の元気がなくなると自信を失い、ほかのことにまで後ろ向きになる人は少なくありません。心身共に健やかに過ごすために、ぜひ自分の髪を大切にケアしてあげてくださいね。
PROFILE 浜中聡子さん
クレアージュ東京 エイジングケアクリニック(旧Dクリニック東京ウィメンズ)院長。医学博士。日本抗加齢医学会専門医、国際アンチエイジング医学会(WOSAAM)専門医、米国抗加齢医学会(A4M)専門医などの資格を多数取得。「ウェルエイジング」を提唱し臨床現場に立ち、女性の頭髪治療専門クリニックとして開院以来20万人以上の悩みと向き合う。