前回の記事「息子の『むけた!!』で大騒ぎ 母は『で、この後どうしたらいい?』」では、男性が「むいて洗う」ことは、亀頭包皮炎や「HPV((ヒトパピローマウイルス)」が原因である陰茎がんや子宮頸がんのリスクを減らす観点からも重要と書きました。
両親が子どものおちんちんをむいてあげる「むきむき体操」は、これらのリスクを予防する有効な手段として知られていますが、専門家の間では意見が分かれているようー。では私たちはどちらを選択すれば良いのでしょう??
専門医に聞く、おちんちん「むきむき問題」の最新事情(後編)
「むきむき体操」をめぐる専門家の大論争!?
ヘルスプロモーション推進センター代表で、泌尿器科専門医の岩室紳也先生は「不要な包茎手術や、包茎に伴うリスクを減らしたい」との思いから1994年に神奈川県の厚木市立病院(当時は神奈川県立厚木病院)で「むきむき体操」を指導するようになりました。その後、テレビや育児雑誌にも取り上げられ、広く一般にも知られるようになりました。岩室先生は現在も厚木市立病院で生まれる全ての赤ちゃんに「むきむき体操」を指導しています。
「むきむき体操」は医学的には「包皮翻転(ほんてん)指導」と呼ばれ、子どもの包茎を治療する際には、最も有効な手段として、泌尿器科の間でも広く採用されています。しかし、治療を必要としない子どもに対して「むきむき体操」を行うか否かについては、専門家の間でも意見が分かれているようです。一体なぜでしょう?両者の意見を整理してみます。
むきむき「しない派」の主な意見
「子どもの包茎はごく自然なもの。幼児期から小学生にかけて少しずつむける子が増え、おちんちんが急激に成長する第二次性徴期にほとんどの子がむけるようになります。包皮翻転指導(=むきむき体操)は亀頭包皮炎を繰り返すなど、治療が必要になった際に実施します。親が無理にむくとトラブルが起きることもあります。また、むきむき体操をしたから将来の性器トラブルを防げたというエビデンスがありません。」
「むきむき体操」推奨派の主な意見
「包茎に伴うリスクは、亀頭包皮炎だけでなく、真性包茎(=まったく皮がむけない状態)に伴うがんなど重大なものがあります。周囲から情報が入って思春期にむくことが出来れば良いですが、最近は『むく』こと自体を知らないまま大人になるケースも増えています。両親が幼い頃から子どものおちんちんをむいて清潔を心がけることは、包茎に伴う重大なリスクを回避し、健康を守る有効な手段です。因果関係の証明については、『むいて洗う』を続けていれば亀頭包皮炎や真性包茎を回避できるのは明らかです」
うーーーん、、、こうして意見が真っ二つに分かれていると両親は混乱してしまいますよね。「専門家のみなさん、どうか学会で意見を一致させてください!」と声を大にして言いたくなってしまいますが、現状では意見が分かれたままですから、私たち自身が情報を収集して「考え、選択する」しかありません。
逆にいうと、どちらも専門家の意見で「間違い」ではないので、どちらを選択しても、ムキになる必要はありません。自分が何を大事に思うか、または家族や子どもとの「対話」の中でそれぞれのやり方を見つけられると良いのかもしれません。ちなみに我が家は「おちんちんはむいて洗う!それを一生続ける!その大切さを伝えていく」で意見が一致しました。
最後にそれぞれの選択の注意点を整理しておきます。
「むきむき」しない場合に気をつけること
両親が子どものおちんちんを積極的に「むきむき」しない場合も、「おちんちんに関してノータッチはよくない」と言うのが概ね専門家の一致した見解です。お風呂で体を洗うときには、おちんちんも優しく一緒に洗い「汚れた手で触らないようにね」などと声をかけてあげると良いようです。
小学生になったら自分で洗うことを教え、むけるところまでむいて洗うことができるとベスト。思春期には、95%の子どもがむくことが出来るようになると言いますが、残りの5%に入り、むくことを知らないまま大人になった場合は様々なリスクを抱えてしまいます。日頃から「むいて洗う方が清潔だよ」と声をかけてあげることはとても大切なことです。
「むきむき」する場合に気をつけること
まず何より「むいたら戻す!!」と言うことです。(その事を知らずにてんやわんやになった我が家の騒動は前回の記事にも書きました)。むいた皮をそのまま放置していると、皮が亀頭部分を締めつけ「嵌頓(かんとん)包茎」という状態になることがあります。子どもが自分でむく際にも「むいたら戻そうね」と必ず声をかけてあげてください。
そして次に、むきむきする場合はは必ず清潔な手で行います。性器の周りには大腸菌など様々な細菌が付着していることがあるので、清潔操作はとても重要です。
「むきむき体操」は1日30回、おちんちんの皮をむきむきすることが基本です。医師が提唱するもので、上記の注意点を頭に入れながら手順を踏んで行えば問題はありません。
今回手順の詳細までは書きませんが、岩室先生に伺ったプロセスは下記の通りです。
<1>まずはおちんちんの構造をよく知る
<2>小さな包皮口を広げるために皮を根元までずらす動きを繰り返す
<3>亀頭部分が出てきたら少しずつ刺激に慣れさせる
<4>包皮口がゆるゆるになるまでむいて戻す、を繰り返す
<5>包皮と亀頭部分の癒着を少しずつはがしていく
<6>完全にむけたあとも「むいて、洗って、また戻す」を続けていくことが大切
岩室先生の経験から、0歳児が1番むいてあげやすいようです。4歳以降は自分でやるように促してあげると良いようです。また、炎症を繰り返しているなど特別な事情がない限り、全員「むけます」とのことです。
こうして深掘りしてみると奥深いおちんちんの「むきむき問題」。おちんちんに関しては「父親にお任せしている」という方も多いと思いますが、父親は自分の経験則から判断しがちで「女性の方が科学的根拠に基づいて判断できる」という意見もあります。それぞれの選択肢のリスクを正しく理解するためにぜひ積極的に情報収集し、息子のおちんちんと向き合ってみてください。
取材・文/谷岡碧 イラスト/石川さえ子