かつては「裕福な家庭」「優秀な子」のためのもの、というイメージが強かった中学受験。しかし最近では、多くの家庭がチャレンジするようになっています。
気になるけれど、何から始めればいいのかわからない…。そんな保護者向けに、「中学受験の正体」を“イロハ”から進学塾VAMOSの代表富永雄輔さんに教えていただきます。
今回は、本格的な塾通いが始まる新4年生(3年生2月)前にできることについて。
早くから通塾して先取り学習をしている家庭もあるけれど、低学年のうちはのびのびさせてあげたい気持ちも…。実際はどうなのでしょうか。
低学年のうちは「子どもの集中力」を見守って
先取り学習はそんなに無理をしなくていいと思います。
それより低学年のうちは「集中する練習」をしておくことがおすすめ。練習といっても難しいことではありません。子どもが何かに集中する時間を確保してあげるんです。
例えば土日に3時間くらい好きなことをする時間を与えて、どれだけ子どもがのめり込むのか、見守ってあげてください。
集中する対象は、レゴやお絵かきなど子どもが好きなものでかまいません。そういうものがなければゲームやYouTube、漫画でもいいですよ。
「ゲームや漫画でいい」と言うと皆さん驚くかもしれません。でもよく考えてみてください。ゲームや漫画で集中できない子が、算数に集中できるわけがないんです。
勉強をするには集中力が必要です。小さいうちに何かに集中する経験をしてきた子は、受験でも強いですよ。
子どもの集中力を伸ばすポイントは、大人があれこれ口を挟まないこと。絵を描くのでも「ここは違う色がいい」などと口を挟み、子どもが夢中になっている時間を台なしにするのはやめてください。
計算や漢字は先取りをしておくとラク
とはいえ、「公文などで、6年生段階まで学習を進めておくと受験に有利」という理屈を否定するつもりもありません。
なぜなら、塾と公立小学校のカリキュラムにはかなりのギャップがあるからです。
新4年生が算数で最初に取り組む単元は、一般的に植木算や和差算です。それを解くために必要な計算法は、4年生の2学期ぐらいに習うもの。つまり、入塾していきなり知らなかった計算法を覚え、それを使いこなさないと解けない問題に出くわしてしまうんです。
もちろん塾でも計算法を教えるところからサポートしますが、新しい通塾生活であれもこれも覚えるのはしんどいもの。「6年生まで先取り」までは求めませんが、計算については公立小学校のプラス1年ぐらい先を習得しておくと有利です。
算数と同様に、国語も学校で習うこととの差があります。「読書習慣が学校の教科書だけ」といった子どもに、長文読解はまずこなせないでしょう。ただし、国語力はその子の成長のスピードによって決まる部分があるので、テクニカルに上げることは難しい。だから確実に点が取れる漢字だけでも、先取りしておくとラクなんです。
計算や漢字の先取り学習は、家庭で取り組むことも可能です。ただ、共働きなどで多忙な保護者が増えていることもあり、家庭でのサポートはなかなか難しい。それが、低学年からの通塾増加につながっているのだと感じています。
勉強のクセ、時間のやりくりを把握しておく
「低学年のうちは通塾しない」と決めた家庭でも、トライアンドエラーしながら、子どもの勉強のクセを把握しておくと安心です。
学校の宿題をやるときに、子どもが集中できるのは、朝なのか、夕方なのか、夜なのか。平日は忙しいので、土日の方がいいのか。試しながら観察してみてください。
場所はリビングがいいのか、勉強部屋がいいのか。1人で勉強するのが好きなのか、1人にしておくと遊んでしまうのか。
他には、母親が教えた方がうまくいくのか、父親の方がいいのか。注意されるとヘソを曲げてしまうのか、素直に聞くのかなどもポイントですね。
中学受験は、子どもの個性によって保護者の接し方も変わるので、子どもの勉強のクセがわかっている保護者は強いですよ。
いざ受験塾に通うとなったら
入塾数か月前には、
- 保護者の仕事はどう調整するか(送迎や食事のしたく)
- 家族の食事の時間はどうするか
- きょうだいの習い事の送迎と重ならないか
- 塾の送迎は必要か
といったことを、シミュレーションしておくと、入塾後の生活がスムーズです。
家族旅行は低学年のうちに?
時間に余裕がある低学年のうちに家族旅行や自然体験をさせておかなくては…と焦る保護者もいます。
確かに6年生の秋以降は講習や模試で土日はつぶれますが、実は6年生の夏まではそれほど過密スケジュールではありません。だから低学年のうちに焦って予定を詰め込まなくても大丈夫です。
とにかく忙しいのは平日なので、平日の回し方をしっかり考えておいてください。
低学年のうちは、勉強先取りよりも、子どもが何かに集中する時間を確保してあげることが大事。子どもの勉強のクセや、子どもに適した環境を探ることが、のちのち実を結ぶことになりそうです。