かつては「裕福な家庭」「優秀な子」のためのもの、というイメージが強かった中学受験。しかし最近では、多くの家庭がチャレンジするようになっています。
気になるけれど、何から始めればいいのかわからない…。そんな保護者向けに、「中学受験の正体」を“イロハ”から進学塾VAMOSの代表富永雄輔さんに教えていただきます。
今回は、「のんびり屋のわが子に受験なんてできるの?」という不安について。
「なんだかとにかく大変そう」というイメージがある中学受験ですが、実際のところはどうなのでしょうか。中学受験に向いている子、逆に向かない子の違いは…?
将来の道を決めている子は…
僕に言わせると、実はほとんどの子どもが中学受験に向いています。
例外があるとしたら、ピアノや野球、サッカーなど、すでに打ち込んでいるものがあって、それで将来食べていく、プロになるという強い気持ちを持っている子でしょうか。
すべてを捨ててでもやりたいことがある、そういった子を中学受験に向かわせるのは難しいでしょう。
中高一貫校が人気を集める理由のひとつに、「高校受験にわずらわされることなく学生生活が満喫できる」という点があります。得意なことがあるけれど、プロになるほどではないという子どもには、「中高一貫校で好きなことに打ち込む」という進路が魅力的になることもあります。
勝気な子・闘争心のない子…向いているのは?
「うちの子のんびりしてるから、中学受験なんてとても…」という声をよく聞きます。でも、僕に言わせれば、ほとんどの子はのんびりしていて、ハングリー精神なんてありません。
だってそうでしょう。少なくとも中学受験に興味を持つようなご家庭では、食べるものに困ることなんてありません。強く望まなくても、スポーツや習い事にお金をかけてやらせてもらえる。スポーツや習い事も、「楽しんでやりましょう」という雰囲気のところがほとんどです。そんな環境でハングリーになるわけがない。
中学受験は、ハングリーでない子どもたちが大勢チャレンジしているわけですから、「のんびりしているから向いてない」わけないのです。
ただ、そういう子どもたちを受験に向かわせるには、コツがいります。どうすればうまくいくのか、子どものタイプ別に簡単にご説明しましょう。
中学受験において子どもの性格は、次の4パターンがあります。
- 超勝気な子
- 闘争心が全然ない子
- プライドが高くて失敗を恐れる子
- 幼くて鈍感な子
超勝気な子…本番前に「負け」に慣れる経験を
超勝気な子は、のんびりした子が多い中で、「上を目指したい」「そのためにがんばる」気持ちがあるわけですから、それだけで受験には有利です。学校の勉強もできる子でしょう。ただ、こういう子は本番や本番直前で挫折すると心が折れてしまいがちですから、「負け」にある程度慣れさせることも大切。
いつもよりレベルの高い模試を受けさせて、「6勝4敗」くらいの割合でがっかりする経験をさせるといいですね。目的はあくまでも負けに慣れることですから、負けても保護者はがっかりせず、笑って受け入れてください。
闘争心のない子は悪気がないだけ
まったく闘争心のない子は、テストで悪い点を取ってもヘラヘラしていて全然こたえません。ただ、悪気があるわけじゃないんです。テストの意味、塾に親が払ってくれているお金のありがたみなど、まだ知らないだけ。
そういう子に対しては、悪い点を取ったときに家族中で暗い雰囲気になって、「点数が悪いことは、よくないことなんだ」と実感させるのもひとつの方法です。保護者が本気で落ち込む必要はありません。あくまで演技なので「子どもに実感させる」という目的を忘れないでください。
失敗を恐れる子…プライドは折れてもすぐ伸びる
人目を気にして勝負したがらない子もいます。こういう子は、ある程度はできる、がんばれるからこそ人目が気になるわけです。
こういう子に対しては、早めにプライドを折ってあげるといいでしょう。過去問を親子で一緒に解いて(ただし親はこっそり予習をしておく)、「やーい、お父さんはこんなにできたぞ」とあおったり。プライドの扱いは難しいですが、子どものプライドは折れてもすぐ強く伸びてくるので、大丈夫ですよ。挫折を早めにしておけば、あとは伸びるだけ。もちろん、子どもができたときは思いっきりほめてあげてください。
中学受験で実は一番強い、幼くて鈍感な子
幼くてボーっとしている鈍感な子は男の子に多いですね。塾通いは「楽しいから」とか、「親が行けって言ったから」とかで、なんとなく惰性で通っています。実はこういう子が中学受験では一番強い。
今の中学入試の日程を見てもらえるとわかりますが、受験したらその日のうちに結果がわかって、その状態で翌日の試験を受けなければならない。そこで求められるのは、1回目が負けでも、気にせず2回目、3回目も戦える「鈍感力」です。
ボーっとしている子でも、最後の3か月になれば本気になりますから、そこまで惰性で通塾できたら勝ちです。親はハラハラしながらも、それを見守ることです。
中学受験、最後まで走り切れないのはどんな子?
中学受験生活、僕は9割のお子さんは走りきれると思ってます。では、走り切れない1割はどんな子か。
実は、走り切れない場合のほとんどは、保護者の過大な期待で子どもがつぶれるパターンです。
保護者の方がよく言います。「子どもにそんなに勉強しろとは言っていないです」「無理にやらせたりしてません」って。
でも、保護者にとっては小さなことでも、キャパが小さい子であればちょっとの期待でも潰れちゃう。そこは注意した方がいいでしょう。
「この子はそろそろキャパオーバーだな」というサインは、勉強しているときの顔に現れます。表情がつらそうなら「危ないな」と考えましょう。問題が解けなくてもヘラヘラしているうちは、むしろ大丈夫です。
わが子がつらそう…。そんなとき、保護者は悩むでしょうが、一番駄目なのは保護者だけで勝手に判断してしまうことです。まずは塾の先生に相談してください。そして、保護者と塾の役割を整理してみるんです。
話し合った結果、いったん塾を休ませる作戦もありでしょう。逆に、通塾回数を増やし、家での勉強時間を減らす方法もありえます。家で親がつきっきりで勉強を見るのがつらい、という場合もありますから。あるいは、志望校を変える作戦もあるでしょう。
受験の主役はあくまでも子どもです。それを忘れると、中学受験は走りきれなくなりますから、気をつけてくださいね。
ほとんどの子どもは中学受験に向いている。ただし、保護者は過度な期待をかけないよう注意が必要。中学受験をする際は、わが子の様子を注意深く見守りながら、保護者と塾が協力してサポートすることが大事だと言えそうです。