「資料のココ間違っているよ」「あの話し方は直そうね」。後輩に仕事のミスを指摘、ちょっとアドバイスしただけなのに、「先輩、イライラしているみたい」「ほんと怖いよね」とコソコソ。アンガーマネジメントコンサルタントの松井晴香さんは「怒っている、と勘違いされる方は、“リクエスト”と“しぐさ”に注意を!」と提案します。
怒りが“敏感”に伝わるのは避けられないこと
怒っていないのに、怒っていると言われてしまう——。こうした悩みを持つ方、多いのでは?その理由はとてもシンプル。人が怒りの感情にとても敏感だから、です。
そもそも「怒り」は「防衛感情」と呼ばれることがあります。自分の身を守るための感情。たとえば、私たち人間をふくめた動物は、自分の身に危険が迫ると心臓の鼓動が激しくなります。
これは体中に血液を大量に送り込むことで、すぐに肉体を動けるようにしているから。命を奪うかもしれない危険な状況と「戦う」か「逃げる」か、しやすくするためだと言われています。
野生動物にくらべたら、私たち人間は命に関わる危険に出くわす機会はかなり少ないでしょう。でも、命だけではなく自分にとって大切な価値観、立場などがおびやかされたときに私たちの怒りの感情はわきあがります。敏感なセンサーのような役割もあるんです。
「戦う」か「逃げるか」というすごいエネルギーを表しているのが怒りですから、それをあらわにする相手に対しても、私たちはとても敏感にならざるを得ませんよね。
だからこそ、ちょっとした怒りに似た口調や、しぐさにも人は敏感になってしまう。少し強い口調だけで“怒っている”、やや視線が冷たいと“イライラしている”、“自分が嫌いなんだ”と、過剰に反応してしまうわけです。
仕事熱心な人が「こうしたほうがいいよ」「もっとこうやらないと」と指摘する際、思わず声に力が入ったり、ちょっとキツい言い方になることもあるでしょう。言われたほうは、これを「怒り」として受け止める可能性も高まります。敏感に感じざるを得ないからです。
だから、言われた相手は「先輩は怒っている」「上司がイライラしている」と、表層的な怒りの感情のみに引っ張られてしまう。あなたは本当は「こうしてほしい」「ここを直してほしい」とリクエストが伝えたいのに、届くべきそれが届いていない状況になってしまっているのでしょう。
この勘違いを避けるには、感情とリクエストを切り分けるのです。
具体的なアドバイスをすれば誤解されない
仕事上の注意をする、修正を依頼する。部下や後輩を指導するときは、できるだけ「怒りの感情で大切さを伝えない」意識を持ちましょう。
まずは「何やっているの?」「しっかりしてよ」といった感情的で、どうしてほしいのかが曖昧に聞こえる言葉は使うのをやめましょう。「この資料の、この部分を、いつまでに、このように修正すると、もっとよくなる」といった具合に、“具体的”にこうしてほしいリクエストだけを伝えるのは大前提です。
さらにカンタンに感情を切り分けられるのが、伝える“しぐさ”を変えること。「上司(先輩)としてしっかり教えないと!」と気負いすぎると、感情が強く前に出てしまい、早口になったり、声のトーンが高くなり、表情も険しくなりがちです。これらは、相手から「怒っている」と勘違いされがちなしぐさに映ります。
そうではなく、「ゆっくりと落ちついて」「声のトーンはなるべく低く」「にこやかに」、リクエストを伝えましょう。この3点を意識するだけで、受け手の印象が変わり、少なくとも「怒っている」と、勘違いされることはなくなるでしょう。あなた自身が機嫌の良さを演出して、誤解を与えなければ言われた方も素直にアドバイスを聞くはずです。
監修/松井晴香 取材・構成/箱田高樹 イラスト/ナカオテッペイ