かつては「裕福な家庭」「優秀な子」のためのもの、というイメージが強かった中学受験。しかし最近では、多くの家庭がチャレンジするようになっています。
気になるけれど、情報が多すぎて何から始めればいいのかわからない…。そんな保護者向けに、「中学受験の正体」を“イロハ”から進学塾VAMOSの代表富永雄輔さんに教えていただきます。
今回は、一都三県で中学受験をめざすにあたって、まず候補にあがる四大塾(サピックス、早稲田アカデミー、日能研、四谷大塚)について紹介します。
塾選びは志望校や予算によって変わる
大前提として、塾は子どもたちを志望校に受からせたいと思ってやっています。そういう意味では、どこもいい塾です。
ただ、各家庭の方針やライフスタイルとの相性の良し悪しはどうしてもあります。
「復習主義or予習主義」「通塾日数が多いor少ない」「塾の滞在時間が長い(弁当が必要)or短い(弁当は不要)」「教材が冊子中心orプリント中心」などにより、保護者がサポートすべきポイントは違います。まずはどんな塾が合うのか、見極めることが大切です。
難関校狙い、シンプルなシステムのSAPIX
SAPIXは、2021年の開成合格者数が269人、桜蔭160人など、トップ校への合格実績がダントツです。テキストやカリキュラムはとくに難関男子校対策にぴったりな内容です。女子校でも、算数が難しい桜蔭や豊島岡を目指すにはいいでしょう。逆に、中堅校狙いの場合には負荷が大きすぎるかもしれません。復習主義をかかげているので、たくさん宿題が出ます。塾に行くたびにプリント教材を持ち帰ってくるので、保護者がそのファイリングやいつ何をやるかというスケジューリングを手伝うことが必要に。
保護者は大量の教材の整理と、子どもが課題をきちんとこなすようサポートすることが求められます。保護者もしっかり子どもの勉強に関わりたい家庭に向いています。
多くの進学塾がそうであるように、SAPIXも成績別にクラスが決まります。とくにSAPIXではいっさいの忖度なしに、点数のみでクラスが決められます。また、成績がいいから、悪いからといって特別補習などはない、ある意味公平な塾です。こうした方針が「合う」家庭もあれば、「合わない」と感じる家庭もあるでしょう。
大規模な校舎だとクラスは20ほどあり、子どもによっては、テストのたびにジェットコースターのようにクラスが変わります。それが辛いので、あえてクラス数が少ない校舎に通う人もいるようです。
□こんな家庭におすすめ
・難関校を目指したい
・保護者もしっかり家庭学習に関わりたい
・成績別のクラス分けに納得できる
「NN」が人気、多彩なオプションの早稲田アカデミー
早稲田アカデミー(以下早稲アカ)では、御三家や早慶附属校などについては「NN(何がなんでも)志望校別コース」を設置し、合格に向けての指導に塾全体で力を入れています。
NNコースに在籍すれば志望校に合わせた手厚いサポートを受けられますし、同じ志望校を目指す仲間が集まることで、高いモチベーションを持って勉強できるのが魅力です。NNコースが設置されている志望校を目指すなら特におすすめです。
校舎が多く、通いやすい場所にある可能性が高いため、通塾に時間をかけさせたくないなら、近くの早稲アカを選ぶというのも手です。
講師と生徒の結びつきが強い傾向にあり、通っている校舎の担当の先生と相性が合えば、通塾は楽しいものとなるでしょう。また、合宿を実施してはちまきを巻いてみんなで勉強をする、といった雰囲気作りをしているので、そういうノリが好きな子どもには楽しい塾生活となりそうです。
早稲アカでは多彩な授業、オプションを用意していて、わが子の状況に合わせた設定ができます。ただし、オプションをつければその分コストがかかります。トータルコストを意識して、どこまでオプションを利用するか、ラインを引いておくことをおすすめします。
□こんな家庭におすすめ
・「NN(何がなんでも)志望校別コース」が設置されている学校を目指している
・通塾に時間をかけたくない
・コストをかけてもわが子に合った勉強をさせたい
中堅校狙いコスパ重視なら、日能研
近年急速に、中堅校と上位校の問題の質が異なるものとなってきています。かつては「上位校対策をしていれば自然に中堅校に合格できる」のが当たり前でしたが、今はそう簡単なものではなく、中堅校独自の対策が必要になっています。
難関校狙いのSAPIXや早稲アカのテキストは発想力や思考力を重視しているため、中堅校対応が不十分になってきています。一方で、繰り返し学習をしっかりさせて中堅校独自の対策ができるのは日能研ですね。多くの女子校に強く、驚くほどの合格実績を出しているので、女子には特におすすめです。
また、入塾テストのハードルが低いので、低学年のころ勉強に手をかけられなかったスロースタート組にはありがたい塾です。
比較的月謝が安く、オプションもほとんどない点もメリットのひとつです。ただしその分、1クラスあたりの人数が30人くらいと、他塾に比べて多いことは留意しておきましょう。
□こんな家庭におすすめ
・難関校にこだわらない
・中学受験対策に出遅れた
・できるだけ低コストで通塾したい
入塾テスト合格は「2人に1人」信頼と伝統の四谷大塚
保護者世代にとっては「中学受験といえば四谷大塚」というイメージが強い、伝統ある塾。長年にわたって磨き上げてきたテキスト、模試は頼りになる存在です。模試は他塾の生徒も利用していて、中学受験で「偏差値」といえば、一般的には四谷大塚の模試の数字を指すほどです。
四谷大塚では、2、3年前から、塾全体で難関校狙いに方針を変えたようです。現在、ホームページのうたい文句が『入塾テストの「合格」は2人に1人! 四谷大塚は選抜制進学塾です』ですから、その強い意志を感じます。明らかに上位層の生徒を求めているので、難関校を狙う家庭は検討してみるといいでしょう。
テキストの名前が『予習シリーズ』とあるように、予習主義の塾です。つまり家庭では新しい単元の予習と復習のサポートが必要になるということ。予習をサポートする自信がない…という家庭のために、予習のための動画(ただし有料)も用意されています。
□こんな家庭におすすめ
・難関校狙い
・「予習させる」方針に賛成
・客観的なデータを把握したい
塾を選ぶ際は保護者がどう関わりたいのかを考えておくのはもちろん、大手塾を選ぶ場合は、子どもの個性と志望校をある程度見極めておくことが大切と言えそうです。