かつては「裕福な家庭」「優秀な子」のためのもの、というイメージが強かった中学受験。しかし最近では、多くの家庭がチャレンジするようになっています。
気になるけれど、情報が多すぎて何から始めればいいのかわからない…。そんな保護者向けに、「中学受験の正体」を“イロハ”から進学塾VAMOS代表・富永雄輔さんに教えていただきます。
今回は、中学受験過熱の追い風にもなっている、中高一貫校の高校募集停止や大学入試改革について伺います。
高校募集をやめる中高一貫校が急増中
近年、高校受験で入れる学校が減ってきていることはご存じでしょうか。
特に一都三県では、中高6年かけて教育するメリットを感じて、高校募集をやめる中高一貫校が年々増えています。
特に女子校でその傾向が強い。偏差値(四谷大塚発表)50以上の進学校は、高校募集がほぼゼロです。募集しているのは慶應女子くらい。御三家(桜蔭、女子学院、雙葉)はもちろん、吉祥女子、鴎友、豊島岡といった難関校のほか、大妻、共立、山脇、女学館、そして三輪田、跡見といった中堅校…、あらゆる偏差値帯の女子校が高校募集をしていません。
募集をやめる男子校も徐々に増えています。いまだ募集を続けているのは、開成、桐朋、巣鴨、城北の4校のみとなりました。海城、早稲田、本郷、暁星、攻玉社、芝、世田谷などは現在高校の生徒募集はしていません。
保護者世代になじみのある有名校の募集がほとんどなくなっていることに、いざ高校受験となってから気づき、「中学受験させておけばよかった」と嘆く保護者も少なくありません。
もちろん、ひと握りのトップ層なら選択肢はあります。
男子なら、筑駒、開成、日比谷は選択肢になるでしょう。ただ、そこに入れるのは計200人くらい(筑駒40名、開成100名、日比谷160名)です。狭き門には違いありません。
また、高校入試には、中学受験で筑駒、開成を狙っていたリベンジ組もいますし、ずっと海外で過ごして英語がバリバリの帰国生も参戦してきます。想像より一段高いレベルの子たちを相手にしなくてはならないことは意識しておいてください。
大学入試を見据えランクを下げて受験する子も
かつて大学入試といえば、知識重視、学力試験一発勝負という形式が主流でした。
受験学年に知識を詰め込めば、いい大学に行ける、非常にわかりやすいシンプルなしくみでしたよね。
しかし、社会構造の変化に伴い、求められる学力が、「知識・技能の確実な習得」から、「思考力、判断力、表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」に変わってきています。
文部科学省主導で行われている大学入試改革は、こうした力を測るためのもの。コロナ禍や不祥事で遅れていますが、今後は記述問題を導入したり、調査書の提出を求める大学が増えていくことが予想されます。
こうした流れの中、受験生の個性や目的意識をアピールする「総合型選抜」(旧・AO入試)、学校での成績や成果をアピールする「学校推薦型選抜」(旧・推薦入試)も増加しています。現在一般入試で入学する学生は定員の半数程度になっています。
要するに、大学入試の戦い方が変わったのです。総合型選抜や学校推薦型を利用するなら、学校との関係を深めて、わが子を推薦に見合う生徒像に持っていかなくてはなりません。当然、美術や体育も5を目指さなくてはいけませんし、日々の学校生活が、入試の評価につながることを意識する必要がある訳です。
こうした新しい入試に、各私学は工夫を凝らして対応しています。英語4技能の習得に力を入れる学校、総合型選抜のアピールに使えるような探究学習に力を入れる学校など…。
とくに中堅校では、新しい入試にスピーディに対応している学校が目立ちます。大学入試を意識して、偏差値の高さよりも、子どもの個性を伸ばしてくれそうな学校や、あえてランクを下げて、“わが子が成績上位10%に入れる学校”を選ぶ保護者も増えています。
今年リニューアルしたばかりの広尾小石川は、予想以上に受験生を集め話題になりました。人気校・広尾学園の姉妹校としてのリニューアルでしたが、実質的には新設校。そこに申込みが殺到したということは、保護者が「旧来の教育にとらわれずに子どもを伸ばしてくれる学校」に魅力を感じているからだと思います。
大学入試は、試験だけで合否を判断するスタイルから、積み重ねてきた学力や人間力を見る時代に。子どもの個性をじっくり育てられる中高一貫校は、今後ますます魅力的な選択肢となりそうです。