かつては「裕福な家庭」「優秀な子」のためのもの、というイメージが強かった中学受験。しかし最近では、多くの家庭がチャレンジするようになっています。
気になるけれど、情報が多すぎて何から始めればいいのかわからない…。そんな保護者向けに、「中学受験の正体」を“イロハ”から進学塾VAMOSの代表富永雄輔さんに教えていただきます。
今回は2021年の動向から、これからの中学受験について伺います。コロナ禍でも、中学受験者数が減らなかったのはなぜなのでしょうか。
コロナ禍でも減らなかった受験者数
コロナ禍に翻弄され続けた2021年の中学入試は、「子どもを電車通学させるリスクを恐れて、私立中学は敬遠されるのでは」「コロナ禍による経済状況の悪化で、中受を断念する人が増えるのでは」と予想する向きもありました。
ところが、2月1日の一都三県の受験者数は、41,251人。前年の受験者数41,288人とほぼ変化はありませんでした。一都三県の公立小学校卒業者に対する2月1日私立中学受験者の割合をみても14.3%(7人に1人)とコロナ禍にもかかわらず前年とほぼ同様の結果になりました。
入試状況はどう変化したか-私立中学受験状況|森上教育研究所より編集部作成
この先、中学受験熱は冷めるどころかむしろヒートアップしていく——、僕はそう感じています。
最近ニュースでも話題になりましたが、大手塾の一部校舎では入塾希望者が増えて、低学年でも入塾できないほどの状況になっています。うちのような中堅塾でも、低学年の入塾希望者が「こんなに!?」と驚くほど増えている。
中学受験が気になっている保護者は、今後中学受験をする子どもの割合が加速度的に増す可能性が高いことを頭に置いておいた方がいいでしょう。
リーマンショックでは受験者数が減ったけれど…
これまでも、中学受験熱が高まっていた時期はありました。公立校の“ゆとり教育”への不安などがあったためと言われています。
それが2008年のリーマンショックで一気に冷え込みました。中学受験を目指すような大手企業勤務の保護者たちが経済的影響を受けたからです。
それに追い打ちをかけたのが2011年の東日本大震災。
電車通学を敬遠する保護者が出て受験熱はさらに冷え込みました。ただ、公教育への不安はくすぶり続けていましたから、その後の受験者数は上がり続け、ここ数年はピーク時に近い割合に戻ってきています。
なぜ中学受験を目指す家庭が増え続けているのか
経済状況はたいしてよくなっていないのに、中学受験を目指す家庭が増え続けているのにはいくつかの理由があります。
次の3つポイントに沿って説明します。
- 保護者の意識変化
- 費用対効果
- 私学の充実した教育体制
保護者の意識変化…受験に抵抗のない保護者が増えている
まず、大きいのは保護者自身が中学受験を経験した世代であること。
本人が受験していなくても職場の同僚や後輩が経験者だったりして、身近になっています。周りに受験経験者がいなくても、社会で活躍している人が中学受験経験者と知り、「中学受験が気になる」という保護者も増えている。
保護者にとって中学受験が特殊な受験ではなくなっている、これが最近の特徴ではないかと思っています。
費用対効果…塾通いは必ずどこかで必要になる
高校受験にお金がかかるようになったこともポイントです。
確かに中学受験塾の月謝も、私立中学の学費も、決して安くはありません。ただ、高校受験のために中1、場合によっては小学高学年から塾に通い、高1から大学進学予備校に通うなら、トータルコストで考えると、中学受験パターンと大差ない…ということも。
入試対策がしっかりしている私立中学に入れば、塾なしで高2ぐらいまで過ごして、高3の1年間だけ予備校に通うだけで済みますからね。
高校受験が迫ってきて「やっぱり中学受験させておけばよかった…」と考える保護者は実は少なくありません。
塾なしで公立高校に合格し、塾なしで大学受験ができれば一番安上がりですが、それができるのはひと握りの優秀な子どもだけ。勉強が好きではない普通の子どもは、必ずどこかで塾通いになります。
「ならば費用対効果が高いのは中学受験」…そう考える保護者が増えてきているのです。
私学の充実した教育体制…コロナ禍の不安にオンラインで対応
もちろん、私学の教育内容への評価も、中学受験を選ぶ大きな動機となっています。とりわけコロナ禍では、公立校と私立校の対応の差が際立つ形となりました。
休校期間中、多くの私立でオンライン化が進んだ一方で、公立中学校のオンライン化はなかなか進みませんでした。
大学入試でも、ふたを開けてみたらほぼ例年通り、一部のトップ公立校を除けば私立の中高一貫校が優位という結果に。私学の強さが際立った1年になりました。
オンライン授業の質はさまざまでしたが、とにもかくにも私学がオンラインという選択肢をすぐに出すことができた、そのことが一部の人にとっては公立との決定的な差になってしまいました。
コロナ禍はまだ長引きそうですから、わが子に対する教育も安定志向にならざるを得ません。リーマンショックの時と違って、不景気の前に不安定な状況がやってきた昨年。大学附属校も含めた私立への流れは、景気がよほど悪くならない限りしばらくは続くことでしょう。
公教育への不安、私学の教育への信頼感、費用対効果などの面から高まっている中学受験熱。コロナ禍においても冷めないどころか、今後もさらに高まりそうです。