小学生の学習とは切っても切れないのが「漢字ドリル」や、漢字の書き取りテスト。
小さい頃、何度も何度も同じ字を練習してウンザリした記憶のある人もいるかもしれませんね。
ドリルやテストでは、漢字の形を正しく理解・読み書きできるのはもちろんですが、とめ・はね・はらいといった細かい部分も見られます。
間違えるとマルや点数がもらえなかったり、正しく書けるまで何度もやりなおした…という人もいることでしょう。
ところが、先日ある小学校で、1年生の国語でとめ・はね・はらいが少しでも間違っていたらマルがもらえず0点…という指導に対して「少し厳しすぎるのでは」という保護者の声が掲載された新聞記事が話題になり、SNSでも議論が起こりました。
そこで今回は、小学生のお子さんがいるママ・パパに、お子さんの学校では、漢字はどの程度「とめ・はね・はらい」を徹底しているのか、お話を聞かせてもらいました。
すると、浮かび上がってきたのは、「学校や先生によって大きな違いがある」ということでした。
なぜそんなにも基準がバラバラなのか。そこには実は理由があったんです。
「厳しい」=「丁寧に教えてくれる」かも
まずお話を聞いたのは、現在小学校2年生のお子さんがいるママのWさん。
お子さんの小学校は各学年3クラスずつですが、1年生の時は、担任の先生によって「とめ・はね・はらい」の厳しさが異なり、戸惑ったといいます。
「娘の担任の先生はベテランで、一番厳しいとの評判でした。たしかに、ひらがなのプリントは細かく赤でとめ・はね・はらいを直されていましたし、国語の宿題も字が崩れていると再提出。娘も疲れた日はもうやりたくない!とゴネたりして、宿題をやらせるのに苦労しました」
しかし、2年生になってクラス替えがあり、最初の授業参観で、Wさんは、あれ?と気付いたことがあるといいます。
「壁に貼り出されたプリントを見ると、明らかにきれいな字の子たちとそうでない子たちに分かれているんです。私の知っている範囲では、やっぱり去年娘と同じクラスだった子たちはそれなりに読みやすい字が書けていましたね」
帰り道、保育園のママ友と会って話していたところ、やはり去年同じクラスだったママ友Aさんも同じように感じたといいます。
さらに、別のクラスだったママ友Bさんからも「うちの子の先生はわりと採点がゆるくて。子どもは多少文句を言うかもしれないけど、厳しい方がうらやましかったわ」と言われたそう。
Wさんは、「厳しい」というのは、見方を変えれば、子どもに嫌がられても毎日丁寧に教えてくれるということなんだ…と、ひそかに去年の担任の先生に感謝したそうです。
「どう思う?」子どもに聞いてみたら…
次にお話を聞いたのは、中学2年生と小学校3年生のお子さんがいるKさんです。
Kさんは、小学校でとめ・はね・はらいを厳しく指導されるのとそうでないのとではどちらがいいか、お子さんにその場で聞いてみてくれました。
すると、小学生のお子さんからは、「0点はちょっといやだけど、△とか減点はいやじゃない」との声が。
お子さんの学校では、小テストなどでとめ・はね・はらいがきちんとできていない時は、1年生は形が合っていればマルはもらえるものの、書き直して提出というきまりだったようです。
3年生からは、国語のテストでは△をつけられるそう。しかし理科や社会のテストでは、誤字は減点されますが、とめ・はね・はらいまでは点数に影響しないようです。
いっぽう、中学生のお子さんからは、
「中学校はテストの内申が悪いと高校受験で困る。小学校で何も言われなくて、中学でいきなり細かく採点されるくらいなら、小学校のうちに減点される方が助かる」
という意見が。
さらに、
「でも、とめ・はね・はらいをめっちゃ厳しくいう先生の字がもし汚かったら、全然説得力ないよね~」 と、思わず笑ってしまう感想も話してくれました。
厳しすぎて漢字が嫌いになりかけた子も
最後にお話を聞いたのは、4年生のお子さんがいるHさん。
「1年生の時の先生が、ちょっと融通が利かないというか、几帳面な先生で。息子は、幼稚園のことを思うと、1時間椅子に座っているだけでもよくやった!とほめたくなるほど落ち着きのない子だったので、とめ・はね・はらいもかなり適当で、先生からすると大変だったのでしょうけど…」
ひらがな、カタカナ、漢字とも、とめ・はね・はらいができていないとマルがもらえず、小テストで10問中9問が、字そのものでなく、とめ・はね・はらいができていないためにバツということも少なくなかったそうです。
「そのうち、宿題の時間になると、もうおれ国語嫌い!漢字嫌い!と言ってドリルを投げたりすることが増えました。このままだと将来困ると思い、話題のおもしろドリルを買ってみたり、終わったらボール遊びしよう!となだめすかして…そのあたりで2年生になり、今度はわりとおおらかな先生だったからか、なんとか漢字嫌いが定着せずに済みました」
そもそも、漢字の形は1つなのか
小学校だけではなく、全世代向けに使われる「常用漢字表」(文化庁)。
その付属文書である「字体についての解説」では、現在の人々の漢字への認識について、以下のように述べています。
手書き(筆写ともいう。以下同様。)文字と印刷文字(情報機器等の画面上に表示される文字を含む。以下同様。)との違いが理解されにくくなっていることや,文字の細部に必要以上の注意が向けられる傾向などが生じている
「”木”の縦棒ははねてもとめても間違いではない」など、手書きの漢字の字体(形)は、骨組みが正しければ細部は1種類とは限らないとして、役所の手続きなども柔軟におこなうように書かれています。
学校での漢字学習についても、学習指導要領に基づき、
児童生徒が書いた漢字の評価については,指導した字形以外の字形であっても,指導の場面や状況を踏まえつつ,柔軟に評価すること。
という文部科学省からの通知が各学校へ届いているそうです。
ただ、「柔軟に」というのは具体的にどこまでを指すのか線引きはありません。
そのため、ある子にとっては厳しすぎてイヤになってしまったり、ある子にとっては本来もう少し読みやすい字の練習をしておくべき時期に、上達しないまま過ぎてしまったり…という状況が起きるのではないでしょうか。
おわりに
今回「とめ・はね・はらい」が話題になったのは、1年生が0点のテストでがっかりして国語や漢字への苦手意識ができてしまうことや、その子の特性や発達段階を見ずに画一的な基準で評価してしまうことが懸念されたようです。
小学校のうちに、読みやすく理にかなった文字の練習をすることに対しては、誰も反対を唱える人はいないのではないでしょうか。
家でも学校でも、基本は押さえつつ、その子に合ったスピードで、読みやすい字を目指していきたいですね。
文/高谷みえこ
参考/文化庁「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)について」 https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/2016022902.pdf