シリーズ初の参加型ムービー『映画 きかんしゃトーマス オールスター☆パレード』(公開中)にはトーマスソングが8曲以上も登場し、音楽が重要な要素の一つとなっています。そこで、音楽教育学を専門とする東京学芸大こども未来研究所の小田直弥先生に、映画に期待できる教育的効果についてお話を伺いました。
「トーマス流でいこう!」とは?
── 小田先生の専門は音楽教育学とのことなので、トーマスソングが8曲以上登場する『映画 きかんしゃトーマス オールスター☆パレード』は特に教育的効果を期待されるのではないでしょうか?
小田先生:
とてもいい質問だなと思いました。僕は音楽が専門ではあるのですが、この記事を読んでくださるみなさんと共有したいのは、狭い領域の教育的効果に期待せず、少し広い目で観てほしいということ。これが僕の願いです。
映画にはいい曲がたくさんあります。リズムの使い方、楽曲のスタイル、テンポや楽器の違いなど、さまざまな音楽的な観点があります。ですが、その音楽的効果を求めるために映画を見せるよりも、まずは「きかんしゃトーマス」というお話を楽しみたいから映画を観るほうが自然な考え方なのかなと。映画で「きかんしゃトーマス」の世界に触れた結果、非認知能力的な側面や、音楽的な側面、SDGs等の観点での気づきがあるかもしれない、という感覚で観ていただくのがいいのかなと思っています。
── トーマスには育てのヒントが詰まっていることが研究により示されたそうですね。子育ての先輩たちが繋いだ「トーマス流でいこう!」について具体的に教えてください。
小田先生:
よくぞ見つけてくださいました(笑)。これは「きかんしゃトーマス」のお話をもじってキーワード化した背景があります。
「トーマスりゅうでいこう」というお話にはトーマスとダックとハロルドがメインキャラクターとして登場します。ダックは仕事のやり方は2通りしかないと考えています。だけど、そのやり方がうまくいかなかったときに、トーマスが第3のアイデアを出してきたんです。つまりダックは2つの価値観に縛られていたわけです。
第3のアイデアを出してくれる存在はやっぱり大事ですし、自分が思っている信念通りにはいかないこともあるかもしれないというのを「トーマス流」という言葉にまとめました。子育てに正解が存在するのかどうか分からない。だけど、正解は欲しいし不安というのが子育てをされている方の思いなのではないかと思い、そうした皆さんに何かメッセージをお伝えしたいと僕なりに考えて「トーマス流でいこう!」というキーワードを思いついたわけです。
ダックのように自分の信念に従うことも大切ですが、トーマスのようにその場に応じた柔軟性、クリエイティブなアイデアを出し、自分で自分を認めていくことも大切だと思っています。ただ、僕は子育ての経験がないので「何を偉そうに」という話なのですが(笑)。あくまで、僕の感想として受け止めていただければと思います。
教育に興味を持ったきっかけは「授業への疑問」
── 小田先生が音楽教育学の道に進んだ理由を教えていただけますか?
小田先生:
どちらかというと、教育からではなく、演奏者の側面から音楽教育学に入って行きました。そのため、僕は演奏者の視点を基盤として教育活動をしています。ピアノを弾いたり、歌を歌ったり、合唱指導をする中で、教育に接点があるという立ち位置です。バリバリの教育の道とはちょっと違うかもしれません。
教育に興味を持ったのは、小学校の授業がきっかけです。授業が終わったときに「1つ学んだ」という達成感を味わえる授業とそうでないものがあって。その現象が起きる先生とそうでない先生との違いは何かと考えるようになりました。
授業の上手い、下手というひと言で片づけるのではなく、その理由が授業の流れなのか、話し方なのか、板書のスピードなのかなど子どもなりにいろいろと考え始め、中学生、高校生になってもその興味は続き…。でも僕は音楽をやりたかったので、音楽ができる、そして教育もできるということで東京学芸大に進みました。人とは違う道を歩いて今の職についているように思います。
── 音楽に興味が出たのはいつ頃ですか?
小田先生:
5歳の頃からピアノを習っていましたが、振り返ると音楽が嫌な時期のほうが長かったです。特に小学3年生から中学3年生までは、あまり音楽が好きではありませんでした。高校1年のとき、一度ピアノから離れてみたんです、もう辞めようって。でも、3か月くらいしか持たなかったです。そのときに「音楽が好きだ」と気づきました。なので、幼少期からずっと音楽が大好きで、音楽に溢れた人生を送ってきたわけではないんです。
── ピアノを始めたのは自分からですか?
小田先生:
忘れもしないきっかけがありました。保育園のときに車の中で聴いた今井美樹さんの「プライド」という曲がきっかけです。親が好きでよくかけていたのですが、保育園のオルガンで耳コピをして弾いていたらしいんです。それを聞いた保育園の先生が「習わせたほうがいい」と親にすすめて、ピアノを習い始めました。
── 子どもの頃に触れたアニメや映画は、音楽にまつわるものが多かったのでしょうか。
小田先生:
思い浮かぶのはピアノです。練習はあまり好きではありませんでしたが(笑)。レッスンとしてではなくピアノを弾くこと自体はとても好きでした。小学4年生のときに触れたフランス音楽に衝撃を受けて。おそらくドビュッシーだったと思います。あのときの衝撃が今の僕を作っているといえます。
ただの楽譜なのですが、音を鳴らすと全然違う空間が広がっていくわけです。そういうところにひとつ感動を覚えて、今でもずっと関心を持ち続けているところはあるかもしれません。
PROFILE 小田直弥さん
弘前大学教育学部助教(ピアノ研究室)、東京学芸大こども未来研究所学術フェロー。 『きかんしゃトーマスでつなげる非認知能力子育てブック』(東京書籍)の他、ヤマハ株式会社によるエジプト国初等教育への日本型器楽教育導入事業(非認知能力の測定手法検討)に参加。