シリーズ初の参加型ムービー『映画 きかんしゃトーマス オールスター☆パレード』(公開中)は“トーマスと一緒に遊べるムービー!”です。画面から語りかけてくるトーマスと仲間たちに、笑顔と手拍子で答え、まるでソドー島の一員になったような気分が味わえます。
「きかんしゃトーマス」といえば、いち早くSDGsをテーマに国連とコラボし、非認知能力の向上やSTEAM教育に取り組むなど、子どもたちが周りを思いやり、協力・工夫して社会で豊かに生きる力を身に付けられるような、環境づくりにも注力している作品。
今年の『映画 きかんしゃトーマス』は、教育的観点からご紹介!東京学芸大こども未来研究所の小田直弥先生に、「きかんしゃトーマス」と非認知能力の関係を中心に、楽しいお話を伺ってきました。
子どもにとっては楽しむ作品であればいい
── いち早くSDGsをテーマに国連とコラボするなど、「きかんしゃトーマス」の取り組みについて、どう感じていらっしゃいますか?
小田先生:
まず最初にお伝えしたいのは、さまざまな取り組みは素晴らしいですし、僕自身も教育的観点から研究している立場ではありますが、一番重要なことは「きかんしゃトーマス」が子どもたちにとって魅力的であり、純粋に楽しめる作品であれば良いということ。
子どもたちはSDGsや非認知能力が何であるかを知らなくてもいいと思っています。「きかんしゃトーマス」の教育的取り組みについては大人が知り、共有していくことに意義があると考えます。
「きかんしゃトーマス」を子どもたちに与えるとき、大人がどのような角度で子どもと接すればいいのか、そのヒントとしてSDGsであったり、非認知能力、STEAMなど、「きかんしゃトーマス」の取り組みが提案されていると思っています。ただ「きかんしゃトーマス」を観て楽しむということでも良いのですが、例えばそれに加えて、お話の内容について家族で語りあうことも価値あることだと考えています。
子どもたちにとっては「きかんしゃトーマス」が純粋に楽しい存在であってほしいですし、大人のみなさんにとっては「きかんしゃトーマス」の教育的な取り組みを理解したうえで、子どもたちに教育機会を与えるために活用していただくのがいいかな、と思っています。
── 子どもは純粋に作品を楽しむなかでも、何かしらを吸収しているものですよね。
小田先生:
お話の世界に没入して、「トーマスはどう感じたのかな?」「なぜトーマスはあの行動をとったのだろう」と感じ、考えていくなかで自然とトーマスの価値観や自分の思考に出会っていくと考えています。やがて中学生、高校生になったときにいろいろなことが回収されていくと思うんです。
最近は、小学校教育のなかでもSDGsは1つの重要なキーワードと言われていますので、トーマスたちと一緒に学んだこと、トーマスたちが持っていた価値観は、決してトーマスの世界だけのものではなく、世界全体と繋がっているんだということが、成長していくなかで分かってくればいいんじゃないかと思っています。
大切なのは触れること。理解できなくても、完全に分からないことがあってもいいんです。触れる機会を作ってあげることが大切だと、個人的に感じています。そこから、気づいたり、問いが生まれたり、理解できたりと、学びが始まるんだと思います。
── 「きかんしゃトーマス」の研究内容を教えていただけますか?
小田先生:
ここでお話しすることは2019年の報告であることをご理解いただいたうえで、お伝えしたいと思っています。研究チームメンバーの森尻有貴先生が実施されたアンケートの対象者は「きかんしゃトーマス」に関心があるお子さまをお持ちの保護者です。アンケートから分かったことをいくつかご紹介します。
- 好きになるキャラクターと子どもの非認知能力の程度は特に関係ない
- 子どもを中心に考えて一緒に過ごそうとしている保護者のほうが、子どもの非認知能力は高くなる傾向がある
- 子どもに対する指導に一貫性があることも非認知能力のポイント
どのキャラクターが好きであっても、子どもたちが「きかんしゃトーマス」の世界と深く触れ合っていることに変わりはないということです。子どもの非認知能力の特性としても遊びに集中して取り組む姿勢や、遊びや生活のなかで自分から行動を起こす程度が高いということも分かってきました。
つまり「きかんしゃトーマス」に主体的に好意を寄せている子どもたちというのは、いくつかの非認知能力の程度が高い可能性があるということ。ただ、今回のアンケートは「きかんしゃトーマスを好きな子どもを持つ保護者」のみが対象なので、今後調査できる機会があれば、「きかんしゃトーマス」に夢中になっていない子どもの非認知能力の程度と比較することで、「きかんしゃトーマス」のさらなる教育的可能性が見えてくると考えています。
異なる意見を聞いて行動することの大切さも描かれている
── 「きかんしゃトーマス」に興味を持つ子どもへの影響として、非認知能力に限らない広い意味での教育的効果はありますか?
小田先生:
先ほどご紹介したアンケートでは、文字や言葉、数字の理解、色への興味は「きかんしゃトーマス」から影響を受けているかもしれないという、保護者の方からの回答もいただきました。
今回の映画でもところどころに文字が画面上に表示されますが、これは他の映画とは少し違うところではないかと感じています。映像や音楽を楽しむだけではなく、クイズの場面などにもあるように、文字が表示されることによって期待される学びはあると考えています。
非認知能力のなかでも、社会のルールを知ったり、人の役に立つこと、思いやりをもつことの大切さや、協力することって大事だよねといったことが子どものなかで育まれていったと感じている保護者の方もいらっしゃるようでした。「きかんしゃトーマス」に対して主体的に好意を寄せている子どもは、こういったことを「きかんしゃトーマス」から結果的に学んでいるんじゃないか、と考えています。
── 多くの子どもたちが触れていると思われるCG版のアニメーション計204話(第13シリーズ〜第21シリーズ)を対象に、各話で描かれている主題をナレーションやキャラクターのセリフなどから抽出し、分析もされていますよね。
小田先生:
「きかんしゃトーマス」のアニメーションでは、自己理解だけでなく、他者(仲間)を理解すること、場を理解すること、役割を理解することなどが描かれています。例えば、郵便配達をするパーシーがいたり、お魚を配ったり、貨物を引く役割を担当するキャラクターがいます。さまざまなキャラクターがその世界に存在するだけでなく、ソドー島のなかでどんな役割を担っているのか、他のキャラクターとの関わり方として、自分とは異なる意見をちゃんと聞いて行動することの大切さなども「きかんしゃトーマス」ではたくさん描かれています。
子どもたちが「きかんしゃトーマス」を好きになるきっかけの1つに、お話や映像の魅力はあると思います。そうなったときに、自分を理解すること、誰かを理解すること、役割を理解すること、他者との関わり方などを、映像を通して学習していくと思うんです。
2019年に報告したアニメーションの分析はあくまで作品分析に留まりますが、そこから得られる仮説として、「きかんしゃトーマス」に触れている子どもたちは、触れていない子よりも「きかんしゃトーマス」のお話で描かれる自己理解や、誰かを理解することなどについて自然に考える機会があると考えています。
── ちなみに、「きかんしゃトーマス」のアニメーションを好んで視聴する子どもたちは非認知能力の自然な発達が期待できるとレポートにありました。自然な発達が期待できる理由について、また、自ら好んで視聴することと保護者が試聴を促すのとでは効果に違いはあるかどうか、教えてください。
小田先生:
これはすごくいい質問であると同時に、完全な回答は難しいとしておきたいと思います。ただ、僕個人的な感想という範囲でお伝えするのなら、効果の違いはあると考えています。
僕の専門は音楽です。音楽は好き嫌いがけっこう分かれる分野です。ピアノを弾かせるのがいいからといって、保護者が子どもに習わせた場合と、本当にピアノが好きな子どもがピアノの学びに取り組む過程での教育的効果が同等かといえば…。結果は一目瞭然です。
子どもの興味や関心の対象、夢中になれる存在を教材として使っていくことが効果的であると考えています。 子どもが夢中になりやすい「きかんしゃトーマス」は教材として向いていると考えていますが、決して「きかんしゃトーマス」があまり好きではない、興味を示さない子どもに、「教育的効果が期待できる」として無理やり観せたとしても、好きになるのは難しいのではと思っています。