テレワークが推奨され、オフィスの在り方が変わりつつある昨今。体力の衰えやコミュニケーション不足を解決すべく、人と対面せずに行う、オンラインでのウォーキングイベントが開催されました。

 

2週間の開催期間から見えたオンラインならではの利点と課題とは?スポーツイベントの企画・運営を手がけたSSKエンタープライズの内田啓章さんと金本真由さんに伺いました。

コロナ禍での健康経営に出した結論

 

── 2020128日よりオンラインで開催された「第1回企業対抗ウォーキング大会 あるくとウォーク2020」は、どのような内容だったのでしょうか。

 

内田さん:

1015人でチームを作ってもらい、企業対抗戦として日々の歩数をアプリで管理、順位付していくというものです。積極的なウォーキングによるコロナ禍の運動不足解消と、コミュニケーションの創出を目的として開催しました。

 

金本さん:

弊社では、毎年約20社の企業が参加する「企業対抗運動会」を開催してきました。昨年はコロナの影響で対面式でのイベントは全面中止に。長年、健康経営についての企画とイベント運営をしてきた私たちが、コロナ禍でも安全にイベントが開催できないか思案している中で、ONE COMPATH(ワン・コンパス)さんが開発した歩数計アプリ「aruku&(あるくと)」の存在を知りました。

 

そのアプリは「チーム戦」が可能で、かつ街歩きを楽しむためのゲーム性も高く、「企業ごとにチームを作って、企業対抗運動会に代わるものが開催できるのでは」ということに。オンラインイベントの開催は初めての試みでしたが、今できることをやろうという気持ちでONE COMPATHさん協力のもと、動き出しました。

 

──コロナ禍のスポーツイベント」ということで、従来のイベントと大きく異なった点について教えてください。

 

内田さん:

「対面せずに完結できるイベント」であること、そして「参加者全員がアプリを使用すること」です。参加者の年齢は2060代まで幅広く、中には「アプリを使い慣れていない」という方も。参加者全員が同じスタートラインに立つために、1週間の予行練習を設定し、アプリの使い方や機能に慣れてもらうための準備期間としました。

 

この予行練習期間を設けたことで、「アプリが開きづらい」「歩数が1日分反映できなかった」などのシステム面での調整もクリアになり、スムーズに本番を迎えることができました。

 

── 内田さんと金本さんもチームを作って参加されたとのことですが、実際に参加してみていかがでしたか?

 

内田さん:

イベント参加中は「一駅分歩く」など、通勤時間などを活用して意識的に歩くことができ、1日平均歩数が4000歩程アップして毎日12000歩程度に。

 

参加メンバーの歩数は、チーム内の全員に共有できるので、メンバーを励ましたり、逆に「内田さん、昨日は全然歩けてないですね」と後輩から指摘されたり(笑)。互いに刺激し合いながら楽しく取り組めました。

 

金本さん:

私も1日平均2000歩増え、積極的に「歩こう」という意識を持つことができました。チームメンバー同士での会話も増えたように感じています。

 

コロナ禍で1日の歩数が5000歩も減少していた

 

── 運営する中で、困難だった部分や課題として捉えた点はありましたか。

 

金本さん:

オンラインイベントの主催が初めてだったということもあり、告知までは「参加人数が集まるかどうか」が不安でした。

 

プレスリリースでの配信と、取引先のスポーツメーカーさん、スポーツ施設などにチラシの配布をお願いしてイベント周知に力を注ぎ、これまでお付き合いのある会社の担当者に声掛けをしました。

 

中には、「在宅勤務で会社に出社できていないので、人数が集まらない」という声や、「オンラインイベントも参加禁止とされている」という会社さんもいましたが、申し込み期間を2か月と長めに設定したおかげか、全国から24チーム、300人の方に参加いただきました。

内田さん:

運営中の課題として感じたのは、「参加者のモチベーションを維持すること」。「aruku&」は、GPS機能を活用してアプリ内にキャラクターが登場し、会話をしたりアイテムをもらったりしながら進行するので、ゲーム感覚でウォーキングを楽しめるのですが、在宅勤務をされている企業では、チームメンバーとも対面できていないため、モチベーションを維持しにくく、歩数の伸びに反映されているようにも感じました。

 

── チーム戦ではあるものの、「一人でやっている」ような感覚に陥ってしまう参加者もいたということですね。

 

内田さん:

そうですね。モチベーションの維持と、チーム内でうまくコミュニケーションを取れているかどうかが、順位に反映されたようにも感じています。

 

とはいえ、開催後のアンケートでは「チーム内でコミュニケーションが取れて楽しかった」という声もあったので、積極的にコミュニケーションを取れたチームと取れなかったチームに二極化してしまったのかもしれません。

 

次回以降は、参加者同士で自然と会話が生まれるようなきっかけ作りが必要だと思っています。

 

── 今回のようなオンラインでのスポーツイベントの一番の利点は何なのでしょう。

 

金本さん:

やはり、場所を選ばず密集を避けて健康管理ができるということでしょうか。また、今回のイベントは1日限定ではなく、2週間という設定だったので、自然とウォーキングの習慣が身に付けられること、意識的に体を動かすことで自分の体力や筋力などの健康状態が把握できるということが利点だと思います。

 

── イベント期間中に運動を習慣化することができたらいいですね。

内田さん:

私自身、コロナ以前、1日の平均歩数は8000歩程度でしたが、緊急事態宣言中は3000歩程度と激減。宣言解消後、出社できるようになるとこれまでの歩数に戻りましたが、在宅勤務が常となった方たちの体力の低下を懸念しています。

 

これまで対面を中心にしてきた私たちのサービスですが、現在、オンラインでのスポーツイベントに向けての企画やシステム調整を積極的に進めています。 

 

イベントの開催だけでなく、「体力測定」をオンラインでできたらという話も出ています。在宅で体を動かす機会が減りました。元気で生きられる健康寿命は筋肉の衰えにも関係していると言われているのですが、自分の筋力や体力がどの程度か知っている人は少ないはず。その気づきになるようなコンテンツ開発をしていきたいですね。

 

SSKエンタープライズの内田啓章さん(左)と金本真由さん(右)

 

 

運動不足とコミュニケーション不足の解消から開催したオンラインイベントは、コロナ禍での体力低下に気づくためのきっかけにもなったようです。しかし同時にオンラインでのコミュニケーションの難しさも浮き彫りに。身体面だけでなく、心の健康を維持するためには、新しいコミュニケーションの方法が求められそうです。

 取材・文/佐藤有香