子どもの模擬試験の結果を見て、一喜一憂していませんか?

 

中学受験の4大模試のひとつ「首都圏模試」を運営する首都圏模試センターの北さんは、「模擬試験は必ずプラスの使い方をしていただきたい」と語ります。模試をどのように活用したらいいのか、うかがいました。

模試で重要なのは偏差値だけじゃない

── 中学受験の模試といっても色々あって複雑です。まずは首都圏模試について教えてください。

 

北さん:

中学受験には4大模試といわれる4つの大きな模試があります。その1つが「首都圏模試」です。ほかの3つは大手進学塾(四谷大塚、日能研、SAPIX)が運営しているのに対し、首都圏模試はどこの塾にもよらない中立な立場で提供できる唯一の模試で、首都圏では最多の受験者数を誇るオープン模試です。

 

普段、塾で実施されるテストは、それまで履修した範囲を確認して消化度合いや到達度を確認するのが主な目的になります。たとえば日能研であれば学習力育成テスト(旧カリキュラムテスト)といわれるものです。

 

一方、首都圏模試などのオープン模試は、特に出題範囲が定まっておらず、それまで履修して取り組めるだろうという範囲から出題されます。入試の形態に近いものに慣れるということと、首都圏模試の場合は塾に所属している子もしていない子もたくさん受けるので、大勢の中での相対的位置を知ることができます。

 

── 相対的位置とは、その模試での偏差値ということですね。結果を見ると、つい数字にばかり目が行きがちです。

 

北さん:

模試は、偏差値が高かったから良かったとか、悪かったからもうだめだということではなく、できていることと、これから強化すべきこと、目標までの課題を知るためのものです。ですから、偏差値で一喜一憂するのではなく、必ずプラスの使い方をしていただきたいと思っています。

 

 

── プラスの使い方とは、具体的にどのようにするといいでしょうか。

 

北さん:

良かったら喜んでもいいし、褒めてもいいのですが、重要なのは悪かったとき。今回はどこができていなかったのか、きちんと振り返りをしていただくことが大切ですね。そういう意味では、どんな模試も同じです。

 

振り返りをするときは、自分でできる子ならもちろん任せてもいいですが、慣れていない子の場合は親御さんが横で見てあげるといいですね。口を出すというのではなく、一緒に考えたり、「どこがわからなかったの?」と声をかけてあげる、付き添ってあげるという感じでいいと思います。

 

全体の正答率は高いのにお子さんはできなかった問題は、そこを見直すことで弱点補強ができます。逆に全体の正答率が非常に低い問題ができていたら、それはとてもすごいことです。それは本人の強みなので、伸ばしてあげるといいと思います。

「思考コード」でわかる、今後の社会で求められる知識

── 首都圏模試では、模試の結果に偏差値や点数だけでなく、「思考コード」に当てはめた評価も記載されていますよね。これはどのように活用したらいいのでしょうか。

 

北さん:

「思考コード」は首都圏模試センターが独自につくった基準です。問題を下記ACの3つに分類し、それぞれ難易度が3段階あります。

 

・A:知識・理解知識を問う問題、知識を理解し運用できているかを問う問題 ・B:論理的思考応用力を問う問題、情報を分析整理する力、論理的に説明する力を問う問題 ・C:創造的思考自分の考えを表現したり、様々な知識や創造力を活用する力を問う問題

首都圏模試の「思考コード」(首都圏模試センターより提供)

 

今までの私立入試であれば、ほとんどの問題がABの範囲で出題されていました。しかし、これからは中学入試、そして大学入試でCの力も試す問題が出題されるといわれています。それは、世の中で求められる力だからです。

 

逆に公立中高一貫校の適性検査は、考える力のある子を見るのが主旨ですから、必要なAの知識はグラフや地図など問題の中に提示されていることがほとんどで、Cの問題が結構出ます。もちろん、知識が何もなくていいというわけでなく、小学校で学んだ知識と新しく提示されたことをつなぎ合わせて、自分なりの考えや答えを導き出すことが求められます。そこが私立と公立中高一貫校の出題の大きな違いです。

 

私立の受験は入試までにマスターしなければならない知識が多く、1つのテーマをじっくり考えるということになかなか意識が向かないかもしれませんが、こういう学びは今後大事になってくるということは意識しておいたほうがいいでしょう。

 

首都圏模試の結果には、[ABC×3段階]の9マスにそれぞれの偏差値が表示されます。その偏差値が高いところが本人の強みです。そうした学力特性を把握して、今後の学習に活かしていただくといいと思います。

 

中学受験の基本的な考え方として、苦手なところを補強するよりも得意なところを伸ばしていったほうがトータルで得点しやすいといわれています。苦手なところばかりを補強しようとするとどんどん嫌いになっていくので、得意分野がある子はそこを励みにするといいと思います。

受かった学校がその子にとっての一流校

── 模試の偏差値を学校選びの参考にする家庭が多いと思いますが、どこまで参考にすればいいかは迷います。

 

北さん:

まずお伝えしたいのは、今の私立受験は、親御さん世代が中学受験していた頃とはだいぶ変化してきているということです。最近は少なくなりましたが、「ある一定以上の偏差値以下の学校は受けさせない」などというのは、昔の価値観が影響しているからだと思います。

 

今でも日能研など多くの塾では「受かった学校がその子にとっての一流校」といっています。入試問題にも各学校のカラーが出ますから、受かったということは、その学校の入試問題にマッチしていたということ。つまり、入学したあとの学習も合っているという意味だと思うんですよね。逆に落ちた学校は合わなかったということなので、気にしないほうがいいです。とにかく、どこか1校は合格させてあげたほうがいいですね。

 

学校選びは、チャレンジ校、実力相応校、抑え校の組み合わせが大事です。合格の可能性が50%くらいでもいいので、第一志望校はとにかくチャレンジする。あとは実力相応の学校と、必ず合格させるという意味で1校は余裕を持って選ぶといいと思います。

 

学校を選ぶときには、「自由な学校がいい」とか、「厳しめの学校がいい」など、各家庭で大事にしたいことをまずは確認して、なおかつ本人の性格や希望に合う学校を探すといいでしょう。そうすると、通える範囲内に結構見つかるんですよね。偏差値は学校の評価と関係なくて、単に入り口の入りやすさを示しただけの数字なので最後でいいと思いますよ。

 

 

── つい偏差値から入ってしまいがちですが、そうではなく、その学校が子どもに合うかを考えるのが先ということですね。

 

北さん:

小学生は、まだ頭が柔軟なので、受験日に近づけば近づくほど伸び幅が大きいんです。本気になったらいきなり覚醒する、みたいなこともあります。たとえば、1月10日に入試を経験させて、たとえ落ちてもそこから悔しいと思えるタイプのお子さんだったら、そのときに本当に目覚めるということもあります。

 

もちろん個人差はありますが、小6〜中1くらいは男子と女子で精神年齢が1歳半くらい違うともいわれていて、よほど精神年齢の高い子でないと特に男子は小6の10月くらいまではなかなか本腰が入らないというのは当たり前です。

 

ですから、何か好きなことがあるお子さんには「そんなことしてないで受験勉強しなさい」というよりも、好きなことは続けていって、それを励みに無理のない範囲で頑張るのがいいと思います。

 

来年の受験にもコロナの影響は続くと思われますので、また塾や学校に通えない日があるかもしれません。あまり心配しすぎると親御さんのほうが精神的に参ってしまうので、おおらかにいたほうがいいと思いますね。みんないっしょですから。

 

 

PROFILE 北 一成(きた かずなり)さん

首都圏模試センター教育研究所長。1985年に大手進学塾の日能研に入社。日能研入試情報センター・兼広報部に所属。広報部出版課長、入試情報センター副所長、みくに出版『進学レーダー』編集局長、本部Web情報室長、NTS教育研究所上席研究員、研究開発本部ADを経て、2013年8月に退職。翌月に日本Web情報出版を設立し、同時に「日本Web学校情報センター」および「JWSIC教育研究所」を開設。2013年11月から現職。学校情報・入試情報を専門とし、取材等で約400校の中高一貫校をのべ3000回以上訪問。2000人以上の保護者から学校選びに関しての相談を受けてきた。

取材・文/田川志乃