和洋九段女子の「PBL入試」の様子(画像提供:首都圏模試センター)

新型コロナウイルスの収束が見えない中、首都圏では110日から埼玉、20日から千葉、そして21日から東京と神奈川で2021年の中学入試がスタートしました。

 

コロナ禍での中学受験について、首都圏最大規模を誇る「首都圏模試」を運営する首都圏模試センター教育研究所長の北さんに振り返っていただきます。

2024年度から変わる大学入試が志望校選びに影響か

── 年はコロナの影響で受験生本人はもちろん、親御さんも大変な思いをされたと思います。事前予想では受験者数が少し減るのではないかともいわれていましたが、実際はいかがでしたか?

 

北さん:

実は、首都圏では前年より受験者数は増えて、2015年から7年連続の増加となりました。

 

その要因として、コロナ禍での私立中学のICT(情報通信技術)活用があげられます。昨年の3月、学校が一斉休校になりましたが、私立の学校はすぐにオンラインに切り替えて授業を続けるところが多く見られました。また、緊急事態宣言が解除されてからもオンラインと通学を半々の割合にするなど、すごく柔軟に対応しています。

 

私立はもともとICT教育に力を入れていた学校が多く、グローバル教育や探究学習などICTとセットになった学習を取り入れている学校もあります。そうした取組みがコロナ禍で生きたのだと思います。学校に行けない期間も、学校で導入している海外とのオンライン英会話授業などができたという話も聞いています。

 

今後も、オンラインと通学それぞれのいいところを生かして作り上げていくハイブリット教育がどんどん出てくると思いますね。

 

 

── 公立の学校ではなかなかオンライン化が進まなかったような印象です。

 

北さん:

公立の学校はたとえICT活用に熱心な先生がいても、オンライン授業をするための端末(PCやタブレット)やネット環境が十分に整っていないために実現できず、プリントを配るだけになってしまったところが多く見受けられました。

 

ただ、公立でも中高一貫校はICT活用のモデル校になっている学校が多いので、ICTを相当活用できていたと思いますね。公立一貫校はとにかく倍率が高いので、かなり力がある子でも受からないケースもあります。逆に自分に合う問題が出れば受かる可能性もあります。ですから、倍率の高さを理由に諦めようと思っている人は、諦めずに受けてみてほしいですね。

 

 

── 今年人気だった学校の傾向についても教えてください。

 

北さん:

いわゆる難関校・最難関校人気は大きく変わりなかったと思います。ただ、麻布や聖光学院など多少受験者数が減った学校もありました。いわゆる御三家とそれほど変わらないレベルの学校、男子校でいえば海城とか、女子校であれば鴎友学園女子などで志願者が増えたことから、安全志向で最難関校から次のレベルのところに流れたということはあったと思います。

 

大学付属校人気はここ3年くらい続いていますが、今年も引き続き人気でした。早慶MARCH(早稲田大、慶應大、明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)の付属校は高止まりして一旦落ち着いていますが、今年の特徴としては、日本大学や東海大学の付属校まで人気が上がったことがあげられます。

 

付属校がなぜここまで人気が上がっているのかについては、大きく2つの理由があります。1つは、2024年度から大学入試が本格的に変わることです。そこに不安があって付属校に入っておいたほうが安心と考える家庭が増えたのです。たとえば東海大には一般的な学部だけでなく、医学系、海洋系、航空系まであらゆる学部があるので、子どもが将来の進路を選ぶときにも非常に幅が広いですよね。海外の大学に転学できる可能性もあります。

 

もう1つは、付属校であれば大学入試にとらわれない分、英語学習やアクティブ・ラーニング、探求学習など、思い切ったことができる面があるということです。ICT教育にも力を入れている学校が多いので、そういう面でも魅力を感じているのではないでしょうか。

中堅校選びでも「大学進学実績」以外の基準が

── 子どもの大学入試やその先まで考えて学校を選ぶ家庭が多いということですね。付属校以外の学校についてはいかがですか?

 

北さん:

今年はやはりコロナ禍での対応を重視したご家庭が多かったようです。

 

あとは、いわゆる中堅校で人気の差がはっきり出ました。ここ数年は保護者自身の価値観も変わってきていて、大学進学実績や授業時間数は目安にするにしても、それよりもその学校はどういう学び方をさせてくれるのかが注目されるようになってきました。ポイントとなるのは、アクティブ・ラーニングや探求・探究学習といったものです。今はそういう形態の学びのある学校が注目されていて、今年は特に顕著に出たかなと思います。

英語入試を導入した学校は約10倍に

── 入試のスタイルも多様化してきていると聞きますが、今年もその傾向は見られましたか?

 

北さん:

そうですね。最近はますます入試のバリエーションも増え、新しい入試を取り入れる学校が増えてきています。たとえば、公立一貫校で実施されているような適性検査型入試(思考力入試・総合型入試・自己アピール入試などを含む)を実施する私立の学校は、2014年は15校だったのが2021年には152 校、英語入試も15校から143校にまで増えています。

 

7〜8年前までは公立の中高一貫校を受検する人は、その1校だけ受ける人が多かったのですが、3~4年くらい前から私立と併願する人も増えてきています。最近では首都圏と茨城県の公立志望の受検生の3分の1くらいが私立も併願しています。そのため、公立を目指す人たちも受けられるような、受けたくなるような新しいタイプの入試が増えてきているのです。

 

これは習い事やスポーツなど本人の好きなことをやらせてあげた上で中学受験を考えるという、従来とは異なるスタイルの中学受験ができるようになってきたということです。

 

 

── 新しいタイプの入試というのは、具体的にはどのような試験ですか?

 

北さん:

たとえば自分の好きなことやこれから頑張っていきたいことを先生たちにプレゼンテーションする「プレゼンテーション型入試」があります。これはその子の意欲や熱量、継続力、意志力、あとはそれを応援する保護者のスタンスなどを見るものです。

藤村女子中の「ナゾ解き入試」の様子(画像提供:首都圏模試センター)

 

ほかにも最近注目されている、レゴを使った「ものづくり思考力入試」(聖学院)や、グループワークをする「PBL入試」(和洋九段女子)、藤村女子中では日本で初めてとなる「ナゾ解き入試」が出ました。日本一多様な入試を行うと宣言している宝仙学園共学部理数インターでは、これまでもさまざまな入試が行われてきましたが、昨年の「読書プレゼン入試」に続き、今年は「オピニオン入試」が新たに出てきました。

聖学院の「ものづくり思考力入試」の様子(画像提供:首都圏模試センター)

 

このような多様型入試を取り入れている学校は、塾に早くから通って受験勉強をしてきた子たちだけでなく、スポーツや芸術、習い事、英語の学習などに取り組んできた子たちを入れて、教室の中をダイバーシティ化していこうという考え方を持っています。

 

かつては「学力がほぼ揃っているから授業が進めやすい」という考え方がありましたが、今は世の中が変わってきていますよね。自分と違った考え方やバックボーンを持った人たちと協働していかなければならない。世界中でダイバーシティ化が求められている中で、学校がつくりたい教育環境も変わってきているということです。そのため、偏った学力でも評価されるようになってきたという側面はありますよね。算数1科目入試もまさにそうです。

 

こうした新しいタイプの入試情報を発信する「私立中学校 新タイプ入試GUIDE」というホームページを運営する会社も出てきていますので、保護者の方にも知っていただけたらいいなと思います。

子どもの強みを活かせる可能性が広がっている

── これまで聞いたこともないような入試スタイルが出てきているんですね。それだけ価値観が多様化しているともいえますね。

 

北さん:

学力観が大きく変わってきている中で、今までのようなペーパーテストで図れる力というのはトータルな学力や、潜在的な能力のほんの一部分でしかないわけです。これからの世の中では未知の問題と直面したときに、あるいは正解が1つに定まらない最適解を導き出す力が求められているのです。

 

いわゆる難関校にはこうした入試を実施していないところが多く、4科目入試が主体です。しかし4科目入試もちょっとずつ変わってきていて、10〜20年くらいのスパンで見ると、全体的に記述型は増えてきています。これは国語だけでなく、算数でも考える過程も式に残すなど、ほかの教科も同様です。

 

この2〜3年だけを見ると、その中でも思考力を問うような問題や、答えが1つに定まらない問題がだいぶ出てきています。昔は採点基準が明確で、マルバツがはっきりつけられる問題じゃないと不公平だといわれていましたが、そうした入試観も変わってきているのです。

 

多様型入試をすることで、学校には偏差値で傷ついていない子、自己肯定感が高い子が入ってきてくれるというメリットがあります。自分が頑張ってきたことを評価してくれた学校に入るわけですから、学校に対するロイヤリティ、信頼感も高く、学内の雰囲気もすごく明るくなると聞いています。

 

今、受験勉強している塾のスタイルは、それはそれでいいと思いますが、それ以外にも本人が得意なことがあったら、その強みを活かせる入試がないかという視点で見ていただくとその子に合う学校が見つかるかもしれません。

PROFILE 北 一成(きた かずなり)さん

首都圏模試センター教育研究所長。1985年に大手進学塾の日能研に入社。日能研入試情報センター・兼広報部に所属。広報部出版課長、入試情報センター副所長、みくに出版『進学レーダー』編集局長、本部Web情報室長、NTS教育研究所上席研究員、研究開発本部ADを経て、2013年8月に退職。翌月に日本Web情報出版を設立し、同時に「日本Web学校情報センター」および「JWSIC教育研究所」を開設。2013年11月から現職。学校情報・入試情報を専門とし、取材等で約400校の中高一貫校をのべ3000回以上訪問。2000人以上の保護者から学校選びに関しての相談を受けてきた。

取材・文/田川志乃