春が近づき、私たち親の心をざわつかせる、PTAの役員決め問題。

 

活動に積極的な人が多い地域や、負担を軽くし楽しみながら活動しているPTAもある一方で、「1クラスから必ず何人か決める」「児童1人につき1度は委員をやる」などの不文律が残るPTAもあります。

 

 

「子どものため」と思うと加入しておいた方がいいとも感じるし、活動を不満に思ってはいても、改革するなんて正直面倒。

 

 

なんとか負担の少ない係で数年間免れられないかな…というのが、多くの保護者の本音ではないでしょうか。

 

 

納得いく係になれればいいですが、困るのはくじ引きなどで半ば強制的に、委員長や役員にさせられてしまう場合。

 

 

どうしてもできない仕事を押し付けられてしまったとき、守ってくれる法律はあるのでしょうか。

 

 

女性のための法律書『おとめ六法』著者で弁護士の上谷さくらさんに教えていただきます。

 

【憲法13条】役員押しつけは人格権の侵害!?

PTAは任意加入団体なので、これについて定めた法律はありません。

 

したがって、義務ではないし、強制加入や役務の押しつけ、一方的な会費の徴収に法的根拠はありません。法的根拠がないどころか、非常にグレーな部分だと思います。

 

 

PTAの役員決めがスムーズにいかないところは多いでしょう。

 

 

特に仕事量が多い本部役員は、毎年選出に時間がかかる傾向があり、地域によっては「記入や提出がなければ、本人が立候補したとみなす」ルールや、「立候補者がいなければくじ引きで決める」ルールなどがあると聞きます。

 

 

このような強制的な選出方法については、立ち止まって考える必要があると思います。

 

 

義務ではないのに、妊娠、持病、介護など、事情があって引き受けられない人にまで、くじ引きで役員を押し付けることは、突き詰めて考えれば人格権の侵害とみなされる可能性もあるからです。また、脅迫して人に義務のないことを行わせることは刑法223条の強要罪にあたる可能性も考えられます。

 

PTAの本来の姿とは

強制加入や一方的な会費徴収は違法になりかねませんが、わざわざ裁判を起こすという話はあまり聞きません。それは、「保護者と教職員が協力し児童生徒の環境を整える」というPTAの目的に、みなさんある程度納得しているからでしょう。

 

ですが、最近は共働き家庭が多く、活動が負担になる保護者も多い。

 

 

活動の内容が、時代の変化にそぐわないまま残っていることに課題があると思います。

 

 

PTA活動は任意なので、加入しないという選択も守られています。

 

 

さまざまな事情があると思いますが、PTAの活動に法的義務はない、無理をして頑張らなくてもいいのだということを忘れないで欲しいですね。

 

<個人の人格を守る法律>

日本国憲法13条【国民の権利および義務】

 

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

 


〜人格権とは〜

 

 

個人が社会生活上有する人格的利益を目的とする権利。日本国憲法第13条で保障されている他、民法(第710条)では、他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合、その責任を負う者は、損害賠償をしなければならないと定めている。


刑法 第223条【強要】 

 

 

1 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。

 

 

2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。

 

 

3 前二項の罪の未遂は、罰する。

 

おかん2_PTA

PROFILE 上谷さくら(かみたに・さくら)さん

弁護士(第一東京弁護士会所属)。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。保護司。2020年5月に著書『おとめ六法』(KADOKAWA)を出版。

取材・文/早川奈緒子  イラスト/佐久間薫