新型コロナウイルスの影響で、家にいる時間が増えた人は多いでしょう。在宅ワークを行う人も増え、自宅にいながらオンライン会議に参加する人もいます。


自分では気づきにくいですが、オンラインでの話し声というのは、意外と大きくなってしまうもの。日中の会議ならまだしも、最近は夜間にボイスチャットをしながらオンラインゲームをする人も増えています。


近所の若者が、深夜にオンラインゲームで盛り上がる声が響いてくる、という騒音トラブルも。


直接注意するのもこわいし、警察に通報するほどのことではないかも…でも気になって眠れない…。隣人の騒音トラブルにはどう対処すべきなのでしょうか。


女性のための法律書『おとめ六法』著者で弁護士の上谷さくらさんに教えていただきます。

【民法第709条】不法行為には損害賠償請求が可能

民法では「故意などにより他人の権利を侵害した者は、損害賠償の責任がある」と定めています。


近所の人が出す騒音が、その人の権利を侵害していれば、その行為の差し止めや損害賠償を請求できる場合もあります。


しかし、騒音の出どころや数値化、頻度の記録や、健康被害を示す通院履歴の提出など、立証のハードルはとても高い。たとえ裁判所から、慰謝料の支払や、騒音の差止めが認められたとして、その人が従うかどうか。騒音による強制退去命令も法的にはできません。ただ、賃貸物件の場合は、貸主が契約解除をして建物明け渡しを求めるケースはあります。


近隣住民の騒音を法律で罰することは難しいのが現状ですが、自治体によっては条例に定めがあります。また、軽犯罪法第1条十四 「公務員の制止をきかずに、人声、楽器、ラジオなどの音を異常に大きく出して静穏を害し近隣に迷惑をかけた者」に当たれば、犯罪となることも。


今回のようなオンラインゲームでの大声の場合、本人が騒音を出していると気づいていない可能性もあります。警察に連絡して、近隣からの通報とわからないように注意してもらうか、マンションの管理会社から注意してもらうといいでしょう。大抵の人はすぐに改めてくれるはずです。

苦情を聞き入れない人には関わらない方がいい

厄介なのは苦情を受け入れなかったり「私の家だから何をしようと私の自由だ」などと開き直るケース。こういう場合は解決困難なことが多いです。


苦情を受けても改善しない人は、騒音以外についても非常識である可能性が高く、直接関わると他のトラブルに巻き込まれる可能性もあり、危険です。理不尽ですが、そういう人とは関わらないようにすることが一番安全かもしれません。


わが家は一番リラックスして、安らかに過ごせる場所。帰宅したのに騒音で悩むのは、生活全体が犠牲になってしまいますよね。


非常識な人に立ち向かうのは大変ですから、もし可能であれば、他のトラブルに発展する前に引っ越すのが得策でしょう。一軒家の持ち家の場合は、簡単には引っ越しできませんから、購入前によく調べることが大事ですね。

<生活上の騒音について知っておきたい法律>

民法第709条【不法行為による損害賠償】

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

民法第710条【財産以外の損害の賠償】

他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

おかん2_騒音

PROFILE 上谷さくら(かみたに・さくら)さん

弁護士(第一東京弁護士会所属)。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。保護司。2020年5月に著書『おとめ六法』(KADOKAWA)を出版。

取材・文/早川奈緒子  イラスト/佐久間薫