著名人や政治家だけでなく、身の回りでも育休を取る男性が増えてきました。男性育休を描くドラマなども珍しくなくなり、「男性が育休を取得するのは当たり前」という風潮になりつつあります。


ただ、まだなんとなく夫の職場に育休取得しづらい雰囲気がある、という人も多いのではないでしょうか。


職場の上司に相談したら「ごめんね、取れないんだ」と却下されてしまったり、「昇進できなくなるよ」などと言われてしまった男性もいるかもしれません。


男性の育休は権利として保障されているはず。


職場に拒否されたら育休は申請できないのでしょうか?


女性のための法律書『おとめ六法』著者で弁護士の上谷さくらさんに教えていただきます。

【育児・介護休業法】育休の申請拒否は法律違反

育児休業制度は、労働者が子の誕生から原則1歳の誕生日の前日まで、男女を問わず休業できる制度です。


育休申請時に1歳未満の子を育てている、もしくは予定がある男女であれば、雇用期間にかかわらず取得できます。ただ、有期雇用契約である場合は、雇用期間の条件があります(2022年以降改正予定)。


労働者の育児休業は法律で定められた国の制度なので、事業主が育休申請を拒否することは法律違反ですし、休業申し出をした人に対して解雇その他の不利益な取り扱いをすることは禁止されています。


「うちの会社はその制度はないんだよ」と拒否したり、「昇給できなくなるよ」と不利益な取り扱いをした場合は、厚生労働大臣からの報告要請や勧告がなされ、これに従わない場合には、企業名の公表や20万円以下の過料に処せられたりします。


ただそうは言っても、事実上取りづらいという話はよく聞きますよね。周囲に育休を取る人がいない場合、男性が育休を取れるという制度自体を知らない人も少なくありません。


仮に会社から「制度がない」と言われても、声を上げるのが大変で諦めてしまった、手続きが面倒でどうしたらいいかわからなかった、という人もいるでしょう。

働き方を考えてみるチャンスかも

上司や管理部門の人が、法律で育児休業の取得が認められていることを知らないだけの場合なら、説明して認めてもらえるように説得してみると、意外と簡単に解決する場合もあります。


しかし、新卒一括採用・終身雇用がまだ根強い日本社会では、将来もずっと働き続けることを考え、育休に限らず理不尽なことを、我慢してしまう人は少なくないでしょう。


上司から「昇給できなくなるよ」などと言われたり、嫌がらせをされたりして、育休申請を取り下げざるを得ず不満に思う場合は、各都道府県の労働局に相談することもできます。労働者と事業主の間のトラブル解決の援助をしてくれる制度があります。


一方で、労働者の権利に理解のない職場で働き続けることを考え直すのも一つの手です。育休取得をきっかけに、夫婦で働き方について話し合ってみるのもいいかもしれませんね。

<育児・介護休業についての法律>※意訳

〜事業主の義務〜

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第6条【育児休業申出があった場合における事業主の義務等】


事業主は、労働者(条件を満たす)からの育児休業申出があったときは、当該育児休業申出を拒むことができない。


同第10条【不利益取扱いの禁止】

事業主は、労働者が育児休業の申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。


〜罰則〜

同第56条 【報告の徴収並びに助言、指導および勧告】

1.厚生労働大臣による報告の要請および助言・指導・勧告


厚生労働大臣は育休を拒否した企業に対して報告を求め、また助言や指導、勧告をすることができる。


同第56条の2【公表】

厚生労働大臣の勧告に企業が従わなかった場合、企業名や違反内容が公表される。


同第66条【罰則】

第56条の規定による報告をせず、または虚偽の報告をしたりした者は、20万円以下の過料に処する。

おかん2_男性育休

PROFILE 上谷さくら(かみたに・さくら)さん

弁護士(第一東京弁護士会所属)。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。保護司。2020年5月に著書『おとめ六法』(KADOKAWA)を出版。

取材・文/早川奈緒子  イラスト/佐久間薫