夫の両親との関係が悪く、将来介護を引き受けたくない…と考えることはありませんか。


「親の面倒を見るのは嫁の役割」などという古い考え方で、夫のきょうだいから義両親の介護を押し付けられてしまうという話も聞きます。


義両親に金銭的余裕もない場合、介護サービスを利用する際の経済負担もあるでしょう。


でも、もし夫が先立ってしまっていたら?義両親の介護を引き受けるのは受け入れ難いかもしれません。


夫の死後に義実家と縁を切りたい場合、できることはあるのでしょうか。もし縁が切れたとして、孫である子どもが負担を負う可能性はあるのでしょうか。


女性のための法律書『おとめ六法』著者で弁護士の上谷さくらさんに教えていただきます。

【戸籍法第96条】姻族関係終了届の提出で、縁を切ることは可能

子の配偶者に、義両親の扶養義務を定めた法律はありません。扶養義務を定めている法律は、民法で、直系血族(子、父母、祖父母や孫等)および兄弟姉妹は、互いに扶養する義務があると定めています。


しかし、同居している義父母にどうしても介護が必要になり、さまざまな事情で血縁者に誰も面倒を見る人がいない、という場合には、夫の死後でも妻がその役を引き受けざるをえない可能性もでてきます。


「嫁は義両親の世話をするべきである」という考えが根強い地域では、夫が亡くなった後でも夫の両親の世話を引き受け、一生懸命頑張っている方もいますよね。義両親との関係が良好なら、助け合いの精神はとても素晴らしいと思います。


逆に義両親と折り合いが悪く、どうしても扶養義務を避けたいのであれば、「姻族関係終了届」を提出するという方法があります。

撤回ができないので提出は慎重に

配偶者の両親、祖父母、兄弟姉妹を含めた一族の血縁者のことを「姻族」といいます。婚姻すると姻族となり、離婚すれば姻族関係は終了します。


配偶者の死後に離婚をすることはできませんが、市区町村役場の窓口に「姻族関係終了届」を提出し受理されれば、亡くなった配偶者の親族と関係を終了することができます。


「姻族関係終了届」は、夫の死亡届の提出後であればいつでも提出でき、期限はありません。


また、提出にあたり夫の親族の同意は必要なく、提出したことが親族に通知されることもありません。


「姻族関係終了届」を提出しても子どもと夫の両親との血縁関係はそのまま保たれます。夫の相続財産を返す必要はなく、遺族年金もそれまでどおり受けられるので、経済的な心配もありません。


ただ、姻族関係終了届は一度提出すると撤回することができません。


夫が亡くなったあとの法事をめぐってトラブルになる可能性もありますし、子どもが成人していない場合、祖父母と親がもめている姿がどううつるか、という心配はあります。


義理の両親と姻族を終了させるかどうかは、よく考えて慎重に決めるといいでしょう。

<姻族関係終了に関する法律>

〜離婚などによる配偶者の実家との関係〜
民法第728条【離婚等による姻族関係の終了】 

1.姻族関係は、離婚によって終了する。


2.夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする

 

戸籍法第96条【姻族関係終了届】

民法第728条2.の規定によって姻族関係を終了させる意思を表示しようとする者は、死亡した配偶者の氏名、本籍および死亡の年月日を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。

PROFILE 上谷さくら(かみたに・さくら)さん

弁護士(第一東京弁護士会所属)。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。保護司。2020年5月に著書『おとめ六法』(KADOKAWA)を出版。

取材・文/早川奈緒子  イラスト/佐久間薫