妊娠中に「体重が増えすぎると難産になる」「妊娠中毒症(高血圧)などのリスクが高まる」といった理由で産院から体重制限を指導され、苦労した経験はないでしょうか。

 

あるいは、産後の体型を早く戻したくて、自ら体重が増えすぎないよう厳しく管理していた人もいるかもしれません。

 

これまで妊娠中の体重増加の目安は、標準体型の人で7~12kgとされてきました。

 

しかし厳しすぎる体重制限の影響で、出産時に低体重で生まれてくる赤ちゃんの割合が多いことが問題視され、2021年になって体重増加の目安がこれまでより3kg多い10~15kgに引き上げられたのです。

 

「じゃあ、あんなに体重制限で苦しんだのは意味がなかったの?」と驚く人もいるのではないでしょうか。

 

今回は、20代~50代の出産経験のある女性50人に、妊娠中の体重制限についてアンケートを実施。

 

産院での指導やつらかったこと、生まれてきた赤ちゃんの体重などについて聞かせてもらいました。

体重増加が3kg引き上げられた理由は?

妊娠中の適切な体重増加は、分娩異常を予防するためにこれまでも推奨されてきました。

 

ここでの分娩異常とは

 

  • 低出生体重児(2500g以下)および巨大児(4000g以上)出産
  • 妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)
  • 帝王切開分娩
  • 遷延分娩(いわゆる「難産」)
  • 分娩時大量出血

 

などをいいます。

これまでの体重増加の目安は?

産院での体重指導で、これまで体重増加の目安となっていたのは、2006年に厚生労働省が策定した「妊産婦のための食生活指針」の数字です。

 

この指針では、妊娠全期間を通しての推奨体重増加量は、BMI(身長の二乗に対する体重の比で体格や肥満度を表す指数)による体格区分ごとに以下のように示されています。

 

  • 「低体重(やせ)」の場合…9~12kg
  • 「ふつう」の場合…7~12kg
  • 「肥満」の場合…個別に対応

 

妊婦健診の時にはグラフに体重を記入し、目安を超えていると赤丸をつけられて恥ずかしい思いをした…という人もいるのではないでしょうか。

 

しかし近年、この体重管理が厳格すぎて、出生時の体重が2500g以下の「低出生体重児」が増えているという報告がありました。

 

2019年に発表された「子ども・子育て支援推進調査研究事業」の報告書では、さまざまな要因をふまえて個別に判断することが必要としながらも、以下のように結論づけられています。

「やせ」の妊婦における適切な児の発育を目指すためには、現在の我が国の推奨体重増加 量の上限値である12㎏を上回ることも、許容される可能性が考えられた。 「過体重」や「肥満」においても、体重増加過少は望ましくないと考えられた。

低出生体重の赤ちゃんは、世界14%・先進国7%・日本9.5%

WHOが2015年に発表した調査結果によると、世界の低出生体重児の割合は14.6%(2,050万人)。

 

途上国では赤ちゃんが生まれたときに体重を記録していないケースも多いため、実際の数値とは異なる可能性もありますが、先進国だけに限定すると約7%で、スウェーデンで2.4%、アメリカ8%、イギリス7%などとなっています。

 

同じ時期の日本では9.5%で、2000年の8.6%から増加していました。

 

低出生体重は大きく分けて、早産などで発育が十分でないまま生まれる場合と、おなかの中での発育そのものにトラブルがある場合に分かれます。

 

原因も、妊娠前の体型・年齢、喫煙、ストレスや過労、歯周病などさまざまですが、その中でも妊娠中の体重増加制限はもっとも大きな原因の1つと考えられています。

 

そこで今回の案では、妊娠前のBMI(体格指数)ごとに、

 

  • 「やせ形」「普通」の人…7~12kgから10~15kgに引き上げ
  • 「肥満(BMI30以上)」の人…上限5kg

 

と改められました。

今回のアンケートでは、なんと4人に1人が低体重

今回は、妊娠中の体重制限について、20~50代の出産経験のある女性50人にアンケートを実施しました。

 

その結果、出生時に赤ちゃんの体重が2500g以下だった人は、世界平均と比べてもはるかに多く、50人中13人と、なんと4人に1人(25%)にも上りました。

指導は厳しくなくても「自分で気をつけていた」人が7割

今回のアンケートで、赤ちゃんの出生時体重が2500g以下だった人(50人中13人)に、妊娠中の産院の体重指導についてたずねると、

 

  • 非常に厳しかった…1人
  • わりと厳しかった…2人

 

のみで、あとの10人は「ふつう」「かなりゆるやか」「非常にゆるやか」と答えました。

 

一方で自分自身の意識をたずねると、

 

  • 非常に気にしていた…4人
  • かなり気にしていた…2人
  • そこそこ気にしていた...5人
  • あまり気にしていなかった…1
  • ほとんど気にしていなかった...2

 

と気にしていた人は70%にもなり、多くの妊婦さんが、産院から厳しく言われなくとも、体重が増えすぎないように意識していたことが分かります。

「健診前日は食事抜きでした…」厳しすぎる指導は逆効果!?

今回のアンケートでは、指導が「非常に厳しい」「かなり厳しい」産院は全体の30%でした。

 

また、必ずしも産院の指導が厳しいほど低出生体重が増えるわけではないことも分かりましたが、なかにはこんな体験をした人も。

 

「産院が厳しく体重が10kg以上増えたら転院と言われていました。転院するにも近所の別の産院は方針が合わなかったり、自宅から遠すぎたりで難しく、なんとか10kg以内に体重をおさめるのに必死でした」(Gさん・10歳児と8歳児のママ)

 

「切迫流産で管理入院したときのこと。病院食と水しか口にしていないのに、体重が増えてしまうことを注意されました。でもそれ以上どうすればいいの!?」(Yさん・中学生のママ)

 

「体重増加は10㎏までと言われ、それを超えそうになったら、産道にお肉がついて難産になりますよ!赤ちゃんのことを考えていない!と怒られました。健診前は、前日からご飯を食べないようにしたり、水分を控えたりとかなりストレスでした」(Sさん・0歳児のママ)

 

「そんなに食べてる訳ではないのに、後期になって体重増加が止まらず、月に2kg増えて注意されました。里帰りしてから毎日朝食後と昼食後に散歩してはお腹の張りの痛さに耐え、とても辛かったです」(Nさん・0歳児のママ)

 

など、体重管理のためとはいえ、厳しい言葉に傷ついたり、無理な運動や食事制限をしていた人が何人もいました。

 

なかでも「健診前日に食事を抜いた」と答えた人は、今回アンケートに回答してくれた50人の中だけで3人も。

 

全国には、前日の食事を抜くだけでは範囲におさまらず何度も食事を抜いたり、栄養バランスの悪い低カロリーな食事をとっている人もいるかもしれません。

 

赤ちゃんと母体の健康のための体重管理なのに、そのようなことが起こるのは本末転倒。

 

産院での指導も、目的と手段がいつのまにか入れ替わってしまっているケースがあるのではないでしょうか。

おわりに

努力しても体重が増えてしまい苦しむ妊婦さんにとっては、上限の引き上げは朗報といえますが、何より大切なのは、数字だけを見るのではなく、1人1人が安心して産院や医師に状況を相談でき、健康な状態でお産に臨めること。

 

一律に数字で区切って、範囲におさまらない時は怒られたり脅されたり、結果妊婦さんが無理をしてしまう…ということがないのが一番ですね。

 

また今回の資料の中には、「やせ」を美しいとする様々なメディアの影響も大きいという指摘もあります。

 

夫が妻を「産後太り」「デブ」とけなすことや、有名人の「もう体型戻りました!」という報告を過度に賞賛する風潮も見直してしていきたいですね。

文/高谷みえこ アンケート期間/2021年3月3日~3月5日 n=50人
参照/厚生労働省:妊産婦のための食生活指針 ―「健やか親子21」推進検討会報告書― https://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/02/h0201-3a.html
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所/国立健康・栄養研究所 令和元年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業「妊産婦のための食生活指針の改定案作成および啓発に関する調査研究報告書」 https://www.nibiohn.go.jp/eiken/ninsanpu/download_files/houkokusyo.pdf
人口動態統計からみた長期的な出生時体重の変化と要因について https://www.niph.go.jp/journal/data/63-1/201463010002.pdf