共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。
2020年4月、緊急事態宣言により、新入社員が会社に出社できないという状況で新年度がスタートしました。多くの企業が「どのように新入社員研修を行うか」に頭を悩ませていたはずです。
ソフトバンクでは、いち早くフルリモートでの開催を決断し、2020年4月2日から2週間、約600人の新入社員を対象にした研修をオンライン上で行いました。今回は当時の研修を担当した人事本部の岩月優さんと片岡渉さんにお話を伺い、フルリモートでの開催に至るまでの準備と、オンライン開催におけるメリットとデメリットを振り返ってもらいました。
PROFILE 岩月優さん
PROFILE 片岡渉さん
準備期間はわずか2週間「大変だったのは…」
── ソフトバンクでは2週間の新入社員研修を予定していたとのことですが、フルリモートでの開催を検討していた当時の懸念点について教えてください。
片岡さん:
本来であれば会場を借りて、2週間の研修を行う予定でしたが、コロナの影響を鑑みて急きょオンラインに切り替えることになりました。予定していた研修内容は、前半が社会人として必要な基礎的なスキルのインプット。後半がチームで新規事業を提案するワークショップです。
フルリモートでの開催を検討する際、「新入社員研修の効果」が議題にあがりました。スキルのインプットももちろんですが、この期間で社会人としての意識付け、生活リズムを整えるということも研修効果として捉えていましたし、同期との交流で横のつながりを作ることが、オンライン開催で実現できるのかという点も、課題として捉えていました。
岩月さん:
フルリモートでの研修に切り替えるかどうかを検討し始めたのが昨年の2月中旬頃。当時日本ではまだ爆発的に感染者が増える前の段階で、新型コロナウイルスが私たちの生活にどのくらい影響するのか未知数な部分もあり、集合研修の実施を優先するか、安全を取るかで議論を重ねました。
一部をオンライン開催にして、部分的に集合研修にするなどの案もありましたが、結果的に「社員の安全を第一に」ということで、フルリモートに踏み切りました。
── わずか2週間でオンラインでの研修の準備を整えたそうですが、最も大変だった所はどの部分でしたか?
岩月さん:
「社内環境を自宅に用意する」ためのハード面の準備が一番大変だったように記憶しています。中には自宅にネット環境がないという方もいました。新入社員には内定時にiPadを支給しているのですが、それに次いで、PCとiPhoneも600人分キッティングし、チャーター便を手配。一斉に各社員の自宅へ配送しました。
会社と同じ環境を早いタイミングで用意できたことが、当初の予定通りに研修を開催できた大事なポイントだったと思います。
── ソフト面ではどのような準備をされたのですか?初めてのオンライン開催ということで新たに取り入れたツールなどはあったのでしょうか。
岩月さん:
新入社員研修で新たに取り入れたのは「Zoom」です。昨年3月時点は一部の企業が取り入れているくらいで、そこまでメジャーなツールではなかったと思いますが、有益な機能が充実しているということに気づき、新入社員全員分のアカウントを用意しました。「G Suite(現:Google Workspace)」も、スライドの共有やオンラインミーティングなどによく活用しました。
また、eラーニングのコンテンツを、業務用のiPadやPCから社員の好きな時間、日程で学習することができるシステムを提供していました。前半のスキルインプットの研修では、PCが自宅に届くまでの間はiPadを使ってeラーニングで各々勉強をしてもらって、PCが届いてからは動画の視聴や、ライブ配信での講義を受け、レポート作成などをしてもらいました。
── 後半は新入社員を数名ごとのグループに分けて、ワークショップを実施したとのことですが、これもZoomなどのツールを使って行ったのでしょうか?
岩月さん:
そうです。数名ごとのグループ分けを行い、Zoomを使って新規事業の提案をしてもらいました。
集合研修だと、各チームの進捗や様子をダイレクトに確認することができるのですが、オンラインではそれが見えづらくなってしまうということが懸念されました。それを解消するために、グループ分けとは別に65名ほどのクラスを作り、各クラスに「チューター」と呼ばれる先輩社員を付け、進捗の確認や新入社員からの相談への対応、朝礼と夕礼、出勤と退勤について管理してもらいました。
── これまでの集合形式にはない新たな仕組みやルールなど、他に追加したものはありましたか?
片岡さん:
新規事業を提案するワークショップでは、各チームでリーダーを決めてもらっていたので、毎日リーダーを集めて、30分間の「リーダー会」を行っていました。その中でチームの進捗や、ルール決め、ノウハウなど「やって良かったこと」の共有、「あまり意見を出さない同期に対してどう促せば良いか」などの進行上の悩みや課題を挙げてもらい、話し合ってもらいました。
岩月さん:
集合研修時は6名1チームにしていましたが、オンライン上での話やすさを考慮して、「4名1チーム」に人数を減らしたのも、従来からの違いですね。
オンライン開催だと新入社員は質問がしやすい!?
── 昨年の新入社員研修をフルリモートで開催してみて感じるメリットとデメリットについて教えてください。
片岡さん:
大きなメリットは、会場のキャパに捉われずに開催できたということでしょうか。有名講師を呼んでの講義も、これまでだと大きな会場を手配したり、日を分けて開催する必要がありましたが、オンラインでは人数や場所を気にせず機会を設けることができました。
また、新入社員からは、「オンラインでの講義の方が質問しやすい」という声もありました。やはり600人が集まる中では手を挙げて質問しにくいかもしれませんが、オンライン上の画面でコメントを残す形の方が、気軽に発言しやすい環境だったのかもしれません。
岩月さん:
オンライン研修を通して、集合形式の良さも浮き彫りになりました。対話やロープレなどの深い内省はオンラインだと難しい部分もあり、講師からの直接的なフィードバックの効果も薄まるように感じました。
オンラインは効率的ではありますが、「たまたま隣の席に座った」とか、「休憩時間に会話をした」などの偶然の出会いや交流はやはり生まれにくいというデメリットも。また、一人一人の行動の変化や心の変化がオンラインだと察知しにくい部分でもありました。
── 昨年度の新入社員研修、最も大きな成功要因について教えてください。
岩月さん:
柔軟な対応ができたことです。日毎に変わる情勢の中、例えば人事本部のメンバーが「Zoomの使い方の機能をまとめてみましょう」とか、「PC発送についてこちらの方法の方が効率が良いのでは」など、各々が考えて自発的に動いてくれました。新入社員研修は、人材開発部の新人研修プロジェクトチームで運営しているのですが、担当にアサインされていなかった社員も巻き込み、一丸となって取り組んだ研修となりました。誰一人欠けてもこのプロジェクトの成功には至らなかったはずです。
「リソース足りない」「人手が足りない」「コロナがなければ」という不平不満を言ったらきりがないですが、その制約条件をポジティブに捉え、チャンスとして見据えて「どう効率よく道を拓くか」をメンバー全員が考えられたことが成功につながったと思っています。
── 2021年度の新入社員研修もフルリモートでの開催を予定していますか?
片岡さん:
昨年の新入社員研修以降に開催した研修のほとんどがオンラインでした。オンラインのメリットがわかったことも収穫ですが、対話やフィードバックを通してじっくり内省する研修などの場合は集合形式の方が良いということもわかりました。今年の新入社員研修は、今後のコロナの状況を鑑みて柔軟に対応できるように検討中です。
…
早い段階でデバイスなどハード面の手配を行い、オンライン会議ツールなどのソフト面の準備、そして研修に臨んだチーム全員が自発的に考えて行動したことが、600人という規模のフルリモート研修を実現へと導きました。これまで培ってきたソフトバンクの企業風土、そしてスタッフの胆力があってこその成功だったに違いありません。
取材・文/佐藤有香