
素敵な思い出のある場所で写真を撮る<おもいで写真>。写真を撮ることでお年寄りたちは忘れていた素晴らしい思い出と再会し、笑顔とパワーを取り戻す。明日からが楽しくなる魔法のような写真をテーマに描く映画『おもいで写眞』。
CHANTO WEBでは、地元の役場で働く主人公の幼なじみ・星野一郎を演じた高良健吾さんにインタビュー。一郎の魅力、大好きだという地元・熊本の思い出、最近笑顔になった出来事について、たっぷりと語ってもらいました。
—— 台本を読んだときの印象を教えてください。
高良さん:
一郎の幼なじみ・結子が遺影写真を撮るきっかけは、祖母のピンボケの遺影を見たことでした。僕自身も祖父の遺影を見たときに、結子と同じ気持ちになったのを思い出しました。僕だけでなく家族みんなもそう思っていて、きっとこういう問題はどこにでもあるんだろうなと身近に感じました。結子が自分らしさだけでなく、他の人のらしさを段々大切にできるようになっていく、素敵な物語だと思いました。
—— 一郎はとても優しくて素敵なキャラクターでした。高良さんが感じた一郎の魅力とは?
高良さん:
頼りなさは多少あるかもしれないけれど、一番いいなと思ったのはその人らしさを大切にできるところです。結子は嘘が大嫌いで融通が利かない。そんなまっすぐな性格もあり、相手の“らしさ”を大切にできず、衝突も多かったりします。
一方の一郎は、目の前の人の“らしさ”をとても尊重しています。例えば、結子がみんなとうまくいかないことも結子の“らしさ”だと認めて接します。1回だけ「(たとえ結子が納得しなくても)その人にとって大切なものは、(結子も)大切にしなきゃいけない」と注意するシーンがあります。でもその言い方も、言うタイミングもポイントがちゃんとわかっているんです。言うべきときに、必要最低限な言葉で、ポンと伝えることができる。そういうところはとてもいいなと思いました。「ちょっと言い過ぎたかな」と謝りにいくところも含めて一郎の優しさが出ていると感じました。

—— 性格はかなり違うけれど、いいコンビですよね。
高良さん:
一郎にない部分が結子にはあります。地元に残って役所に勤める一郎と、夢を追いかけて東京に出て行った結子。ないものを補っている感じがありました。幼なじみとして過ごしてきた時間も長いから、あのいいコンビ感が自然に出るのだと思いました。
—— 結子のような女性はどうですか?
高良さん:
僕は裏の裏の裏を考えてしまうタイプなので、わかりやすくてストレートな人がいいですね(笑)。結子もある意味わかりやすいですが、僕は表裏がないおとなしい人が好きです。

—— その人らしさを大切にできる一郎を演じるうえで心がけていたことはありますか?
高良さん:
監督からは特に細かいリクエストはなく、まかせていただいた感じでした。セリフや状況は台本にすべて書かれているので、それをベースに、一郎は「人をジャッジするような感覚を持っていない」ということを意識して、表現していきたいと思っていました。
—— 高良さんは、地元に残った一郎とは違い、結子のように上京を決断したわけですよね。
高良さん:
今は、上京して良かったと思っています。いい悪いは置いておいて、いろいろな価値観に触れて、たくさんのものを見せてもらっているので。
だけど、地元・熊本に残っていたら絶対に楽しんでいたはずという自信があります。10代、20代のときは「上京した“せいで”こんな風に感じてしまう、思ってしまう」と考えることも多かったですが、30代になった今は「上京した“おかげで”」と思えるようになりました。
—— 高良さんは地元が大好きという印象が強いので、上京はかなり大きな決断だったのではないでしょうか。
高良さん:
高校の頃から東京に通って仕事をしていました。転入という選択もあったのですが、卒業まで地元にいたい気持ちが強かったので、譲らなかったですね。高校卒業時にも通う方法を提案したのですが、ダメと言われて。「福岡からだったら通えますかね?」と訊いたくらい離れたくなかったですね。結局、ダメと言われて上京しました。単純に地元が好きなんでしょうね。熊本はいいところだし、人にも恵まれていたので。残っていたら残っていたで、楽しくやっていたと思います。

—— 本作では長い人生を生きてきた人の<おもいで写真>を撮影します。今の時点で高良さんが<おもいで写真>を撮るなら、イメージする場所はありますか?
高良さん:
それも熊本かな。もう、東京のほうが長い時間を過ごしているんですけどね。東京には東京の楽しさもあるけれど、俳優・高良健吾でもなく、熊本にいる普通の学生だった頃が一番思い出があります。その頃はみんなでよく集まった河川敷。
映画の中にもありますが“なんちゃない(=どうってことない)”河川敷だけど、僕にとっての思い出はそこにあります。他の人にとってなんちゃないところでも、その人にとって大切な場所であれば、そこが<おもいで写真>が撮れる場所になると思います。

—— ロケ地・富山はいかがでしたか?
高良さん:
食事がとても美味しかったです。魚介類をよく食べました。全部美味しかったですね。あとは空気が気持ちよかったです。やっぱり僕は田舎が好きなんだと思います。地方での撮影は、どこか落ち着く感じがあります。
—— 事務所・テンカラット25周年記念企画である本作には「先輩たちの学びや自身の振り返り、成長」のメッセージも込められています。高良さん自信が先輩から受けた学びや大切にしていることとは?
高良さん:
本当にたくさんあります。これまでに本で読んだ言葉、映像で観たもの、人から聞いた話など、いろいろなものが僕の背中を押してくれていると思います。
—— 自分が受け取ったものを後輩に繋いでいくことを考えたりしますか?
高良さん:
まだ自分から、これを伝えたいと言葉にしたくない部分はあります。でも、僕自信が一生懸命やっている姿を見て、何かを感じ取ったり、届くものがあったらうれしいとは思います。もちろん、繋ぐこと、伝えることを考えないわけではありません。僕自身、先輩たちの背中や言葉から得たものもたくさんあるので。
ただ、それは、伝えようと思って伝えてくれたものもあれば、自分が感じ取って吸収したものもありますし。まだ具体的には思い浮かばないけれど、伝えたいことはもちろんあります。僕自身、素敵なものをいただいてきたので。

—— 一郎の笑顔に癒されました。高良さんが、最近笑顔になった出来事を教えてください!
高良さん:
高校からの友達のお笑い芸人・しゃかりきの光と年末に福岡でバラエティ番組のロケをしました。いろいろな課題をクリアしていくというミッションがあったのですが、ロケの間ずっと笑っていました。普段、TVのバラエティに出ると緊張で何もできずに終わることが多いのですが、あんなに笑って、楽しかったのは初めてでした。
M-1とかも毎年楽しみにしているし、年末年始はお笑い番組が多いので、芸人さんにいっぱい笑わせてもらっています。光との番組がどんな風に仕上がっているのか、すごく楽しみです。
高良健吾/俳優
1987生まれ、熊本県出身。2006 年、『ハリヨの夏』にて映画デビュー。『軽蔑』(12)で日本アカデミー賞新人賞、『苦役列車』(13)で日本アカデミー賞優秀助演男優賞、『横道世之介』(14)ではブルーリボン賞主演男優賞を受賞する。近年の主な映画出演作に、『アンダー・ユア・ベッド』(19)、『人間失格 太宰治と3人の女たち』(19)、『葬式の名人』(19)、『カツベン!』(19)、『星の子』(20)などがある。2021年には NHK 大河ドラマ「青天を衝け」への出演と、映画『あのこは貴族』の公開(2月) が控えている。
取材・文/タナカシノブ 写真:中野亜沙美