2021年1月、菅首相は初の施政方針演説の中で、子育て支援として「不妊治療の保険適用を、来年四月からスタートし、男性も対象にします」と述べました。
来年とは2022年(令和4年)のことで、それまでは別の方法で支援を開始するといいます。
そこで今回は、不妊治療の支援は今とどう変わるのか、実施まではどうなるのか、今後の課題などについて解説します。
もっとも注目「体外受精」の保険適用とは
現在、体外受精で生まれた赤ちゃんは15人に1人の割合になっています。
不妊治療にはいくつかの段階があり、初期の「タイミング法」では保険適用となっていますが、その先の「人工授精」や「体外受精」については現在は保険適用外で、とくに体外受精(顕微授精)には1回につき数十万円かかります。
この費用が保険で患者3割負担になった場合、たとえば50万円であれば15万円と大きく負担額が減り、現在の1回分の費用で3回チャレンジできることになります。
また、保険適用になった後も、先進医療などを組み合わせると通常は全額自己負担となってしまいますが、不妊治療に関しては例外的に混合診療を認める方針だということです。
開始は2022年4月予定。それまではどうなる?
体外受精や人工授精などへの保険適用がスタートするのは2022年の4月予定で、この記事を書いている2021年1月からはまだ1年以上あります。
「保険適用を待つべきか」と悩む人も多いと思いますが、不妊治療は開始後すぐに妊娠できるとは限りませんし、保険適用を待っている間にも夫婦の年齢は上がり、妊娠しやすさは年々低下するとされています。
そこで、できるだけ負担を軽減してすぐに治療開始できるよう、2022年4月までは以下のような措置がとられる予定です。
- 初回治療には最大30万円の補助金→2回目以降は15万円だったが、2回目以降もずっと30万円に増額
- 所得額730万円を超える夫婦は補助金がもらえなかったが、制限をなくして全員補助が受けられるように変更
- 助成回数は通算で6回までだったが、子ども1人あたり最大6回に変更 など
助成回数の変更により「二人目不妊」で人知れず悩む人にも役立ちそうです。
なおこの制度は、予算案の成立後、2021年1月1日にさかのぼって適用されるとのことです。不妊治療の開始時期で迷っている人は参考にして下さいね。
費用助成だけじゃない、不妊治療のこんな課題
今後保険適用や費用助成がすすむのは赤ちゃんを望む夫婦にとってもちろん望ましいことですが、治療代の負担が減っても、まだ解決すべき課題はいくつも残っています。
学生を含めた若い世代が、「妊娠の確率は年齢に大きく左右される」「男性と女性ともに検査を受けないと効果的な不妊治療ができない」などの知識を得る機会が少ないのも、治療開始を遅らせている一因と考えられています。
また非正規雇用の増加で、男女とも収入の基盤をしっかりさせてからでないと結婚・出産が不安なため、結婚する年齢が上がっていることも不妊治療をより難しくしているといわれます。
そして、働きながらの通院による時間的・精神的負担も非常に大きく、治療中の夫婦が通院でたびたび休んだために仕事の評価に支障が出たり、フルタイム勤務をあきらめて退職したり、逆に不妊治療の方をあきらめてしまったり…というケースも少なくありません。
今回の施政方針演説では、
不妊治療と仕事の両立に、後ろめたい思いをさせてはなりません。不妊治療休暇を導入する中小企業を支援し、社会的機運を高めます。
という発言がありました。
具体的な支援方法はこれからですが、上記のような事態に至らないような施策が求められます。
おわりに
課題はまだまだ残るとはいえ、やはり経済的な問題は大きいため、2022年4月からの保険適用は前進だといえるでしょう。
今回のニュースをもとに、なぜ保険適用する必要があるのか、妊娠についての正しい知識などを多くの人がオープンに話し合えるきっかけになると良いですね。
文/高谷みえこ
参考/首相官邸ホームページ|令和3年1月18日 第204回 国会における菅内閣総理大臣施政方針演説 http://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2021/0118shoshinhyomei.html
一般社団法人日本生殖医学会「生殖補助医療の治療成績はどの程度なのですか?」 http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa16.html