オフィス街で一斉に昼休みが始まり、どこの店も行列でなかなかランチにありつけない人たちのことを指した「ランチ難民」という言葉があります。
2021年1月、首都圏を中心とした緊急事態宣言発令にともない、営業時間を20時までに短縮する飲食店が増加。
それにより、今まで仕事が終わったあとにお店で夕食を食べていた人たちの行き先がなくなり、連日コンビニのお弁当やカップ麺などの夕食続きで困っている…という状況を「夕食難民」と称した報道が流れました。
これに対し、SNSでは「そんなの自炊すればいいだけ」「主婦はどんなに疲れていても毎日料理しているのに…」などの意見も。
しかし、それぞれの事情や立場もふまえつつ言い分を見てみると、意外にも「答えはたった1つ」だと感じました。
どういうことなのか、見ていきましょう。
自炊しないのではなく「できない?」都会のキッチン事情
今回、温かい食事をお店で食べられないのが辛いという人に対して「じゃあ、どうして自炊しないのか」という意見が見られました。
しかし、首都圏を中心とした都会のワンルームマンションでは、自炊が難しいさまざまな理由があります。
- キッチンがないか、小さい電熱器のコンロ程度で料理が作りにくい
- 自炊には複数の食材が必要だが、使い切れないし、冷蔵庫も小さく保存できない
- 調味料や調理器具・食器を保管するスペースもない
一人暮らしを始めた当初は自炊を頑張っていたものの、むしろ効率が悪いことに気付いてあきらめた…という人も。
またキッチンの整った郊外に住む人はそのぶん通勤時間が長く、たとえば夜8時に仕事が終わって帰宅してから料理すると夕食は10~11時と遅くなってしまいます。
空腹で長時間電車に乗っていると気分が悪くなることもあるため、普段は会社近くの行きつけのお店で夕食をとっているという人や、これまでは夕方に帰宅できていたが、時差出勤で朝が遅くなったかわりに終業が遅くなり、夜8時を過ぎるようになったという人も。
つまり、今回「夕食難民」と呼ばれている人たちは、
「早く帰れるのに料理しない」 「自炊の設備があるのに面倒がってやらない」
というよりも、帰宅が遅くそこからの自炊が難しい人や、キッチンや調理家電にお金を使わないと割り切った上で都心に近い場所に住み、食事は外食という生活スタイルだった人がかなりの数を占めているといえます。
「温かい出来たてのごはん」に感謝する人多数
しかし、この状況の中で、いろいろな相手に向けての感謝の言葉が見られたのもまた事実でした。
「いつも夜遅くでも料理を作って出してくれていた定食屋さんやおそば屋さんなど飲食店の人たちへ、当たり前だと思っていたけれど、あらためてお礼を伝えたい」
「この状況でもいつもどおりに店を開け、バラエティ豊かなメニューを用意してくれているスーパーやコンビニのおかげでまだ助かってる」
などのお店への感謝の声。
そして、
「夫の自分は、部下のフォローや気になる仕事を片付けて一段落して帰るけど、妻はどんな状況でも仕事を切り上げて保育園に迎えに行き、栄養バランスを考え保育園の昼食とかぶらないようにまで気を配った夕食を作って子供に食べさせてくれる。朝も早いのに…頭が上がりません」
「仕事終わりで疲れて、空腹抱えながら料理して食べるとこまではなんとかできても、後片付けする気力はない…世の中のお母さんたちは偉大すぎる!」
「自分1人ならカップ麺でもいいけど、子供の健康を考えると基本的には毎日料理するしかないよね、お母さんは本当にご苦労様です」
という、妻や世のママへの感謝と尊敬の声もSNSではいくつも見られました。
結局ゴールは1つ
「温かい夕食が食べたいなら自炊するべき」に対し、「それぞれ事情も違うのに押しつけないで」
「そもそも主婦は作りたくないとかいう選択肢すらないんですけど?」に対し「自分の意志で結婚出産したんでしょ?こっちは独身なので外食しようが自由なんだよね」
など、いっけん対立しているように見える意見ですが、根底に流れる人々の本音は実は同じ、たった1つのことなのではないでしょうか。
それは、
「疲れているのに、料理するのしんどい…」
という気持ちです。
料理が得意な人、好きな人でも毎日となるとやはり大変。得意でないならなおさらです。
また、気の向いた時に作る料理は楽しいですが、しんどい時には苦痛に感じて当たり前です。
それをみんなが認めたうえで考えれば、自然と答えは1つになるはず。
この機会にいつも大変な夕食作りをしてくれている人への理解や共感を深め、料理する余力がないほどハードな働き方や、どんなに疲れていても母親が家族の食事の用意をするのが当たり前…という世の中の空気を改善していければ一番ですね。
文/高谷みえこ