私たちの寿命が伸びたことで、これまでの「学ぶ」「働く」「引退する」という3つのライフステージだけにとどまらない人生設計が必要だと言われています。いわゆる人生100年時代において、私たちが備えておくべきこととは?前回の記事「テレワークで生産性が高い部署の共通点『有能な人材ではなく』」につづき、株式会社ワーク・ライフバランスでコンサルタントをされている桜田陽子さんに伺います。

人生100年時代の到来!複合的なキャリア形成が将来を築く

── 「人生100年時代」、これまでとは違ったライフプランニングが必要だと言われていますよね。長期的な視野で人生を考えたときに、私たち子育て世代が今から備えておくべきことは何でしょうか?

 

桜田さん:

世界全体で長寿化が見込まれる中、60〜65歳でリタイアした後も約30〜40年は生きることになります。そのため定年まで転職する気がないとしても定年後の人生は考えておく必要があり、もし時間やお金が許すのであれば、趣味の幅を広げたり、ボランティア活動への参加や同じ資格や興味を持つ者同士が集まる交流会に出席してみるなど、視野を広げることをおすすめします。

 

転職自体が難しいということであれば、社内公募制度を利用してみるのも手です。例えばもともと経理部だった人がマーケティング部へキャリアチェンジしスキルの幅が広がれば任される仕事の幅も広がるはずです。

 

── 理想は今のキャリアに留まらず、スキルを磨き増やしていくことなんですね。これから新しくキャリアを積む場合、どこに注目して選ぶのが良いでしょうか?

 

桜田さん:

そうですね。100年時代に必要なのは、お金や社会的地位などを指す「地位財」ではなく、健康であることや良好な人間関係を築ける環境などを指す「非地位財」だといわれますが、今から新しくキャリアや副業をスタートさせるのであれば「自分にとっての幸せは何か?」「自分の強みを活かすことができる場所はどこか?」を探るところから始めてみましょう。

 

ちなみに弊社では副業が認められていますが、例えば体を動かすのが好きな社員はパーソナルトレーナーの資格を取得し、土日や祝日にパーソナルトレーナーとして働いている人もいます。コンサルタントもパーソナルトレーナーも人の成長を応援するという意味では共通していますよね。

 

── 桜田さんも本職以外で何か活動をされていますか?

 

桜田さん:

私は地元が茨城県守谷市なのですが、茨城ではまだまだテレワークが浸透していません。そこで、テレワークを始めたいけれど自宅に環境が整っていないという方のために、必要な機器や会議室などが備えられた「ITC守谷」というテレワークの拠点をボランティアで立ち上げました。施設の設計にあたりプロの方と何度か仕事を重ねたことでオフィスのレイアウトを考えるノウハウが身につき、本職でも「社員が働きやすいレイアウトにするにはどうすれば?」というクライアントからの質問に対し的確に回答しやすくなりました。

 

このように仕事もボランティア活動も切り離さず考えることで相乗効果が生まれることもあります。また、20代では社内の人とのコミュニケーションを重視していましたが、30代では会社以外の場所でも積極的にコミュニケーションを取ることが大事。さまざまな人たちとコミュニケーションを取る中で自分が持っていない視点に気付いたり、新たな発想が出てくるかもしれません。

複合的なキャリア形成をする上で必要になる〝家族のチーム力〟の強化

── 桜田さんは子育て期に海外研修へも参加されたと伺いました。私たちが将来を見据えて培っておくべきことは、どのようなことでしょうか?

 

桜田さん:

子育て中はつい自分のことを後回しにしがちですが、私は年齢やライフステージにとらわれず、「チャンスの神様は前髪しかない(好機はすぐに捉えなければ後ろから捉えることはできない。チャンスの神様が通り過ぎた後に髪を掴もうとしても後ろに髪はないので捕まえられない)」という言葉をいつも意識して決断しています。

 

そのためにも、夫婦や周囲の家族の理解・協力は不可欠です。

 

私の場合、39歳のときに突然、義母の介護が始まり、小さい子ども二人の育児と介護の「ダブルケア」状態に。仕事と介護、育児と家庭をどうにか成立できないか毎日葛藤していました。

 

その解決法を模索していたなかで、地元の茨城県が実施していた海外派遣制度に出会いました。派遣先は福祉の先進国ノルウェー。自分だけでなく、当時勤めていた企業で、短時間勤務をしている人に向けて新しい制度が提言できればと思い、応募をしました。

 

── 研修により長期間家を空けることに躊躇いはありませんでしたか?

 

桜田さん:

ノルウェー研修へ参加するにあたり面接を受けましたが、審査員からも「研修期間中子どもたち(当時子供の年齢は6歳・4歳でした)の育児は大丈夫ですか?」と心配されました。ただ、私にとっては一生のチャンスだと思い逃したくないと。

 

その決断をあと押ししてくれたのが、主人と両親、子どもたちです。

 

── 周りのサポートも大切な要素ですね!

 

桜田さん:

共働き家庭の場合は特に、円滑に働くためには周囲のサポートは不可欠です。30代のうちに夫婦互いにひとりでも育児ができる状態になっておくことはもちろん、義理の両親を含め親とのつながりを大切にしておくと心強いです。ママ友の繋がりもそうですね。

 

実際私も、助け合うことができるママ友が近所にいるので、例えば習い事の送迎が難しい日は事前にママ友にお願いすることこともあります。30代のうちにできればたくさんの味方をつけておくことは今後の働き方にも大きく影響するでしょう。

 

── テレワークによって、夫婦の家事・育児分担が進んだという話もありますよね。個人ではなく、チームで負荷を分散することがやっぱり大事なんですね。

 

桜田さん:

そうですね。そうすれば「ママだから」「パパだから」という間違った配慮に対しても声をあげことができると思うんです。

 

私も、産休前は残業や出張の多い部署にいましたが、復帰後は別の部署に異動に。異動理由は子育てが忙しく前のように働くことは難しいだろうと会社が配慮しての判断だったようですが、私自身は働きたい意思が強く、夫や両親とスケジュールを調整することで仕事を回すことは可能だと考えていました。

 

そうした職場の誤った配慮に対し、自分が働ける状況にあることの裏付けを添えながら働きたい意思を会社にはっきりと説明できれば、キャリア形成の機会を逃さずに済むかもしれません。

 

また、職場には家庭の事情を相談しやすい体制をつくり、お互い助け合えるようなチームを構築しておくことも重要です。

 

子どもの急な発熱による早退、親の介護による有給取得など、家庭の状況をオープンに相談できる環境をつくることで、自分だけでなく、同じような状況におかれたメンバーも働きやすくなります。

 

子育てや介護など、今は自分には関係ないことだとしても、ご自身が急に病気になる可能性だってありますよね。いずれ自分がそういう立場になったときに助けてもらえるよう、困っている人がいればサポートしてあげることが必要なのではないでしょうか。

 

PROFILE 桜田陽子さん

株式会社ワーク・ライフバランスコンサルタント。前職の株式会社伊藤園では営業・販売促進・商品企画・マーケティング・小売り等の部門に在籍。親の介護、二児の子育て、夫の出向を同時に経験する中で、「仕事と介護と育児と家庭をすべて成立させる方法はないのだろうか?」と考え、福祉の先進国であるノルウェーを視察。この体験をきっかけに「日本社会全体を変えていかなければならない」と社会変革に強い想いを持つようになり、株式会社ワーク・ライフバランスへ参画。自身がテレワークや在宅勤務などを活用することで柔軟な働き方を手に入れたように、「柔軟な働き方を取り入れて全ての人が能力を発揮できるダイバーシティの実現を目指したい」と考え、地元でテレワークを活用した働き方を後押しする事業「ITC守谷」の立ち上げに携わるなど、プライベートでも積極的に地域活動で貢献している。

文/望月琴海