spiceup笠原さん

意図せず料理研究家に転身、現在は商品開発など幅広い仕事をこなし、多忙な日々を送る桑原亮子さん。

 

前回の、主婦が26歳でシングルマザーに…成功を掴んだ熱量では、知人から引き継いだインド料理教室が、予約の取れない人気教室となるまでの道のりを伺いました。

 

仕事観や料理の話を伺う中には、小、中、高校生のママとしての顔も。

 

そこには、料理研究家という肩書やファッション雑誌の読者モデルも務める洗練されたイメージとはまた違う、38歳の働く母としての等身大の姿や言葉の数々がありました。

働き者の家族を見て感じていたこと

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—— 料理研究家の方って、お母さんも料理好きで、というパターン多いですよね。

 

桑原さん:

うちは違いますけどね(笑)。母も祖母も、バリバリ仕事していた人たちで、母は産後1か月で復職して、土曜日も仕事って感じ。どちらからというと、あんまり料理を手作りするという家ではなかったです。

 

幼少期から「お母さんの料理はなんてまずいんだろうか」と思ってたくらいですから。餃子に、ひき肉の塊だけがペッて入ってたり。

 

—— なかなか豪快ですね(笑)

 

桑原さん:

なので、自分で作りはじめました。中学、高校のときは友達を家に呼んで、ビーフシチューを食べてもらったりして。人に自分の作ったものを食べてもらえる楽しさに目覚めましたね。この頃から料理が好きになったかも。

 

—— 反面教師的な入口ですね。働き者のご家族を見ていて、どう感じていましたか?

 

桑原さん:

働く=楽しいことなんだなって思ってました。

 

両親、祖父母含め、私の周りにいた大人たちはみんな、仕事ばっかりしていました。それがとっても楽しそうだったんです。そういう背中を見てきたせいか、私も通訳士としての会社員時代含めて、仕事が忙しくても苦痛ではないんです。

 

もちろん、つらいことやしんどいことはあります。レシピ開発に悩む日々だし、専業主婦時代に比べると家で作る品数も減ったし、休みの日はずっと寝ていたいと思うことだってある。けれど、仕事はずっとしていたい。好きなことを仕事にしているので、やっぱり仕事=楽しい、ですね。

 

呑み食いが好きなので、クミンはよく使う

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—— 家庭でもスパイスを使った料理を出されるとか。でも普段の料理にスパイスを取り入れるのって難しそうです。

 

桑原さん:

ちょっとした法則さえ覚えれば、全然難しくないですよ。スパイスって、ほんの少し入れるだけで香りが変わって、味も変わったと感じるので。人の味覚は結構あいまいで、嗅覚の方が印象に残るんです。例えば、胡麻油を使うだけで中華風になるし、和山椒を振ると和食に感じます。スパイスを変えるだけで、なんかいつもと違うなっていうのが楽しいと思う。

 

最近、鯖にはすごくスパイスが合うなと思っていて。例えば「サバカレー」とか。それに、鯖の味噌煮はクミンや中華山椒と相性がいいんです。

 

食べた人が「おっ」って驚く表情を見るのが、好きなんですよね。

 

—— おすすめのスパイスはありますか?

 

桑原さん:

私自身、メニューを開発したり日々料理するときは、季節や体調なども考慮しながら決めますが、ジンジャー、ターメリック、クミンあたりは取り入れやすいと思います。

 

例えば、冬なら体を温めてくれるジンジャーをすりおろしてドレッシングや炒めものに使ったり。シナモンやクローブにも温め効果があります。ターメリックは、抗酸化作用が強いので美肌効果が期待できます。根菜によく合うので、サトイモを炒めるときにパウダーを振りかけると美味しいですよ。

 

クミンは胃腸の働きを良くしてくれるので、呑むのが好きな人にはおすすめ。クミンシードはちょっと炒ると胡麻みたいに香ばしくなって、食感もカリカリして子どもも食べやすくなります。

 

レシピは基本的に、家庭で作りやすく、あまり尖りすぎないように心がけています。食材を集めるのにひと苦労するようなものでは続かないので。

 

—— スパイスって香りに変化をつけるだけじゃなく、美容や健康にもいいんですね

 

桑原さん:

漢方薬の原料にもなっているくらいですからね。個人的には、40歳を目前にして、健康を意識するようになりました。なので、スパイスと油は特に良質なものを選ぶようにしていますし、野菜とタンパク質やフルーツ、スパイスと組み合わせたサラダは朝晩食べるようにしています。

 

でも、お酒が大好きで、家に帰ってビール呑みながら晩御飯の支度するのは至福の時間。つい飲み過ぎちゃうので、クミンを多用してますね、そういえば。

 

クミンと一緒に、ゴボウとベーコンを炒めたものは、ビール、赤ワインそしてハイボールとも相性ばっちりなんですよ。

念のこもった完璧な料理より“鼻歌で一品”くらいがちょうどいい

spiceup桑原さん

—— お子さんたちはお母さんのお仕事についてなんと?

 

桑原さん:

興味ないんじゃないですかねぇ。家では口うるさいおばさんなので。中学生の娘は私がメディアに出るとちょっと嬉しそうですけど、いまは友達や部活が命、ですし。長男なんてTV取材が来たとき、「俺の話はするな」って。誰が言うねん、って感じですけど。でも、私の仕事周りにある感覚的なこと、デザイン的なことが一番好きなのは長男かも。本人に聞いたことも言われたこともありませんけどね。

 

—— お手伝いとかはしてくれますか?

 

桑原さん:

うちは、手伝いをしないとごはんが食べられないというルールなんです。働かざる者食うべからず。昔の人はよく言うたもんだ(笑)。

 

なので、私や夫が帰宅すると、子どもたちが急にバタバタと動き出すんです。洗濯物たたみ出したりして。

 

物理的に私一人では回せませんし、家族はチームですから。それに、家事は生きていくチカラになると思うので。

 

——「いやだ」などと反抗されませんか?

 

桑原さん:

そりゃありますよ。長男は高校生になって少し抜けてきましたが、まだまだ大変。部屋から引っ張りだしてきて、やらせています。ぶつぶつ文句言いながらもやってます、一応。だって、本当にごはん出てこないですから(笑)。彼は4歳くらいからやっているので、洗濯物たたむのはめっちゃうまいですよ。私の帰宅が遅くなった日は、お味噌汁作ってくれることも。最近の夜ごはんは鍋料理が多いので、カセットボンベをよく買いに走らされています。

 

—— ご多忙ですが、朝ごはんやお弁当もしっかり作っている?

 

桑原さん:

もちろん!もっぱら朝はメニューがルーティン化してますけど。具だくさんスープにごはん、玉子焼き、肉類。お弁当づくりはもう本当に辞めたいけど…(苦笑)。

 

休みの日はみんな昼くらいまで寝ているので、一番早起きの夫がブランチ的なものを作ってくれることもあります。長男はパンを買いに走らされてる(笑)。

 

—— 仕事、育児、家事などの“やらねばならないこと”と、”自分のしたいこと”。どうやってバランスをとっていますか?

 

桑原さん:

やらないといけないことって実はそんなにないと思っています。仕事は全力でやりますけど。家事は完璧には全然できていません。いま自宅の廊下にはハンドソープ商品の段ボールが占拠してますし、掃除だって2割できたらいっか、て。

 

料理もそう。本当はテーブルにたくさん料理が乗ってる光景を見るのが好きなんです。大皿料理が4、5品、ぼんぼんって。お酒もあって…なんていうのが理想。

 

でも、品数が多ければいいってもんでもないし、全部手の込んだ手づくりでなくてもいい。1品でも、2品でも楽しんで作れたら、充分だと思います。

 

神経キリキリして作られた料理食べるの、嫌じゃないですか?フラフラになりながら刻んだキャベツ出されても、なんか変な念が入ってそうで怖いじゃないですか(笑)。であれば、ちょっと粗くていいから、楽しそうに鼻歌うたいながら…の料理のほうが、結果的にみんなも楽しく食べられて、ハッピーになると思うんです。

 

spiceup桑原さん

 

・・・

 

お子さんたちにコレだけは伝えたいことって何ですか?と聞くと、「失敗をたくさんして、好きなことを仕事にして、かなぁ。私自身が失敗だらけの人生ですけど」、と笑顔で答えてくれた桑原さん。

 

3人のお子さんには、いま母の背中がどう見えているのか分かりませんが、日常にちょっとした変化や驚きをもたらしてくれるスパイスやハーブを使った料理の記憶は、その時々の思い出とともに、母の味として刻まれるに違いありません。

 

PROFILE:桑原亮子(くわはら・りょうこ)さん

spiceup桑原さん
広島県福山市出身、大阪府在住のスパイスやハーブ料理研究家、料理教室「SPICE UP」オーナー。月2回は大阪市内で間借りカレー屋を開店している。「SPICE UP」は地下鉄御堂筋線・緑地公園駅すぐのヴィンテージマンションをフルリノベし、2020年12月に移転。Instagram @spiceup_world では料理教室の情報を、@spiceup_shopでは「SPICE UP」の器やオリジナル商品を発信中。

 

取材・文/笠原美律 撮影/東郷憲志