世の中ではリモートワークの導入をはじめ、働き方改革が進められています。CHANTO総研でも各企業の働き方改革への取り組みをご紹介してきましたが、数年前にはなかったような制度を導入する企業も増えてきました。

 

まさに今は変化の時代といえますが、今後、私たちの働き方はどのように変わっていくのでしょうか。2014年の創業以来、ほぼ全員がリモートワークをしている株式会社キャスターで取締役COOを務め、リモート時代の会社のあり方やこれからの働き方についてまとめた著書『会社には行かないー6年やってわかった普通の人こそ評価されるリモートワークという働き方』を20209月に上梓した石倉秀明さんに伺いました。

今までは働き方の組み合わせが少なすぎた

── 昨今、企業の働き方改革が進んで、働き方が多様化してきたと感じます。キャスターは世の中に先駆けてリモートワークを導入した企業として注目されていますが、石倉さんは今の日本の働き方の変化についてどのように見ていますか?

 

石倉さん:

まず、働き方を分解して考えてみると、時間や場所、雇用形態というものに分けられます。それぞれにおいてどういう選択肢をどこまで認めるのか、決めるのはあくまでも会社です。

たとえば副業やリモートワークを認めるのか、リモートワークができるとしても出社ありにするのかなど、一つひとつ細かいことを組み合わせていくと無限の選択肢ができます。会社によってその選択をどこまでとるのかは違うはずなのですが、今まではそのパターンが少なすぎただけだと思うんです。

 

これまで年収を決める大きな要因は、雇用形態、勤務時間、勤務地、性別など、本人の能力や成果とは関係のないものも大きかったのが現実です。

 

同じフルタイムの正社員でも女性の方が平均3割ほど賃金が低いというデータもありますし、同じ人が同じ職種でも、東京から地方に移り住んで転職すると給料が下がることもよくあります。大手企業などでは転勤ができる人は給料が高いけど、転勤できない人は給料が安かったり、キャリアが限定されたりするわけです。

 

つまり、正社員で、フルタイムで、大都市圏在住で、男性であるということが「普通」であるという前提ができてしまっていたというのが否定できない現状です。

 

──能力に関係なく、条件で評価されるのは納得できない人も多いと思います。特に育休の取得や時短勤務によって肩身の狭い思いをする女性はこれまでにも多くいました。

 

石倉さん:

多くの男性は、本当に無意識に、悪気も無く、ライフイベントによって働き方を変えるのは女性だと思っているのだと思います。なぜなら、これまで会社の制度を決めたり、意思決定をしてきたのは男性、とりわけ中高年世代が多く、週5・フルタイム・正社員が当たり前で、自分がそのレールの外側になったことがないから、シンプルにわからないのです。

 

多くの人が「うちの会社だって女性の育休復帰率も高いし、時短もあるし、リモートワークもできるし、子育てしながらでも働けるからいいでしょ」と思っていると思うんです。

 

でも、そうじゃないですよね。働けるのはいいけど、どうしてキャリアを諦めなくちゃいけなかったり、給与が下がってしまうのか、そしてどうして女性が働き方を変えることが当たり前なのか、そこを疑問に思わないことが問題なわけです。

 

──キャスターは女性が9割の会社と聞きましたが、やはりリモートワークやフレックスなど、家庭と仕事の両立を考える女性にとって魅力的な環境が整っていることが要因にあるのでしょうか。

 

石倉さん:

当社は応募の時点で9割が女性です。志望理由は様々で、場所を問わず働くことで自分が望むキャリアを築きたいとか、趣味や副業などと両立したい、子育てしながらフルタイムで働きたいなど、やりたいことを諦めないための選択として選んでいる方が多い印象です。あとは、単純に満員電車が苦手という人もいます。

 

人それぞれですが、夫の転勤や子育てを理由にあげる人たちの話を聞いていると、社会的には、やはり女性が仕事を辞めてキャリアを変えるという前提に立っていることが多いと感じています。妻の転勤のために夫が転職するとか、子どもが生まれたから夫が時短勤務に変えたという話はほとんど聞きません。これは社会構造としてどうなのかな、と思うんです。

 

もちろんこうしたことは夫婦の役割分担の話ですから、どういうバランスだろうと、その夫婦間でよければいいのですが、自分がリモートワークや時短勤務に変えようと思う男性があまりにも少ないと思うんですよね。実際、男性に当社の働き方について話すと、「いい会社ですね。妻に勧めたいです」と返ってくることが多いんです。でも、本当にいいと思うなら、奥さんに勧める前に自分が働き方を変えればいいのにと思ってしまいます。

 

女性がリモートワークになって通勤時間をなくすことができても、家事や育児の負担が減るわけではありません。男性もリモートワークや時短ができれば、家にいられる時間も増えて、家事育児の分担や、夫婦の時間の過ごし方を変えられますよね。

 

しかし、意外と男性側に選択肢がないんです。これこそが今の社会の闇なのではないかと思うのです。

 

──男性の育児休暇取得やリモートワークが導入されるなど、以前よりは変わってきているのかと思っていました。従業員からのボトムアップで会社の制度が変わったという話も聞きます。

 

石倉さん:

確かに変わってきていると思いますが、それはまだ一部の企業でのこと。いまだに変わらない会社のほうが多いと思います。男性の育休といっても1か月くらいだとちょっと長い有給みたいなものですし、育休を取りたいと言ったら会社から微妙な雰囲気を出されたという話も聞きます。そのあと男性で時短勤務になる人もほとんどいません。いたとしても肩身の狭い思いをしたり、就きたいキャリアに就けなくなるという話もいまだによく耳にします。

 

今の世の中、「普通以外」を認める選択肢は増えてきていると思いますし、今後も少しずつ増えていくと思います。増えていかないと他社にいい人材をとられてしまうということが背景にあるからです。でも、あくまでも「普通」が主で、それ以外の働き方は福利厚生みたいな扱いになっていると思うんです。結局、「普通」の人たちと同列には並んでいないということです。

 

女性の社会進出や、女性の働き方を多様にすると言われていますが、同じく男性の働き方も多様にならないと社会的には変わりません。ですから、次の段階としては、男性の働き方の選択肢が増えて、「普通以外」の選択をとったことが不利にならないとか、「普通」と「普通以外」という扱いがなくなるかどうかが鍵だと思っています。

「働き方」と「キャリアプラン」は分離すべき

──次の段階に進むためには何が必要だと思いますか?

 

石倉さん:

「普通以外」の選択をしたときに、出世コースから外れるとか、給与が上がらなくなるとか、そういう状況だとなかなか働き方を変えることはできませんよね。このように、「働き方」と「キャリアプラン」がセットになっていることがよくないと思っています。この2つは分離するべきです。

 

本来であれば、社員でも契約社員でも、フルタイムでも時短勤務でも、同じ成果を出しているなら同じ給与でいいと思うのです。今後、企業でそういう議論が進むかどうかが重要なのだと思います。

 

経営者は8時間働いてもらうことが目的で会社をやっているわけではないし、そのポジションがあるわけでもありません。時短勤務でも、求めるポジションを満たす能力があって、求める成果を出せるのであればそれでいいのです。キャスターではそういう前提でやっています。

 

現在、日本の企業の多くは「メンバーシップ型」という、個人の役割などの諸条件を限定せずに人材を採用するやり方をとっています。評価するためには、目標や予算という評価基準が必要なのですが、それを定めていないケースも見受けられます。仕事ができるとか、成果を出しているということと関係ないことで評価が決まってしまうことがあるのです。

 

自分の仕事の目標が明確にわかっていたら、達成できても未達でもその結果に納得がいきますよね。でも、何をどこまでどう頑張れば評価されるのかわからないけど、頑張らなければならない。それが大変なんです。中には上司が「あの人は頑張ってた」「あの人は扱いやすい」などと思うかどうかで決まってしまうケースもあります。成果を出しているのに上司に好かれていないから評価されないというのはおかしいですよね。

 

 

夫婦共働きが増える中、女性の働き方に注目が集まりがちですが、男性の働き方が多様化し、どんな働き方を選択したとしても成果に対して正当に評価される世の中にならないと、結局は女性の働きにくさや、家事・育児の負担がのしかかる今の状況は変わらない。取材を通して、そのことがよくわかりました。 次回は、誰もが正当な評価を得るためにはどうすればいいか、そして、これからの時代の働き方について引き続き石倉さんに伺います。

 

PROFILE 石倉秀明さん

株式会社キャスター取締役COO。2005年、株式会社リクルートHRマーケティングに入社。2009年に当時5名の株式会社リブセンスに転職し、入社から3年半で東証マザーズ上場に貢献。その後、DeNAにて営業責任者、新規事業、採用担当を経て個人事業主として独立。2016年10月、株式会社キャスター取締役COOに就任。著書に『コミュ力なんていらないー人間関係がラクになる空気を読まない仕事術』『会社には行かないー6年やってわかった普通の人こそ評価されるリモートワークという働き方』がある。

 

取材・文/田川志乃