みなさんは法律について、どのくらい知っていますか?

 

法律は、ざっくり言ってしまえば「国民が守るべき決まりやルール」です。知っていれば、目の前で起きていることが「当たり前」なのか「法律違反」なのか考えることができますよね。

 

実際に訴訟や裁判を起こすケースは少なくても、知識はきっとあなたの力になってくれます。

 

ママにとって身近な”モヤモヤ”に関する法律を、女性のための法律書『おとめ六法』著者で弁護士の上谷さくらさんに教えていただきます。

宿題ができるまでご飯なし、のルールは虐待になる?

中学受験を控える小学校5〜6年生の子どもたちは、学校だけでなく、塾の宿題もたくさん課されますよね。

 

けれど宿題があるのに遊びに行ってしまったり、集中できなくて時間がかかりすぎたりする子どもを見ると、親としてはヤキモキしてしまいます。

 

塾代だってかかっているのだから、きちんと宿題には取り組んでほしいし、何より中学受験に向けて頑張ってほしい。

 

そんな気持ちから、つい「宿題ができるまでご飯はなしだよ!」などと、親が厳しいルールを決めてしまうこともあるのではないでしょうか。

 

でも「食事を与えない」のは虐待に当たってしまうような気も…。法律ではどう解釈されるのか、上谷さんに聞きました。

【児童虐待防止法第2条】発達を妨げる減食は虐待行為

最近は「教育虐待」という言葉もありますね。中学受験は「親の受験である」などと言われ、親へのプレッシャーも強まっています。子どもが宿題をしないと「塾の勉強についていかれないのでは」「宿題くらいできないと受験しても受からないのでは」と心配になってしまいますよね。

 

民法第820条では、親は子どもの利益のために、子どもの監護をし、教育をする権利があり、義務ともされています。「子どもの利益のために」という言葉は、児童虐待防止と児童の権利利益を擁護する観点から2011年に追加されました。これは、親が好き勝手に子どもを支配してはいけないということです。

 

食事をさせないことについては、児童虐待防止法第2条第1項3号に「児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食」は虐待行為であると定義されています。

 

著しい減食はしないにしても、仮に子どもが「おなかがすいた」と言っているのに、宿題が終わるまで絶対に食べさせない、というのは問題ではありますよね。

 

宿題はやったほうがいいというのはわかりますが、「帰ってから必ず3時間勉強しなさい」「22時までご飯抜きだ」などと親が一方的にルールを決めて、子どもが嫌がるのに無理やりさせるというのは、虐待になる可能性があります。

子ども自身が納得できる話し合いを

勉強がイヤで宿題が進まないのであれば、受験自体を見直してもいいかもしれませんが、お子さんが受験に同意しているのならば、お母さんとしては、協力したい、頑張ってほしいと思うでしょう。

 

しかし、中学受験をする小学校6年生といえば育ちざかりですし、勉強は意外とおなかがすくものです。空腹すぎても集中はできないですよね。

 

もし、食事が勉強や宿題の集中を途切れさせてしまうようなら、「おにぎり1個などの軽食で済ませ、宿題が終わったらしっかり食べよう」「夜できないなら、朝起きてやろう」という方法を話し合って決めるといいでしょう。

 

「子どものため」とお母さんが一生懸命になる気持ちはわかります。でも、実際に受験をするのも、塾の宿題をするのも、子ども自身です。過度なプレッシャーは虐待になりえます。どうして集中できないのか、どうしたらできそうか、子どもの気持ちをよく聞いて、子ども自身が納得できる方法を話し合うことが一番だと思います。

<児童虐待?しつけ?と思ったら確認したい法律>

児童虐待の防止等に関する法律第2条【児童虐待の定義】

この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。


1.児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。


2.児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。


3.児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。


4.児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

PROFILE 上谷さくら(かみたに・さくら)さん

上谷さくら
弁護士(第一東京弁護士会所属)。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。保護司。2020年5月に著書『おとめ六法』(KADOKAWA)を出版。

取材・文/早川奈緒子  イラスト/佐久間薫