コロナ時代を前向きに生き抜くための働き方、キャリアプランの描き方について、大阪大学大学院准教授の中川功一先生に聞きました。
PROFILE 中川功一さん
2020年以降は「レジリエンス」の時代になる
──テレワークに代表されるように、2020年は新型コロナによって働き方の変化を余儀なくされました。中川さんはその変化をどう捉えているでしょうか?
中川さん:
私は個人の働き方も組織のあり方も、「レジリエンス」が重要なキーワードになると感じましたね。レジリエンスとは「危機からの復元力・進化能力」を意味します。もっと簡単に言えば、困難な状況を乗り越える力、立ち直る力と解釈できます。
さて、突然ですがみなさんは経済と経営の違いをご存じでしょうか?この2つの違いを考えることって、普段の生活の中では意外とないかもしれませんね。
経済は「経世済民」、つまり世の中の動きを理解し、人々をより幸せな方向に導くことを意味しています。一方、経営は「経」=線を引く、「営」=仕組みを整える、つまり向かうべき道を定め、そのための場を築くことを意味しているんです。つまり、どちらもお金を回す活動であるという点では同じです。
ただ、お金を回すことはあくまで手段のひとつに過ぎません。経済も経営も、お金の動きや組織の仕組みなどを整えることを通じて「人々がよりよく生きられる社会を構築する」ことこそを目的にしています。
──いずれも「お金を回す」ことが目的のように思ってしまいますが、本当はお金を回した先にあるものが目的なのですね。
中川さん:
そうなんです。コロナ禍においては「経済を優先すべきか、人命を優先すべきか」という二者択一の議論が頻繁になされました。でも「経済」がなんなのかがわかると、これは極めてナンセンスな話だということに気がつきます。人命も守り、経済も回す。どちらか一方ではなく両立することを目指すべきなのです。
経営も同じ。コロナ時代の経営に求められるのは、働く人の命と健康、人生の幸福を保障する十分な仕組みを整備しながら、社会に価値ある製品・サービスを提供していくことです。そのためには、個人も組織もレジリエンスが欠かせない。そう意味で、テレワークはレジリエンスの手段のひとつになるでしょうね。
──コロナという危機を正しく受け止め、対応していく力が問われるわけですね。
中川さん:
そうです。これまでは個人も組織も、競争力を高めることに重点が置かれました。効率的なビジネスに専念したり、他社より1円でも安い価格を追求したりして、高いパフォーマンスを上げてきた。でも、それができたのは事業環境が盤石だったからです。コロナによって様変わりした不確実な事業環境では、競争力一辺倒の考え方は通用しません。何が起こるかわからない状況でも、安定したパフォーマンスを上げることに重点を切り替えなければならない。そこでレジリエンスを高める必要性が出てきたわけです。
このことは、2020年4月の緊急事態宣言中に行った「緊急事態組織調査」により実証研究で明らかになっています。314社の企業データをもとに、コロナ期の対策で事業や業績にプラス・マイナスの影響を与えた要因を調べたものです。
結論からいえば、早期のテレワーク導入などレジリエンスが高い組織ほどコロナによるマイナスの影響は低く、安定した業績を上げていることがわかりました。また、レジリエンスが高い組織ほど働き手のストレスは緩和され、コミュニケーショントラブルが少ないこともわかりました。
コロナ時代の終わりはまだ見えません。いまアフターコロナを語るのは時期尚早だと私は考えています。したがって、しばらく続くであろうコロナ時代に備え、組織はレジリエンスを高める体制づくりが不可欠となり、個人はレジリエンスを高める働き方をする必要があるのです。