副業や複業を認める企業が増え、ノマドワーカーのような場所に縛られない働き方や、二つ以上の肩書きを持つパラレルキャリアの働き方が、この数年で増えてきました。このような多様な働き方を可能にした背景には、どのような社会の変化が影響しているのか、また今後の働き方はどのように進化していくのかについて、ノマドワーカーの先駆けとして、独自のライフ&ワークスタイルを築き上げた安藤美冬さんに伺いました。

 

コロナをきっかけに、場所にとらわれないノマドワークの働き方がより身近な存在に

 

——2011年の独立当時、まだ「ノマドワーカー」は馴染みない存在だったと思います。この9年間でどのような変化を感じていますか?

 

安藤さん:

企業に勤めている会社員の方々は、基本的に「出社が義務」でしたが、コロナ禍で在宅勤務やテレワークが推奨され、より「場所に縛られない働き方」を身近に感じつつあると思います。

 

2012年頃からノマドワーカーが増え、それに伴いコワーキングスペースもかなり増えてきましたが、会社員の方からすると、どこか他人事として捉えていた方も少なくなかったと思うんです。それが今、実際にパソコンを持って外で仕事をしてみたことで、「会社にいなくても仕事ってできるんだ」と実感できている人は増えているはずです。

 

——ノマドワークという働き方を選択する人の年代に偏りは見られますか?

 

安藤さん:

20代の若い方はもちろんですが、3040代の子育て世代も多いと思います。私の知り合いでも、子連れで地方移住をした人もいて場所を選ばなくても仕事ができるようになってきて、「脱東京」の意識を持っている人もかなり多いのではないでしょうか。

 

コワーキングスペースなどの働く環境が充実しているのは今や都心部だけではありません。地方都市でも同様で、ランドマークになるようなビルにコワーキングスペースが併設されたり、徳島県神山町のように、自然あふれる地域の古民家を改装してIT企業などの誘致に取り組んだりしている自治体も目立ってきています。

 

——どこでも仕事ができるのであれば、自分や家族が心地よく思える環境を探して地方へ移住される方も増えていくのでしょうね。

 

安藤さん:

それが人間として自然な反応ですよね。人って本能的に一つのところに押し込められたり、一つの仕事をずっと続けたりすることに拒否反応を覚えると思うんです。たとえば、都心の高層ビルに固定のデスクがあって、毎日同じメンバーで仕事をし続けることは、生物学的にも、コスト的にも異常だし、不自然。それに社会全体が気付いてきたように思います。

 

日本人は農耕民族と言われますが、さらに遡れば、狩猟民族として狩りをしていた時もあって。何かを探しに外に出かけることが生活の一部だったんですよね。外に出て何かを探したり、動き回ったりすることって、人間本来の姿であって、ありのままの本能につながっていると思います。

 

——フリーアドレス制のオフィスや副業、複業OKの企業も増えてきて、会社勤めでもより自由度の高い働き方が認められるようになってきましたね。

 

安藤さん:

そもそも、なぜ席を固定する必要があったのか、なぜ他の仕事をすることがダメと制限されていたのか。秩序を守るという観点では管理のしやすさはあったかもしれません。でもそれで効率が良くなるか、生産性が上がるのかと問われれば、私はそうは思わない。柔軟性を持った働き方の方がより働く人たちの幸せ感が高まり、結果仕事への意欲が増して、生産性は高まる気がします。