外国人の夫・トニーさん、中学生のトニーニョくん(15歳)と3人で暮らす漫画家の小栗左多里さん。

 

夫婦で子育てをしていくなかで「異文化で育った者同士はどうやったら折り合えるのか?」と試行錯誤した経験から、考えたことを語っていただきました。

 

今回は、ベルリンでトニーニョくんの友達の家に招かれた時のお話。その時にさりげなく出された夕食が拍子抜けするほどカジュアルで、これでいいんだとホッとしたそうです。

「夕食って、これでいいんだ」と気がラクになった、ある秋の出来事

小学校に入った息子に、仲良しの子ができて、その家に招かれた時のこと。

 

共働きの両親と、その子と妹の4人家族。遊びに行った時は、私たちがベルリンで初めての冬を迎える前で、パパとママは「寒さ対策にはこういう服を着せて」と具体的に教えてくれたり、お互いの職業についてなどいろんな話をした(私はトニーに訳してもらいながら)。子供達は仲良く遊んで、私も一緒に絵を描いたりした。

 

息子の友達のパパがサッと作ってくれたパスタに感動

午後に行ったから、あっという間に夕方になった。するとパパがさらっと席を離れ、30分くらいしたら2つのボウルを抱えて戻ってきた。一つは赤、もう一つには白いパスタが入っている。赤は子供たち用のトマトソースがかかっているパスタで、白はチーズで和えられたもの。勧められて、チーズの方を食べた。「めちゃくちゃおいしい!」。するとママが「そうでしょ?これは彼の得意料理なの」。パパは「僕の母はとっても料理が上手で、これも彼女に習ったんだ」。なんでも2種類のチーズを使うそうで、本当は3回くらい余裕でおかわりできたけど、大人テーブルに属する端くれとして一人当たりの量を割り出し、2回にした。

 

 

この時のこと、私は結構はっきり覚えている。作ってくれたのがパパだったということもある。しかし何より夕飯がそのパスタのみだったからだ。サラダもスープもなく、文字通りの一皿。もし日本で友達一家を迎えるなら、テーブルいっぱいの料理を用意するだろう。ベルリンでも、そうやってもてなされる場合もあるし、もちろんそれも嬉しい。

 

だけど私には「そうか、ご飯はこれでもいいんだ」っていう実感が大きかった。大事なのは量の多少ではなくて、その場が楽しいかどうか。子供たちを見てると顕著だけど、ご飯はなんだってよくて、ただもっと遊びたいって時が多い。大人もそういうことがあっていいんだと思う。誰かと話している、その時間を大切にするっていうような。

 

「何を食べるか」より、「どんな時間を過ごしたか」

思えばドイツは日本のように「夕飯が一番豪華」じゃない文化、というのもあるかもしれない。パンとハムやチーズといった簡単な食事で済ませることも多い。そういえば二人ともドイツ生まれではないけど、ママはドイツで育ち、パパも長く住んでいるからその感覚が根付いていると思う。

 

いずれにしても、気がラクになった。頑張りすぎなければ、気軽に会える。実際ベルリンは、家に招いたり招かれたりが日本より多いと感じる。適当な感じで何度も会った方が、思い出も増えるじゃないか。とはいえ、あのチーズパスタがおいしかったから満足したような気がしないでもない。ああ、いつかもう一度食べて確認したいなあ。

 

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文・イラスト/小栗左多里