2020年10月、文部科学大臣は、「高等専門学校」通称「高専」についてのインタビューに答えて、
「大卒よりも即戦力である高専卒の給与水準を、大卒と同じ水準にするよう、いや、むしろ逆でもいいくらいだと産業界に働きかけていきたい」
と語りました。
CHANTO世代ではお子さんがまだ園児や小学生というママ・パパも多いことでしょう。
わが子の将来の進路として「高専ってなに?」「何歳から何歳まで?」などと疑問に思う人もいるかもしれません。
そこで今回の記事では「高専」についての基本的な知識と、「高専卒を大卒並みの給与に」という報道の内容、どんなお子さんにおすすめか…などを解説します。
「高専=高等専門学校」の基礎知識
まずは、「高専ってなに?」という疑問からお答えしていきます。
そもそも「高専」とは
「高専」の正式名称は「高等専門学校」。
1962年(昭和37年)に初めて開校され、2022年には60周年を迎えます。
現在、全国には国公立・私立合わせて57校(平成28年度)の高専があり、約6万人の学生が将来に向けてものづくりやロボット・IT・商船など、理工系の分野中心に専門技術を学んでいます。
文部科学省のサイトにある、高専の特徴は以下のようなもの。
・特色1 5年一貫教育
・特色2 実験・実習を重視した専門教育
・特色3 ロボットコンテスト、プログラミングコンテスト、デザインコンペティション等の全国大会開催
・特色4 卒業生には産業界からの高い評価
・特色5 卒業後、更に高度な技術教育を受けるための専攻科(2年間)を設置
高専と似た名前の学校に、「専門学校」「高等専修学校」「専修学校」「テクノカレッジ(高等技術専門学校)」などがありますが、いずれも別のもの。
専門学校は基本的に高校卒業後、その他は就職のため技術を身につけたい人のための学校で社会人を含めさまざまな年代の人が在籍しています。
高専は何歳から何歳まで通う?
高専に入るには、一般の高校と同様、中学3年時に受験することになります。
ただ高校と違って5年間通うのが大きな特徴。
卒業時の年齢は20歳となります。
学習内容は高校とどう違う?
高専のカリキュラムは普通科の高校と比べるとかなり専門的です。
1年生時から専門的な教科を履修し、毎週のようにレポート提出や実技・実習があります。
入学時の偏差値も65以上と公立トップ高校なみ。
また一般の高校では、追試や落第の原因となる定期テストの「赤点」は30~40点程度のことが多いですが、高専では50~60点が大部分で、卒業まで高い学力を維持することが求められます。
そのかいあってか、就職希望者の就職率は毎年ほぼ100%だそう。
卒業時点で、メーカーや建設などの設計に欠かせない「CAD」が使えたり、科学英語をマスターしているなど、企業で働くにあたって即戦力となる技術・知識が身についていることも、高い就職率の理由となっています。
高専のメリット・デメリット
高専のメリットとデメリットには次のようなものがあります。
メリット:
高専では、最初の3年間は公立高校と同様、世帯年収や子どもの人数に応じて高等学校等就学支援金が支給され、年間0円~11万5800円、高所得世帯でも年間23万4600円の授業料です。
大学1~2年生に相当する高専の4~5年生、その上の専攻科(2年間)でも、支援金などの制度で学費が抑えられることも多く、高校から4年生大学に進学した場合と比べ、最大で400万円もの差がつくケースも。
また、5年で卒業して就職した場合、20歳から収入を得始めることになり、子育てや老後資金作りにも余裕が見込めます。
就職時には学校推薦で採用されることが多いため、所属学科に関連した企業へ就職しやすいのもメリットの1つ。
デメリット:
いっぽう、高専はよくも悪くも学びの方向性がはっきりしています。
入学時点で将来就きたい職業や業種がはっきりしている子には良いですが、なんとなく理数が得意だから…と、やりたいことが定まらないまま入学してしまうと、就職時に業種や職種が限定され、選択肢が狭まる可能性もあります。
また、高校生と異なり大学受験がないまま5年間過ごすため、努力を怠っていると能力差がより開きがちな面もあるかもしれません。
高専は一般の高校よりも数が少ないため、通学圏内にない場合は寮に入ることとなり、15歳で親元を離れる子も出てきます。
こうしたメリット・デメリットを考え合わせ、高専を5年で卒業した後に大学の3年次へ編入し「大卒」として就職する人が約半数に達するそうです。
文部科学大臣が「大卒と同じかそれ以上の給与を」と産業界に要求
先般、萩生田文部科学相がインタビューに対し「産業界へ高専卒給与を大卒並みにするよう呼びかけたい」と話した背景には、学歴によって給与や昇給が大きく左右される現在の日本の雇用制度があります。
現在、多くの企業では、給与の基準は
- 大卒
- 短大卒
- 専門学校卒
- 高専卒
- 高卒
などによって分けられています。
採用時の年齢がそれぞれ違うため初任給の金額が異なるのはともかく、その後の昇給率も違ったり、そもそも大卒でないと就けない役職があったりするため、最終的な年収や生涯年収は最終学歴で大きく変わってしまう会社が少なくありません。
SNSでは、
「大卒と高専卒では、同じレベルの仕事をしていて、同年齢でも月収が約2万円ほど違う」
「どんなに優秀な人でも、役職クラスでは高専卒は制限されている」
「現場レベルの担当者は高専卒の優秀さが分かっていても、役員に大卒が優秀という固定観念があり、採用や給与面で不利になることも」
といった書き込みも見られました。
そこで文科相は、高専卒の学生がもっと活躍できるよう、
「各地で、企業の減税などを整え。高専生が地元で働けるような魅力的な環境を整備。給与待遇も大卒かそれ以上にしてもらいたい」
と発言したというわけです。
高専卒の給与面の課題
たしかに、高専卒の人たちの待遇改善は1日も早くおこなってほしいですが、それ以前に、長年全国の初任給が上がっていないことも問題です。
2003年の大卒初任給の平均は201,300円。
対して2020年は210,200円と、17年経っても900円しか増えていません。
しかし、まだ少数ではありますが、日本でも「能力給」「同一労働同一賃金」「マイスター制度」などを取り入れる企業も少しずつ現れています。
「マイスター制度」とは熟練の技術職を対象にしたドイツ発祥の職業能力認定制度で、日本でも、採用している企業では取得すると手当や報酬等級が上がったり、講習会で社内外に技術を教えて報酬を得たりできるそうです。
高専卒だけではなく、学歴にかかわらず、優秀な人材にはそれに応じて昇給するような制度を適切に導入すれば、採用時の学歴でその後の収入が全て決まるような仕組みを回避できるかもしれません。
工作好き、ゲーム好き…うちの子は高専に向いてる?
ここまで読んできて、
「専門的な技術が学べて、就職に有利なら良いかも?」
「大卒と同じレベルの給与なら検討したい」
「しかも学費も安いのはうれしい」
など、わが子の進路として高専が気になっている人もいるかもしれません。
では、高専はどんなお子さんに向いているといえるでしょうか?
基本的に、高専ではコースが分かれており、通常の高校で学ぶ内容以外に
- 機械系
- 材料系
- 電気・電子系
- 情報系
- 化学系
- 生物系
- 建設系
- 建築系
- 商船系
など、将来進みたい分野に特化した授業が一定数含まれています。
つまり、比較的早い段階で、将来の夢が
「車や電車を設計したい」 「ロボットを動かしたい」 「薬の研究開発で病気の人を助けたい」
などはっきりしていると、学科を選びやすく、入学後のミスマッチも最小限で済みそうです。
特に小さい頃から工作が好きな子なら機械や電気などものづくり系のコースで学んだり、虫や動物が好きなら生物系、「この子はゲームばかりして困るわ」と思っていても、ITやプログラミングで才能を発揮するかもしれません。
もちろん、将来の夢が決まっていなければダメということではありません。
一般的な高校→大学と進学しても、進みたい分野の知識を身につけることはできますが、お子さんが小さいうちから高専という選択肢があることを知っておいて損はないといえるでしょう。
高専卒という選択肢を知り選択肢を広げよう
2020年は、テレワークの普及で成果主義的な働き方を採用する職場が増えてきたといわれています。
初任給や昇給も、これからは「どんな学校を卒業したか」ではなく「この人は何ができるのか」が重視されていく時代になる可能性は十分あります。
子どもたちの学びの種類が1つだけではなく、柔軟な学び方、働き方が増えていくと良いですね。
文/高谷みえこ
独立行政法人国立高等専門学校機構「KOSEN」2020年度パンフレット https://www.kosen-k.go.jp/Portals/0/resources/letter/kouhou/gaiyou2020.pdf#page=17
日本経済新聞電子版|文科大臣「高専卒給与を大卒並みに」産業界に要望 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65566850Y0A021C2X12000/?n_cid=SNSTW005