外国人の夫・トニーさん、中学生のトニーニョくん(15歳)と3人で暮らす漫画家の小栗左多里さん。

 

夫婦で子育てをしていくなかで「異文化で育った者同士はどうやったら折り合えるのか?」と試行錯誤した経験から、考えたことを語っていただきました。

 

今回のテーマは、「ベルリンの日本語補習校の運動会」について。日本では「運動会嫌だな…」なんて子もいるものですが、ベルリンでは学校を休みがちな子でも行きたくなるような楽しいイベントなのだとか!いったいどんな運動会なのでしょう?

運動が苦手でも行きたくなる運動会って、最高だと思う

日本語補習校の運動会の朝は、なぜか毎年曇り空である。

 

開催されるのは初夏で、ベルリンは湿度が低くてとてもいい季節。けれど大抵、グレーの空と天気予報を睨みつつ、「やるのかやらんのか」という連絡がくるのかこんのか、ドキドキしながらお昼の支度をすることになる。

 

会場は、申し込んで借りる大きなグラウンドの一角にある空間で、芝生の周りをなんとなく大きな木が何本か囲んでいて公園のようだ。ここに幼稚部から高校生までと、その家族が集まる。幼稚部は何十人もいるけど、中学・高校ともなると1学年多くて5〜6人なので、子供の総数は百何十人か。事前に休むと言っても怒られないし、逆に休学中の子もやめた子も、他の学校の子も言えば参加できる。

 

ダンスを披露する幼稚部以外、練習はナシ。何しろ、会場へ着いたらまずハチマキが配られるのだけど、その時初めて自分が赤組か白組かを知るのだ。「はいトニーニョくん、白ねー」と先生が手渡してくれる。服装も「運動しやすい服」という規定のみ。トニーニョにとって最後の運動会は、上はメジャーリーグの人気チーム・シアトルマリナーズのユニフォーム、下は短パンにした。全体的に紺色である。他の子も色味はバラバラでにぎやか。

 

競技の中身も日本とはちょっと違う!?

競技は「障害物競走」「綱引き」「目隠しリレー」など、楽しいものが中心。多くは小学校低学年、高学年、中高生とグループをわけて、それぞれ勝敗を決める。「綱引き」は大人の対決もあるけど、点数は入らない。といっても真剣勝負なので、やはり力のあるパパもしくはおじいちゃんを、まずどれだけ競技に引っ張ってこれるかが勝負。

 

私のお気に入りは「玉入れ」で、競技するのは幼稚部と小学校低学年、そしてカゴは中学生か高校生が頭に乗せるというのがたまらない。ちびっこたちはうまく狙えない&懸命というコラボで、至近距離から力の限り投げまくる。それに耐える中高生の姿が可愛すぎるのだ。トニーニョもこの日初めてカゴとなった。「玉が柔らかいからそれほど痛くないよ」とは、我が息子ながら、さすがメジャーリーガーである。

 

 

お昼は家族単位でお弁当か、恒例のビュッフェを選ぶ。ビュッフェなら、朝1品だけ作ってくればいいので、こちらを選ぶ家庭が多い。事前に「ご飯系」「おかず系」「デザート系」のどれにするか決めてもらい、必要があれば調整する。当日は小さい子(とその親)から、中高生、最後の大人まででだいたいのグループ分けをして順番に取っていく。やや少なかったり料理がかぶったりと内容の予測は難しいけれど、おいしいものが多くてみんなの楽しみになっている。

 

最後は「リレー」。まず走るのは大人グループで、点数にはならないけど参加者は結構いる。「まあ無理せず、楽しくやりましょう!筋肉痛になっちゃうしねぇ」なんて笑いながら、果たしてピストルの音がした瞬間、形相変わってマジ走りするのもお約束。そして全力すぎてカーブを曲がりきれず転がる者が必ず出る。そのあと小学校低学年、高学年、最後は中高生。紅白の人数が合わなければ、速い子がもう1回走る。男女一緒で、抜いたり抜かれたり、やっぱりこのリレーが一番盛り上がる。そして、この年優勝したのは赤組だった。

 

運動会が誰にとっても楽しい経験になるって素敵なこと

なごやかで、普段会えない人とおしゃべりして、「ピクニック(運動付き)」みたいな1日。先生方は準備から大変だし、親も道具を車で運び出したり競技の係を手伝ったりとそれなりに働くけれど、初めて参加した時は「運動会って、こんなにゆるくもできるんだ!」と驚いた。それは生徒の人数のおかげかもしれないし、ベルリンだからかもしれない。だけどなんでもビシッとやりがちな日本人なのに、「これでいいって切り替えればいいだけ」なんだと実感した。

 

ベルリンの日本語補習校は普段、平日の放課後に設定されているので、時々は疲れて休んでしまう子もいる。そんな足が遠のいた子も「運動会には行こうかな」ってやってきて、やっぱり楽しくて友達とじゃれあったりしていた。運動会として、十分じゃない?って思う。

 

14時すぎに全部が終わって、さあ帰ろうと家族で歩いていたら、「トニーニョくーん!」と声がする。振り返ったら、先生が「ごめーん、ハチマキ配る時間違えちゃって、トニーニョくん本当は赤組だった!」。あらー、じゃあ勝つ経験できたとこだったなぁ…残念!うん、でもね、これでいい。

 

 

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文・イラスト/小栗左多里