小学生の教科書・ノートの記名欄や授業のノート・プリント類を見ると、ひらがなと漢字が混在した独特の表記になっていることがあります。

 

これは多くの小学校に「まだ国語の授業で習っていない漢字はひらがなで書きましょう」というルールがあるためです。

 

でも、すでにその漢字が書ける子や、自分の氏名までわざわざひらがなで書かないといけないの?と疑問に思う人もいるのではないでしょうか。

 

今回は、このルールはなぜ存在するのか、いま小学校ではどこまで「習っていない漢字は使わない」と指導されているのか、現役の小学生ママ・パパの声もあわせて紹介します。

 

習っていない漢字を使うと訂正される?

いまの子どもたちは情報を映像や動画で得ることが多く、漢字に触れる機会はずいぶん減ったといわれます。

 

とはいえ、本や新聞・時にはコミックなどから、まだ学校で習っていない漢字を読み書きできるようになる子もいるでしょう。

 

幅広い年代が受験する「漢検(日本漢字能力検定)」は、2019年には10級(小学1年生レベル)~5級(小学6年生レベル)を全国で34万人が受験していますが、その中には園児や学年相当より上の級を受験する子もいます。

 

しかし学校では、作文や日記などにその学年までに習っていない漢字を使うと、赤で「ひらがなで書きましょう」と修正される小学校が少なくありません。

 

「いの上」「小ざわ」…不思議な書道作品の名前

授業参観の日、教室の後ろや廊下に書道の毛筆作品が展示されていることがありますよね。

 

通常、半紙の左側にその子の名前を書きますが、見ると「3年 いの上友と」などのようにひらがな混じりで書かれていて、一瞬、本当の名前はどう読むのか分からないことも。

 

この子が「井上友斗(いのうえ ゆうと)」くんだとすると、現在の学習指導要領では、

 

  • 上…1年生で習う
  • 友…2年生で習う
  • 井…4年生で習う
  • 斗…中学校で習う

 

となっているため、3学年ではまだ習わない「井」と「斗」はひらがなで書きましょう、と決められていることが多いそうです。

 

「澤」や「濱」など、人の姓にはしばしば使われるけれど常用漢字でないものについては、そもそも小学校で習わないため、高学年になっても「小ざわ美結」「はま田陸」のように書かなければいけない場合も出てきます。

 

作文やプリントなどはともかく、自分の名前くらい漢字で書かせてほしいと思う子もいるでしょう。

 

習っていない漢字を禁止する理由

もし、習っていない漢字を子どもが使うとなにか問題や弊害があるのでしょうか?

 

もっとも大きな理由としては、「その字をまだ読めない子が困る」というものがあります。

 

先生が丸つけを終えたノートやドリルを係の子が1人1人に返すとき、小学生には難解な漢字の名前だと「せんせーい、これ誰の?」と頻繁に聞きにいくことになります。

 

また、全員の作文やプリントを教室に掲示し、他の子の作品を見て参考にするのも学習の一環ですが、漢字が難しくて読めないと学びの妨げになるという意見もあります。

 

班での学習発表などでAさんが資料を作りBさんが読み上げるような場合は、習っていない漢字を使うと、発表時に読めない可能性も。

 

ただ、上記の多くは「ふりがなをつける」などの対応で回避できるため、絶対的な理由とはいえないでしょう。

 

実際、平成23年から施行されている学習指導要領にも、以下のように、柔軟に対応してよい旨の表記があります。

 

(ア) 学年ごとに配当されている漢字は、児童の学習負担に配慮しつつ、必要に応じて、当該学年以前の学年又は当該学年以降の学年において指導することもできること。 (イ) 当該学年より後の学年に配当されている漢字及びそれ以外の漢字については、振り仮名を付けるなど、児童の学習負担に配慮しつつ提示することができること。

 

と、「絶対に学年が前後してはダメ!」ということは書いてありません。

 

しかし実際にお子さんが小学校に通っているママ・パパの体験談を聞いてみると、禁止の理由として次のような説明を受けた人もいるそうです。

 

「見た目では書けているとしても、書き順やとめ・はね・はらいなどがきっちりできていないことがあり、間違って定着するとよくないから…ということでした」(Hさん・37歳・3年生のママ)

 

「下の子がけっこう早くから漢字に興味があり、お兄ちゃんのドリルやタブレットで練習していました。小学校に入って、プリントなどにふつうに知っている漢字で書いたら、他の子が悲しくなっちゃうからやめようねといわれたそうです」(Kさん・40歳・5年生と2年生のママ)

 

正しい書き順など「本人のため」と、クラス内で学力差をつけないほうが望ましいという「全体のため」、両方の理由があるようです。

 

なかには、

 

「夏休みの自由研究をがんばってまとめたのですが、先生から習っていない漢字が含まれているからコンクールに出さなかったと言われてがっかり。子どもはなぜダメなのかを聞きにいったそうですが、昔からそう決まってるとしか答えてもらえなかったそうです」(Sさん・38歳・4年生のママ)

 

と明確に説明できず「決まりだから…」とだけ言われた人もいました。

 

「ブラック校則」にも共通することですが、慣習だからと見直さないままでいると、時代や社会情勢に合わないルールや、現場の先生が説明に困るようなルールがいつまでも残ってしまうのではないでしょうか。

 

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小学校でのルール、いま現場はどうなってる?

ただ、今回、小学生のお子さんがいるママ・パパたちに話を聞いたところ、現場では必ずしも絶対禁止ばかりではなく、柔軟に対応している学校もあるようです。

 

「持ち物に書く名前。入学の時点ではすべてひらがなで、と言われましたが、2年生の懇談でふと買い替えるときはどうですか?と聞くと、もう落とし物も落ちついてきたので漢字でもいいですよと言われました」(Wさん・37歳・2年生のママ)

 

「高学年になると、子ども同士で配布したり読んだりするものは習った漢字しかダメですが、自分と先生だけしか見ない自主学習ノートなどは不問となっているようです」(Aさん・41歳・5年生のママ)

 

「うちの名字は高校まで習わない漢字の組み合わせですが、3年生頃から書けるようになったので、本人がテストも書道も4年生から漢字で書いています。先生もいいよと言っているそうです」(Fさん・43歳・6年生と3年生のママ)

 

「うちの子は保育園時代から漢字好きで、入学後に喜んで漢字を使ったら、まだダメって言われてショックを受けてました。でも、先生も本当はほめたいけどおおっぴらには言えないようで、子どもと2人のときに、こんな字知ってるのすごいな、と言ってくれるようです。子どももそこを認めてもらえているので、学校では納得して使い分けているようです」(Jさん・34歳・1年生のママ)

 

多くの先生たちも、学校の方針ならば守らないわけにはいかないけれど、子どもの意欲を伸ばしたい気持ちは持っているようです。

 

小学校によっては、漢字テストで習っていない漢字を書いた場合、合っていればおまけで得点がもらえるところもあるそうで、場合によっては「103点」「112点」をとってくる子もいるとか。

 

そのおまけの点数は通知表には反映されないのかもしれませんが、せっかくの子どものやる気を削いでしまわない、ちょっとうれしいシステムですね。

 

おわりに

漢字とひらがなの使い分けは、時期が過ぎてしまえば忘れてしまうような事柄でもあります。

 

しかし、もしお子さんが漢字に興味を持ち始めたときに、「決まりだから」だけで書かせないようにして興味を失ってしまったとしたら、それは少しもったいないと思います。

 

宿題の丸つけをするときにでも、お子さんの学校ではどんな漢字のルールがあるのか、一度たずねてみてはいかがでしょうか。

 

文/高谷みえこ

参考/小学生の方へ | 日本漢字能力検定 https://www.kanken.or.jp/kanken/primary/
平成29・30年改訂 学習指導要領、解説等:文部科学省  https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1384661.htm